2021年12月03日

『アイの歌声を聴かせて』あの謎がついに解けた?吉浦康裕監督単独ロングインタビュー!

『アイの歌声を聴かせて』あの謎がついに解けた?吉浦康裕監督単独ロングインタビュー!


なぜシオンは水洗い場の後ろに行ったのか?

――では、ぜひディテールについて知りたいことがあります。シオンは嬉しそうに水洗い場の後ろに行きます。これはなぜですか。

いくつかの意味合いが込められています。

まず1つは、シオンはずっと「観察者」あるという視点です。水飲み場の場面は2回出てきますが、その2回目でトウマとシオンが近くで話し合う人間関係があって、その時にシオンがどこの立場にいるかと考えると、やはり衝立(ついたて)の向こう側だと思ったんです。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


もう1つは、本作がモチーフにしている劇中劇のロケーションに近いということです。ああいう作品にある中庭や噴水が後ろの背景にある場所を再現するとしたら、あの水飲み場だろうとも考えました。

さらに言えば、あれは少しだけ秘密を語る場所でもあるので、教室が表舞台だとしたら、ちょっと舞台袖に引っ込むような感じの場所に水飲み場はぴったりだと思ったんです。遠くに教室の窓が見えながらも、少し離れた場所と考えると、実際にモデルにした高校でちょうどいい場所に水飲み場がありました。蛇口があって渡り廊下もあるという場所は、密かなアジトというか、隠れている場所というイメージがありますよね。

――ディテールと言えば、田植えロボットもいいですよね。淡々と田植えの仕事をしているだけかと思いきや、最後にシオンが空に送られている光景を見上げています。あれはシオン以外のAIにも「自由意思」があることの示唆だと思いました。

そのことは露骨になりすぎない程度に、色々なところに散りばめようと思っていました。他にも、ピントが合っていなくてボケている背景にも、「二度見」をするロボットがいたりもしますから。AIのそういった描写はじわじわと刷り込んできたいなと思っていましたし、それを最後にわかりやすく、帽子をとって見上げるシーンで入れたんです。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


そう言えば、最初のシーンでサトミが看板の前を通るのですが、そこには「労働支援ロボットの農作業実験中」と書いているんです。人型ロボットの農作業は別に非効率的なことをしているわけじゃなくて、あくまで実験なんですよ。

――確かに効率のことを考えたら、普通に田植えのトラクターの方がいいですよね。そういえば佐渡島に「聖地巡礼」をしていた方がいたのですが、その看板の元ネタも映っていました。

行政の意向のために置いている看板のリアリティを出したくて、実際の看板をほぼそのまま使ったんですよね。


――クライマックスで、AIたちがおそらくは自由意志で、シオンを「応援」してくれるのも感動的でした。

シオンが「カメラのみんなに頼んだ」と言っていたことが、そのクライマックスの伏線になっていますね。つまり、シオンはハッキングをしているわけではないんだと、そういう感じのクライマックスにはしたくないと考えていました。シオンが「スタンドアローン」だからこそ、ああなるんだとわかっていただけている感想も目にして、嬉しかったです。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――そう言えば、吉浦監督は『サカサマのパテマ』(2013)の上映時に『アップサイドダウン 重力の恋人』が、今回の『アイの歌声を聴かせて』でも『ロン 僕のポンコツ・ボット』が同時期に公開されていという、モチーフが似ている映画が公開されているという偶然がありましたね。

ええ、すごいシンクロニシティですよね。でも、『アイの歌声を聴かせて』における「ポンコツAI」というのは、実は制作途中では全く想定していないキーワードだったんですよ。

――そうですよね。実際の本編でもシオンはぜんぜんポンコツじゃなくて、むしろ命令を正確に守って行動している、しかも学び成長していく、超優秀なAIですから。

それでも、宣伝の過程でそのポンコツという言葉を使いたいという話があって、自分もわかりやすいしいいんじゃないでしょうかと賛成しましたね。

(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会


――劇中では悪役の西城はシオンを「我が社の製品だぞ!」などと言ってはいますが、過度にAIやロボットを貶める言動をしていないのも良いなと思いました。まあ、それでもアヤがシオンに「このポンコツ」と言っていたりはしましたが。

それは理屈による言動じゃなくて、つい出ちゃった悪口みたいなものですね。


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