<新作レビュー>『軍艦少年』老いも若きも軍艦島を象徴として絶望から希望へ導かれていく青春群像劇
<新作レビュー>『軍艦少年』老いも若きも軍艦島を象徴として絶望から希望へ導かれていく青春群像劇
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
柳内大樹の同名漫画を原作とするこの作品、いわゆるヤンキーものの域に留まることなく、父と子の確執や母親への慕情、そしてヤンチャしがちな若者たちならではの連帯や友情といった要素を丁寧に描いているのが特徴と言えます。
またそうした要素のすべての象徴として、作品全体に映え渉り続けるのが、タイトルにもある長崎県の軍艦島(本来は端島というのですね。無知で知らなかった……)。
歴史的な角度からなどいろいろな見え方をしてしまう軍艦島ではありますが、ここではどことなく一度滅びてしまったノスタルジックな存在ではありつつも、そこからいかに前向きな再生を果たしていくべきかといった、いわば滅亡と再生、もしくは絶望と希望といった相反する要素の双方を担う存在としてそびえたっている感があります。
その意味でも本作での軍艦島を常日頃から遠く見つめ続ける登場人物たちの目線の寂寥感が印象深いのですが、その寂寥感は映画が終わってもそのままなのか?それともなにがしかの変貌を遂げているのか?が見る側の意識にも訴えかけられている気がしてなりません。
また中盤で実際に主人公らが軍艦島の中を散策するシーンが出てきますが、その捉え方も秀逸で、総じて今回は撮影の良さを第一に讃えたいところもあります。
そういった軍艦島の存在に身を委ねながら、老いも若きもキャスト陣はどこか緊張の中にも安堵の感を忍ばせながら画面の中に佇んでいる節もあり、そのゆとりみたいなものが作品自体のゆとりとして、見る側をも心地よい空気感に浸らせてくれているところもあります。
もちろんヤンキー映画的要素もあるゆえに、喧嘩や暴力シーンなどの肉体的な痛みも体感させられますが、たとえば『東京リベンジャーズ』とは一味違う、どこか昭和テイストの香りも漂う(それは大人たちのノスタルジー描写も影響しているのでしょうが)瑞々しい作品に仕上がっているのは世代的にちょっと嬉しいところではありました。
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(文:増當竜也)
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