<新作レビュー>『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』、環境破壊という社会問題に真っ向から挑む




■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

2021年は日本でも『MINAMATA』や『水俣曼荼羅』が劇場公開され、改めて国内外の環境汚染問題が露にされたようにも思えますが、本作も水質汚染を題材にした実話の映画化となります。

『ポイズン』(91)『ベルベット・ゴールドマイン』(98)『エデンより彼方に』(02)など次作の中に人種差別やLGBTQなどの問題を盛り込むことに長けるトッド・ヘインズ監督ですが、今回は実話を基に、環境破壊という社会問題に真っ向から挑んでいます。

もっともこうした社会派エンタテインメントそのものはアメリカ映画が得意とするジャンル。

その中でヘインズ監督は、アラン・J・パクラ監督の『コールガール』(71)『パララックス・ビュー』(74)『大統領の陰謀』(76)の1970年代パラノイア三部作や、マイク・ニコルズ監督『シルクウッド』(83)、マイケル・マン監督『インサイダー』(99)など、権力が犯した過ちを明らかにする映画の主人公たちが苦難に直面していく中での精神や感情面の危機、つまりは心理的サスペンスに興味を持っていたとのこと。



その意味でも真実を追求し、孤立無援の闘いを強いられ、時に斃れそうになりながらも巨悪に立ち向かっていく主人公の弁護士ロバート・ピロット、通称ロブの真摯で誇らしき姿は、演じるマーク・ラファロの当たり役ともいえるマーベル・ヒーロー“超人ハルク”をしのぐヒーローであるともいえるでしょう。(ちなみに本作の監督にトッド・ヘインズを推したのは、今回製作も兼ねたマーク・ラファロだったとのこと)

特に彼の場合、そもそもは企業側弁護士であったという事実もあり、自分が彼の立場であったら、さまざまな不安や恐怖にさらされながら、同じような行動を取り続けることができるか?という自問自答の想いにも捉われてしまうこと必至。

(車の鍵を回すことまでもが怖くなる!)

個人の勇気から物語が動き出すことは往々にしてありますが、それは声を上げた人たちが非難や排斥といった精神的苦痛などの多大な困難を伴う危惧も事実も意味します。

しかし、それでも屈することなく戦い続けることで、いつか世界は動き出す……。



マーク・ラファロのみならず、アン・ハサウェイ、テイム・ロビンス、ビル・キャンプ、ビル・プルマンなどの名優たちとが結集し、そのことを熱くクールに、そして真摯に訴える秀作です。

トッド・ヘインズ監督の反骨精神とクールなエンタメ姿勢、俄然健在でした。

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(文:増當竜也)

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