<解説>映画『ジャンヌ』を読み解く4つのポイント


ポイント3:世界遺産アミアン大聖堂から観る『ジャンヌ』



ジャンヌ・ダルクの異端審問が行われたのはルーアンである。しかしながら、本作ではアミアン大聖堂で撮影が行われている。アミアンの情報サイトAmiens Métropoleでの監督インタビューによれば、マルセル・プルーストから影響を受けているとのこと。彼はジョン・ラスキンの「アミアンの聖書」に「大聖堂は、文字を読めない人のためにある陽光の中の聖書である。」と序文を寄せており、 その言葉に魅了された監督はアミアン大聖堂にて撮影することを決めた。

世界遺産であるアミアン大聖堂は13世紀にロベール・リュザルシュによって建てられたゴシック様式建築の最高傑作だ。入り口には上部のタンパンには最後の審判を受けるキリストの姿が彫られている。またタンパンをよく見ると、魂の重さを計る大天使ミカエルに対して、悪魔が地獄側に天秤を傾けようとしている様子が確認できる。『ジャンヌ』においてタンパンは映し出されないが、まさしくこの物語を象徴するロケーションであろう。垂直に高い聖堂内を見下ろすように撮る。重厚な側廊が画面に窮屈さを与え、遠くに小さく映るジャンヌの姿を通じて孤独を物語る。


『ジャネット』 (C)3B Productions

『ジャネット』では、神の「声」の存在を強調するため、見上げたショットが多かったのに対して、本作では大聖堂上部から見下ろすショットでもって、神の「声」の不在を表している。長く、激しい異端審問の末にフードを被ったエヴラール司教(クリストフ)の歌声が聖堂に響き渡る。捻り出すような声で「彼女は呪われた死者と一緒に地獄に行くだろう。」と歌う美しい音色は、男たちの視線を天に向かわせる。窓から差込む陽が、聖堂の豊かな空間を照らし、そこに何かがいるような気配を抱かせる。

前作においてジャンヌが見た聖人を他者は見ることができない。しかし、神のような存在を見ることはできる。「大聖堂は、文字を読めない人のためにある陽光の中の聖書である。」とはまさしくこのことだとブリュノ・デュモン監督は教えてくれた。

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(C)3B Productions

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