続・朝ドライフ

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2022年05月10日

「ちむどんどん」第22回:絶対ありえん。ヒロイン一家に共感しづらい理由

「ちむどんどん」第22回:絶対ありえん。ヒロイン一家に共感しづらい理由


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2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。

沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。

本記事では、その第22回をライター・木俣冬が紐解いていく。

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いじわる叔父さんのほうが正論?


お金を騙し取られた賢秀(竜星涼)がサンセットバーガーで大暴れしたことでケガをしたと下地響子(片桐はいり)が比嘉家に警官と共にやってきました。結果、歌子(上白石萌歌)が歌ったら許すということで手打ちとなりました。

歌子の澄んだ歌声に下地は大満足。でも、お金は返ってきません。960ドルの一部を肩代わりしていた叔父さん・賢吉(石丸謙二郎)が怒鳴り込んできました。

一家総出で働いて返してもらうしかないと容赦ない叔父さんは、暢子(黒島結菜)が東京に行くと聞いてお金がたくさんかかると指摘し、とんでもないことだと猛反対。

暢子はせっかくの希望を摘み取られそうになってふつふつと怒りを溜め込みながら、夕食の支度をします。問題をつくった張本人の賢秀はおなかすいたとごろごろ。包丁の音が怒りの音に聞こえます。次第に
怒りは大きくなって……朝ドラでなければ、包丁でぶっ刺してもおかしくないほどの賢秀の悪びれなさ!

「ありえん」「絶対ありえん」ですよね……。
賢秀の言動はありえんし、優子がのんびりし過ぎているのもありえんし、暢子も突然、東京で西洋料理を作る!って飛躍しているし……。もっと理性を働かせることはできないのかと見ていてもどかしくなります。

でも、にーにーが「うれしかったわけよ」「はじめて褒めてくれた人を信じたかった」という言葉に暢子はすこしだけ心を動かされて見えました。彼女も料理コンテストで家族以外の見知らぬ人たちに料理を美味しいと言って食べてもらって嬉しくなった体験をしているので、兄の気持ちもわかるのでしょう。

賢秀は、生き方の指針となるはずのお父さん・賢三(大森南朋)を失くしてからずっと孤独なのだと思います。エネルギーだけは人一倍あるけれどそれをどうやって使っていいかわからなくて持て余す気持ちは暢子も同じでしたから、彼の苦しみを理解することができる。

父なき比嘉家、優子(仲間由紀恵)がひとりでなんとかしてきたものの、生活費を稼ぐだけでいっぱいいっぱいで、子どもたちの教育にまでは手が回らないようです。良子(川口春奈)は自分で道を見つけてコツコツやっていて、歌子は下地先生に出会って歌の才能を伸ばしてもらえそうですが……。

ほんとうなら、叔父さん夫婦がすこし世話してくれたらよかったと思いますが、彼らもたぶんカツカツで、お金のことしか考えていません。にもかかわらず、ここまで比嘉一家があとさき考えない場当たり的な行動ばかりしているので、叔父さんの言ってることのほうがまともだとSNSでささやかれはじめました。賢三が亡くなったときの叔父さんの態度は血も涙もないと批判されていたのに! 

比嘉家の惨状を現代に置き換えて考えると、生活保護をかたくなに受けない人たちのような、行政が適切に機能していないことと、市民が適切な情報や知識を得られていないために、生活が困窮するばかりというような状況に近いのではないでしょうか。

比嘉家がこんなふうに困ってしまっているわけは、沖縄がこの時点ではアメリカ統治下にあり、日本ではなかったからとも考えられそうです。日本とアメリカの間にあって、どちらからも中途半端にされていたから、比嘉家のように取り残された人たちが存在しているのではないでしょうか。お金にうるさい叔父さん夫婦も犠牲者と言えないこともありません。そういう意味では下地先生のように外から手を差し伸べる存在が重要になってきます。良子のように学問する必要もあります。

賢秀もついに決意して家を出ます。その置き手紙の誤字がひどい。
旅立ちのバス停にはまた物言わぬまもるちゃん(松原正隆)がにいて……(子役時代の暢子が東京に行く決意をしたときもいました)。「だいじょうぶ。ほら、見ている」のは他ならぬまもるちゃんなのでは。


(文:木俣冬)


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