2022年05月26日

「このラストは“エンド”ではない」映画『恋い焦れ歌え』主演・稲葉友インタビュー

「このラストは“エンド”ではない」映画『恋い焦れ歌え』主演・稲葉友インタビュー


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初の長編主演映画『恋い焦れ歌え』で、性暴力に遭ったことで人生が180度変わってしまい、そこから生きる力を取り戻していく主人公・仁(ひとし)を演じた稲葉友。大変だったことや監督や共演者とのエピソード、生きる力になっていることなどたっぷりお話を伺いました。

仁と自分が似ているのは「言葉に対して潔癖症」なところ


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――稲葉さんから見て、今回演じた仁はどんな人だと思いますか?

稲葉友(以下、稲葉):もともと自意識の強い人、人にどう見られているのかをすごく気にする人なのかなと思いました。臨時教員という形で働いていてなかなか正規の雇用になれず、妻がしっかり働いて稼いでいて……。ずっとどこか負い目みたいなものがあるのかな、と。そういうことを全く気にしないタイプではないというか。

――仁とご自身が似ているなという部分があれば教えてください。

稲葉:言いたいことや思いがあっても飲み込んでしまったり、自分の中で折り合いをつけてしまったりする部分は似ているなと思いました。あと、仁の言葉に対するこだわりがあるところ、言葉に対して潔癖症なところ。彼は国語教師だからということもあって、僕とは方向性が違うんですけど、僕も「この言葉はこういう意味で使う」「こういう場面にはこういう言葉がいい」と考えてこだわるのがすごく好きで、そういうところはちょっと似てるかな。

――稲葉さんも言葉にこだわりがあるんですね。

稲葉:はい、自分の使う言葉もですし、芸人さんのツッコミもいわゆる秀逸なフレーズと言われるものってあるじゃないですか。そういうものを「今この場面でその言葉が出てくるのか」とか、「あ、その発想すごいな」と注目したりします。

暴行シーンの撮影は、人には話しがたい経験として残った


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――今回、感情を想像するのが難しい部分もある作品だったのではと思いますが、どんな風に役作りを進めていきましたか?

稲葉:暴力を受けるシーンということでいえば、こう作ろうということよりも、撮影自体に長い時間をかけていろんなアングルを探りながら撮っていただきました。もちろん実際と全く同じことをされたわけじゃないから想像や理解が難しいとこともあるとは思うのですが、自分の中でトラウマ要素やフラッシュバックする感覚を味わって、人には話しがたいものになっているくらいには体験として根付かせて作品を作れたかなと思います。

言葉にするのが難しいんですけど、僕の中で一事件としてしっかり楔が打たれたシーンになったので、その体験をもとに作っていったという感じです。


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――進めていく中で、熊坂出監督と相談して決めたことは結構あったのですか?

稲葉:そうですね、熊坂さんとは撮影の前から「こういう風な作品なんだ」とか「こういう役だと思うんだ」というお話はお互いさせてもらったんですけど。「とにかく稲葉友でいてくれれば」と言ってくださったのがすごく救いでした。

先ほど質問していただいたみたいに、なかなか想像や追体験が難しいことだったので、役者が演じる上でそこを気にしすぎて「この出来事があったからこういう身体になってこういう考え方になって」と”状態”を作ることにとらわれちゃうと、もうそれは嘘になっちゃうから、気にしすぎることはないんだ、と。いろんな角度から心を軽くしてくださいました。

大変なシーンしかなかったけど、振り返ると全部いい思い出


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――つらいシーンも多い作品ですが、特にここはしんどかった、というシーンはありましたか?

稲葉:しんどいところはいっぱいあるんですけど、「ここがしんどい」と挙げるのは難しいですね……もちろん暴力を受けるシーンは撮影する中でちゃんと怖かったしちゃんとつらかった思い出があるので、心身ともにすごく疲弊したシーンではありました。KAI(遠藤健慎)と出会ってシェルターに連れていかれ、人がたくさんいるところでラップをする場面も、長回しでチャレンジングな撮影の仕方で感情が動いていって……という一連の流れを撮るのも大変でした。

でも大前提として「大変じゃないシーンなんてないな、今回」と思っていたから、振り返ると結構全部いい思い出になっているんですよね。もちろん体力的には大変だったし精神的にやられたなと思うし、完成した映画を観て「大変だったな」と思いはするけど、大変だったという思い出がいちばん上にはこないので「このシーン大変だったんですよ」という伝え方にはならないかもしれないです。「現場のみんなで作っていった」という思い出のほうが強いから、自分がつらかったんです、という感じじゃないかな。


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――では逆に、演じていて楽しかったシーンを教えてください。

稲葉:子どもの俳優部の方たちとのシーンがあるんですけど、セリフのない部分でも自由にやってくれる子たちが多かったので、彼らとのやり取りは大人のほうが油断できない、スリリングな感じで楽しかったです。

教育実習か先生になりたてくらいの頃の回想のシーンがあるんですけど、事件が起こる前の数少ないシーンだったから、そこは楽しかったなぁ。子どもにすごく詰められて、仁なりに「これはいいことなんだけどこれは駄目なことで……どうしよう」となっていて。まだそこまでひねくれてない頃の仁というか。ピュアなやり取りが楽しかったですね。


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――生徒に告白されるシーンもありましたね。

稲葉:かわいいんだよなぁ(笑)。

――撮影の合間はどんな雰囲気でしたか?

稲葉:和やかだったと思う……どうですか? 和やかでしたよね?(スタッフさんに確認する)

僕がずっと人殺しみたいな顔をしていただけで。ピリピリしていたわけじゃないんですけど、これをしようとかあれをしようと考えていたら本当に余裕がなくて、どうしても顔が笑っていなかったらしいんですよね。むしろそのぶんまわりのみんなに甘えていたというか、助けてもらっていた感じですね。


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――他のみなさんは楽し気な感じで?

 
稲葉:そうですね、特にシェルターのシーンでは実際ラップをやってる子たちがたくさんいたので、サイファー(複数人が輪になってラップを披露すること)をしていたりして。すごく混ざりたかったんですけど、混ざる余裕がないというよりは「役として今ここで混ざっちゃうのは違うかもな?」ということも気にして見守ってましたね。遠藤健慎がみんなとわいわい楽しくつながってくれていたのでよかったです。僕は「ごめんね、頼んだよ」という感じで(笑)。

――遠藤さんはムードメーカー?

稲葉:そうなんです、彼の快活さと視野の広さにはすごく救われました。

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