「わからないことを楽しんで良いし、恥じなくて良い」又吉直樹×モトーラ世理奈に寄り添う“モノ”の存在
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又吉直樹が書き下ろしたオムニバスドラマ『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』(全8話)が5月27日(金)23時30分よりWOWOWにて放送・配信スタートする。「椅子」と女性の人生を重ね、1話につき1脚の実在する著名な椅子が登場する本作。その3話『海へ』と4話『オモイデ』で主演を務めたのがモトーラ世理奈だ。
今回は、脚本を担当した又吉直樹とモトーラ世理奈にインタビュー。本作にまつわるエピソードのほか、又吉が考える「おもしろさ」と「わかりやすさ」の関係性、2人の人生に寄り添ってきた“物(モノ)”について語ってもらった。
無理に演じない、即興芝居でのこだわり
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――3話『海へ』と4話『オモイデ』で主演を務めたモトーラさん。台本をもらった時の感想を教えてください。
モトーラ世理奈(以下、モトーラ):『海へ』を最初に読んだ時は、肘にラムネを置いて食べるシーンがずっと頭に残りました。「なんで肘なんだろう」って。一方の『オモイデ』はイメージがしやすく、本当にありそうな等身大な話だなと感じました。ただ、恋愛が絡むような役を演じるのはほぼ初めてだったので「どうしよう」と不安でしたね。
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――『海へ』では、堀田真由さん、河合優実さんとの即興芝居が印象的でした。あのシーンはどのように作り上げたのでしょうか?
又吉:あのような日常的な雰囲気をセリフにするのって、本人たちの言い回しもあるものなので、すごく難しいんですよね。だから、皆さんの日常が出る発射台のようなものになればいいかなと、あまり細かいところまでは詰めませんでした。漫才とかコントでも脚本通りにというのは、絶対にやれないんです。やり始めながら、自分の体に合った言葉に変えていく作業をするのがほとんど。だから希望を伝えた上で「無理に演じなくても」と伝えました。
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モトーラ:即興シーンについては、台本を読んで疑問に思う部分があったので、監督にいろいろ質問をしようと思っていました。でも、質問する前に「とりあえずやってみよう」ということになり……。いざ始まってみたら自然に波長が合いました。堀田さんはプライベートでも知っている方でしたし、河合ちゃんともすぐに打ち解けられたので、3人の関係性がすぐに出来上がったんですよね。
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又吉:仕上がったものを見て、とても自然な雰囲気になっていたので「良いな」と思いましたよ。
モトーラ:本当にそのままな部分も多いと思います。服をどんどん脱いで行くシーンで、引っ掛かっちゃって脱げなくなるところがあったのですが、あの部分は完全にハプニングだったんですよね。実際の撮影中は3人とも「どうしよう」と焦りつつ会話していたので、まさかそのテイクが、そのまま使われるとは思いませんでした。
おもしろさには「共感」と「発見」がある
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――本作のオファーを受けた時に又吉さんが「書いているときからできるだけ、自分がわかっていない感情になるようなものを描こうと心掛けた」とコメントしていたのが印象的でした。「わかっていない感情になるように」と意識するのは難しい気もしますが、どのように作り上げていきましたか?
又吉:出口を意識しすぎないようにしました。もし出口にこだわってしまったら、どっかで見たことあるものになっちゃうのかなと思ったので。実験と言うのは大袈裟かもしれませんが難しいことに好奇心を持ってもらって「最終的にどうなるんだろう」と興味を持てるような話にしました。
ただ意味がわからないものって、共感できなかったり、笑えなかったりするので、みんなすごい嫌だと思うし、そう思うのが普通だと思うんですよね。だから、ただわからないのではなく「よくわからんけど、意味わからんけど、よかったな」と思えるものを目指しました。
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――以前、又吉さんがラジオ番組中に「わかること=おもしろい、ではない」とおっしゃっていたのを思い出しました。又吉さんが考える「おもしろい」とはなんですか。
又吉:僕にとって「おもしろい」というのは、1つじゃないと思っています。まず、映画やドラマを見ながら「わかるな」「自分のことだな」と思えるのは「共感のおもしろさ」です。一方で「これは自分のことじゃないな」「全然わからないな」と思えることには「発見のおもしろさ」があるんじゃないかなと思っています。複雑で難解なものはおもしろくない、理解できること簡単であることはおもしろいではなくて、どちらにもおもしろさはあると思うんです。
――わかっていないことを「おもしろい」と言うことで「わかっていないくせに」と言われるんじゃないかと、軽率に言えないことがあります。
又吉:僕はもっとわからないことを楽しんで良いし、恥じなくて良いと思うんですよね。たしかに絵とか音楽とか「好き」ということで「センスあるぶってる」と言われる作品ってありますし、そういう作品の大半が僕の好きなことなんですよね(笑)。でも、好きだけどわからないこともあります。
愛想が良くて、優しくて、しゃべってたら楽しいクラスメイトの方が人気者になると思うんですけど、人と仲良くなるのに時間がかかる「難しいこと言うてんな、ずっと」って人が同じ教室にいて、その人を好きな人がいるのと同じで、この世の中にある作品には平等にそれぞれのおもしろさがあると思うんです。
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――なるほど。お話を聞いて、理解していないのに好きと言っても良いんじゃないかと思えた気がします。
又吉:人類史上、相当頭がキレているソクラテスが「自分が人より賢いって思える1つは、自分が無知である、自分には知らないことがあるっていうことを知ってるから」と「無知の知」という概念を言ったのって、一見むちゃくちゃですが、すごい説得力があると思うんです。むしろ「全部をわかってます」っていう方が嘘。わからないことがたくさんあるのは当然やし、感じ方の正解を考えずに好きなことを楽しむのが1番かなと思います。
人生に寄り添ってきた“物(モノ)”
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――本作は1話につき1脚の著名な椅子が登場するオムニバスドラマです。椅子に対して感じた新たな発見があれば教えてください。
又吉:もともと椅子は好きだったのですが、椅子の個性にあった物語にしたいと思い、どこでできた椅子なのか、主にどこで使われていたのかとかを調べるうちに、そもそも椅子1つ1つにちゃんと物語があるんだなと考えさせられましたね。例えば4話に出てくる「Y-チェア」は、使いやすくて僕も欲しいくらい。でも、その背景には中国にかつてあった椅子のリデザイン、過去のものを現代的に解釈して作り直していったとの歴史があって。10年後、20年後、誰かが「さらに現代的に!」と解釈したら、どうなっていくのだろうと興味を持ちました。
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モトーラ:3話に登場する「ラ シェーズ」は1度見たら、忘れられない形、印象に残るモノだなと思いました。ちょうど、その後で北海道の東川の図書館を訪れた時に、名作椅子のミニチュアコレクションがあったのですが、そこにも「ラ シェーズ」が飾ってあって、すぐに目に留まりました。
又吉:「ラ シェーズ」はあるだけで絵になる、座るためだけのものではない域まで行っていますよね。100年経ったら妖怪になるみたいなのと一緒で、デザインがかっこよすぎて、何か力を持っているんじゃないかと。だからこそ、物語を書くのは難しかったです。「デザイナーのオフィスにならあるかな」とも考えましたが、それだと「ラ シェーズ」を「ラ シェーズ」として扱いすぎているのかなと思い、あえて外に出す、みんなで運ぶ物語にしました。
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――本作を拝見し、椅子は知らず知らずのうちに人生に寄り添っているような感覚を覚えました。それにちなんで、おふたりの人生に寄り添ってるものを教えてください。
モトーラ:私は洋服ですかね。その時、何を着ているかで自分のテンションが変わりますし、自分が好きなものを見つけていることで助けられること、「今日も1日頑張れる!」と奮い立たされることがあります。
又吉:僕は本、主に小説ですね。同じ小説を何回も何回も読んでしまうのですが、小説には僕らが読み取れるもの以上のものがたくさん隠されているんですよね。だから、中学生の時の僕がある本を読んだ時に衝撃的な1文に出会い、その余韻で気づけなかった魅力に大人になってから会えることが嬉しいんです。衝撃を受けた中学の時の僕にも寄り添っているし、その衝撃が軽減された後で浮き上がってきた言葉は、その時の自分に必要なものを提示してくれているという意味でも寄り添っている。自分に合う本と出会うために、いろんな本を読むことも含めて、ずっと僕の人生に寄り添ってくれているなと思います。
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(撮影=Marco Perboni/取材・文=於ありさ)
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