俳優・映画人コラム

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2022年06月12日

<濱田岳>濃淡のある存在感|「マイファミリー」で見せた“何かありそう感”

<濱田岳>濃淡のある存在感|「マイファミリー」で見せた“何かありそう感”


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「マイファミリー」初回登場時から「何か裏があるのでは?」とにらんでいた視聴者も多いのではないだろうか。濱田岳のことである。

「マイファミリー」で鳴沢温人(二宮和也)・未知留(多部未華子)の大学時代の友人・東堂樹生を演じている。

濱田岳(と三輪を演じる賀来賢人)が出てきて「ただの友人」である可能性は低い……何かしら事件に絡んでいるのではないか? と初回では思ったわけだが……。

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作中で見せる異様な存在感

若手名バイプレーヤーとして数多くのドラマ、映画に出演している濱田岳。

近年では「釣りバカ日誌」で主人公の浜崎伝助であったり、ドラマ「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)で主演を務めるなど活躍を続けている。

見るからに人が良さそうで、悪いことなんて絶対にしなさそうなのに、ふとしたときに理由のないゾッとするような恐怖を感じさせる濱田岳。

ニコニコしているのに、「あ、この人絶対に心では笑っていないな」と分かるのに、どうして笑っていないかのかが理由が分からない。次の行動を読めずに、少し距離を置いたほうが良いのでは、と思ってしまう。

「マイファミリー」前半で見せた頼もしい表情



親友の娘が誘拐されて、犯人との交渉をしていく中で、元警察官の東堂はとても心強い存在に思えた。

豊富な知識、警察官としてのノウハウは温人たちの力になった。メンタル面でも未知留たちをサポートし、衝突しやすい三輪と温人の間に割って入った。

怪しいと思ってごめん……と友果を取り返した時点では思ったものだ。

しかし、実は娘を誘拐されていて、5年間娘の行方もわからない、犯人も捕まっていないという事情が明らかにされる。そんな中で友果を取り返すために協力していたのか……と思うと胸が痛む。

だが友果の誘拐事件について、暴露本を出したことについては疑問が浮かぶ。どうみたってそういうことをしそうなのは三輪である。自分の娘を取り戻すためにしたとは言え、それまでの真摯な対応も違和感が出始める。

己の行動をカバーする「人の良さ」の演技



視聴者が度肝を抜かれたのは、友果と三輪の娘を誘拐したのが東堂だと明らかになった第7話の終盤だ。

全10話のドラマの中で、7話の間、ずっと視聴者を騙し続けた。友果がショックを受けている状態も東堂は見ている。三輪はどんな気持ちであの場にいたのか、と憤るが本当にその通りである。

その行動に視聴者からのヘイトを集めてもおかしくない。それでも、濱田岳の演技力に圧倒され、「裏切られた」という印象を受けた視聴者は少ないはずだ。

どう考えても、自分の娘の誘拐事件の捜査を再び本格化させるために模倣誘拐をするというのはおかしい。暴露本を出したのも、尋常な人間がすることじゃない。



冷静を装っているけど、全く冷静な行動ではない。にもかかわらず、緻密な計画を立て、実行し、成功させている。静かに、ずっと狂っている。なのに、その狂気を感じさせない演技。

濱田岳が演じる東堂を前にして、どれだけの人が冷静な判断ができるだろうか。

「旧知の人が辛い目に遭い、結果、理不尽な行動をしたことを告白」するシーンにおいて、聞いている側は冷静に判断できなくなる。視聴者もだ。

「申し訳なくて、死にたくなった」という東堂に、私たち視聴者はもはや彼の告白と苦しみが嘘だとは思えない。
この作品の肝は濱田岳の演技であり、第7話までコントロールされてしまっていたのだ。

怪しくても怪しくなくても「何かある」と思わせられる



結果的に「マイファミリー」での濱田岳は「本当に裏があった」わけだが、初回時からそう思わせられたのはこれまでの出演作の積み重ねがあるからだ。

なんとなく嘘をついている気がする、裏がある気がする、というだけで観る側はすでにその作品の思うツボ、にはまっている。

2021年のドラマ「シェフは名探偵」(テレビ東京系)で濱田は、会社をリストラされたあと記憶力の良さを買われてギャルソンにスカウトされる。

レストランを舞台に、西島秀俊演じるシェフの三舟が持ち前の洞察力や推理力で、客が巻き込まれる事件や謎を解き明かしていくという物語なのだが、そこでも濱田は「なにかやっていそう」な空気を持っていた。実際に作中でもある出来事で疑いの目を向けられるシーンがあった。

さらに西島の「シェフだけど実は諜報員などではないのか……」と思われてしまう部分もあり、危険なことはなにもないのに超ド級のミステリー作品の匂いを醸し出していた。



ひとりの俳優で作品のイメージが左右されるのは良いのか悪いのかは賛否あるかもしれないが、濱田の“存在感があるのに存在感を消すことができる”のも魅力のひとつ。怪しさがありつつも空気にもなれる。

そして、必要とあればその存在を濃くする。その魅力が名バイプレーヤーであり、主演としても存在感を発する所以なのかもしれない。

(文:ふくだりょうこ)

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