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2022年07月29日

<ネタバレ解説>映画『ゆるキャン△』社会人に沁みる「5つ」の絶賛ポイント

<ネタバレ解説>映画『ゆるキャン△』社会人に沁みる「5つ」の絶賛ポイント


1:「声が聞こえなくなった」理由

主人公の1人であるしまりんは、地方ローカル誌の編集者として働いていたが、名古屋のカフェ巡りの企画がボツになってしまう。そして、後にキャンプ場作りをすることになる地に千明と共に向かって、そこで何気なしに松ぼっくりを拾う。これまでの「ゆるキャン△」での松ぼっくりは、こういう時に「コンニチワ」などと語りかけてくれるのだが、この時のしまりんには何も聞こえてこないのである。

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「いつもは聞こえているはずの声が聞こえてこない」のは、それだけじゃない。序盤のLINE(的なメッセージアプリ)でも、メッセージが画面に表示されるだけで、いつもの「野クル」のメンバーの声が聞こえてこないのだ

この時のしまりんは、声に出さなくても、「趣味であるキャンプを楽しむどころじゃない」ほどに落ち込んでいたのかもしれない。声を出さない松ぼっくりを拾った直後に、キャンプ場予定地の端っこまで行って「ここまでか」と言ったのは、社会人としての「限界」そのものを示しているようにも思える。

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声が聞こえるようになったのは、しまりんがその場で富士山から登ってきた朝日を見た後、千明からなでしこへの「(名古屋から山梨へタクシーで向かうから)メーターガンガン上がってやばいぜ〜!」のメッセージからだ。そして、みんなで「テスト」のキャンプをしたときに、松ぼっくりはやっと「コンニチワ」と言ってくれる。

そして、縄文土器が発掘されキャンプ場作りそのものがなくなってしまった後に、なでしこからのメッセージは再び「無音」になっていた。どんな時にも弱音を吐かない、クールに見えたしまりんであっても、日々の仕事への悩み、そして「どうにもならないこと」への無力感が蓄積されていたのかもしれない、と思わせるのだ。

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また、しまりんが「ひとくちつかポン」というお菓子の夢を見るシーンがある。その中では、つかポンに変身した同僚のみんなが、「無条件で」「嬉しそう」にしまりんを見送ってくれていた。現実のしまりんは、自分がキャンプ場作りにばかり目を向けていて、その企画自体がなくなった上、その皺寄せが先輩社員の刈谷に向かってしまったという自責の念にも囚われていたのだろう。この夢はしまりんの理想がそのまま表れていた、とも言えるかもしれない。

2:「雨」の表現

映画の中の「雨」は、登場人物の「涙」を示すことが多い。これを踏まえて観ると、本作はさらに味わい深くなる。

例えば、閉校となった小学校を見ていたあおいは、「先生をやめるわけやないんやし……まあ、さみしいはさみしいけど……」などとしんみりと心境を言うが、すぐに「ウソやでー」といつものおどけ方をする。その直前にあおいを傘の外へ押し出していたりもした千明は、今度は傘を後ろに放り捨てて、「こいつ〜!」と言いながら、あおいの雨の中で楽しそうに追いかけるのだ。

この時の千明の行動には、「自分も雨の中にいる」ことで、あおいと泣きたくなるほどさみしい気持ちを共有している、だけどいつものようにふざけあって明るくしようとする、そのような友達想いの健気さが表れたように思えたのだ。

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その直後に、恵那はチワワのちくわの希望に答えるように玄関の外を一旦観るが、雨のために一旦はやめてしまう。その後に晴れた日に散歩をするちくわは、周りの犬と比べて遅く歩いていても、恵那は「ゆっくりでいいんだよ」と言ってくれる

悲しい出来事が起きて、それこそ雨が降るように泣いてしまいたくなることもあるかもしれないけど、いつかは晴れるし、ゆっくりと歩いて行っていい。恵那とおじいちゃんになったちくわの関係からは、そのような優しさを感じるのだ。

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そして、キャンプ場作りが再開した後、完成間近になった時にも激しい雨が降ったりもするが、みんなは「退避〜!」と言って逃げ込むという、「らしい」ギャグめいた対応をしている。雨=悲しみには負けないぞ!な彼女たちのたくましさが、そこで思いっきり表れたように見えた。

3:「タイミング」の物語

冒頭では、富士山と花火を同時に見たなでしこが「花火大会に合わせて(キャンプに)来て良かったよ!」と言う。つまりは「タイミングがぴったり合った」ことを喜んでいるのだが、その後には社会人になったみんなの「予定が合わない」という事実が多く示されている

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恵那はペットのトリミングサロンの仕事で来れない時があった。5人揃った時には「週末戦隊作業着レンジャー」と自分たちを呼び、平日で3人しか集まれなかった時には「平日戦隊作業着レンジャー」と名乗っていた。そして、しまりんだけが大晦日も仕事で初詣に行けず、ひとりでカップそばを職場で食べていたこともあった。

これまでの「ゆるキャン△」でも、「全員参加」にならなくてもそれはそれで楽しいキャンプをする様、さらには孤独やさみしさも含めての「ソロキャンプ」も良さも示していた。今回の映画では、予定が合わないことが「社会人あるある」として打ち出されていると同時に、それでも気落ちをせずに明るくふるまう、みんなの「らしさ」がより強調されているように見えた。

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そして、ラストではなでしこが「みんなで年越しキャンプをしようよ!今度はりんちゃんも一緒に!」と言って、しまりんが「とりあえず、考えとく」と、やはり「らしい」返答をして、映画は幕を閉じる。仕事が忙しくてなかなかタイミングが合わなくても、いつかは友達と一緒に楽しいこと(キャンプ)ができるかもしれない。その未来への「可能性」を示すこと、それ自体が社会人にとっての福音となり得るだろう。

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