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2022年09月03日

「雪女と蟹を食う」第9話:一騎の話で浮き彫りになる、彩女(入山法子)が愛するもの

「雪女と蟹を食う」第9話:一騎の話で浮き彫りになる、彩女(入山法子)が愛するもの

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

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重岡大毅が主演を務めるドラマ「雪女と蟹を食う」が2022年7月8日より放送を開始した。

冤罪により人生を狂わされた男・北(重岡)が死ぬ前に蟹を食べようと思い立ち、図書館で出会ったセレブ妻・彩女(入山法子)を襲おうと家に押し入る。そこで彼女は思いもよらぬ行動をとり、謎の旅がはじまっていくというラブサスペンスドラマだ。

本記事では、第9話をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。

「雪女と蟹を食う」第9話レビュー

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会


マリア(久保田紗友)と別れた北(重岡大毅)は、教会で彩女(入山法子)と再会することができた。2人は小樽の街を楽しむなど、これまでの生活に戻ったかに見える。

ところが彩女は、北がいなくなっていた間のことを一切尋ねない。疑問を抱いた北は彩女を問い詰めるも、「感情に任せて怒る女性のほうが男の人から見れば可愛げがあるのかもしれませんね。でも私はもう泣きたくても涙が出なくなってしまったの」と表情のない顔で告げられる。

今回は、彩女の過去が、一足先に稚内へ向かった彩女の夫・一騎(勝村政信)の目線で明かされた。

一騎に恋をした高校生の彩女は、教師を辞め小説家として生計を立てるという一騎についていくことに。しかし、数年後には生活がままならなくなり、ついに一騎は仕事を探すと彩女に言うのだった。

彩女は、お金のことは何とかすると言い残し一騎の元から姿を消した。1か月後、500万ほどのお金を作って戻ってくる。困惑する一騎を前に、彩女は微笑みながらそのときの経験を綴った日記を託す。この日記こそ、一騎が書いたベストセラー小説「蝉時雨」の元となったものだった。

「おだまきの花のようだった少女が、冷たい雪女になり果ててしまった」と一騎は言ったけれど、一騎の前で彩女が笑う描写は、高校時代を含めてもお金と日記を渡す場面だけだったのではないか。

高校時代の彩女の言った「必ず先生の役に立ちます」という言葉も、大人になってからの「私があなたを日本一の作家にしてみせます」という言葉も、一貫して一騎を小説家にすることのみを指しているように聞こえる。お金は何とかすると言ったときだって、嬉々としているようにすら見えた。やっとこのときがきた、とでもいうように。

つまり、彩女が愛していたのは一騎の小説家としての才能……というより、小説家として生きる一騎、一騎を一流の小説家たらしめる自分だったとしたら。

だって彼女は、ベストセラー作家となった後もあまりうれしそうではなく、原因を自分が凡庸であることのせいにしていたのだから。「蝉時雨」で一騎を太宰治にできなかった、その一点を悔いていたのだろう。

そして一騎は、今回納得のいくものが書けなかったら、小説家を辞める覚悟だという。そのことを彩女が知っていたのなら、「蝉時雨」を超える体験を自分に課し、一騎に託そうとしているはずだ。今回の彼女の一連の行動の意味が、少しだけ理解できそうな気がする。

そうはいってもやはり、彩女の愛は歪だ。もちろん何をどう愛するかは人によって様々だが、彩女の強く歪な愛に戸惑い、心が離れてしまっていたとしても、一騎を責めることは難しいと筆者は感じる。

また、気になったのは巡(淵上泰史)が一騎と通じていたこと。2人は「蝉時雨」になぞらえて彩女が一騎を殺しにくる、と考えているらしい。彩女と一騎の再会がどのように訪れるのか、気になるところだ。

再びはじまった北との旅で、また表情を取り戻したように見える彩女。ところが、同じ入道雲も、もう同じようには見えていない。青空に伸び伸びと広がり蝉の声も聞こえない静かな北の入道雲に対し、狭い暗いところから切り取られた蝉の声が鳴り響く入道雲を見ている彩女。彼女はどんどん自分の内にこもっているようだ。

愛するもののために身を尽くし、裏切られて涙も枯れ果ててしまった彩女の心に、雪解けのときは訪れるのだろうか。2人の旅は、いよいよ稚内に突入する。

(文:あまのさき)

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