映画コラム
【第35回東京国際映画祭】映画ライター注目の作品“10選”
【第35回東京国際映画祭】映画ライター注目の作品“10選”
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10月24日(月)から開催される第35回東京国際映画祭。
有楽町、日比谷、銀座エリアを中心に117作品もの映画が上映される。今回はこのラインナップの中から筆者が注目する作品を「10本」紹介していく。上映スケジュールも併せて記しているため、ぜひ参考にしてほしい。
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1.『生きる LIVING』(クロージング作品)
誰が想像できただろうか?
黒澤明監督の名作『生きる』がリメイクされることを。それも『ラブ・アクチュアリー』のビル・ナイ主演、脚本が「日の名残り」「わたしを離さないで」などで知られるノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ。そして、南アフリカ共和国出身であるオリヴァー・ハーマナス監督であることを。
オリヴァー・ハーマナス監督は2011年に『Beauty』でカンヌ国際映画祭クィア・パルムを受賞している。同性愛者を嫌悪しつつも、男性と関係を結ぶ男の複雑な心理を重厚に描いたオリヴァー・ハーマナス監督。第二次世界大戦直後のイギリスに場所を変え、退屈な毎日を送る男が子どもの遊び場を作る話をどのように語り直すのか注目である。
©Number 9 Films Living Limited
※本作はチケット先行抽選販売対象作品となっている。9月23日(金)12:00〜9月26日(月)23:59の期間に専用ページから申し込む必要がある。同様に、先行抽選対象となっている作品は下記の通り。
・『ラーゲリより愛を込めて』
・『そして僕は途方に暮れる』
・『イニシェリン島の精霊』
・『仮面ライダーBLACK SUN』
【作品情報】
監督:オリヴァー・ハーマナス
出演:ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ
上映時間:103分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
TOHOシネマズシャンテ(Screen1)
11月2日(水)18:40〜
角川シネマ有楽町
11月2日(水)19:00〜
2.『ライフ』(コンペティション)
もしも、会社の重要なデータをうっかり消してしまったらあなたはどうしますか?
新鋭エミール・バイガジン監督が描くのは、働く者にとって肝が冷えるであろう企業のデータ消滅に関する物語だ。会社に就職した男アルマンはうっかり会社が取り組んでいたデータを全て削除してしまう。彼はデータを復元するか、会社の損失を補うための資金繰りを迫られる。
昨今、カザフスタン映画が世界の映画祭で注目を集めている。昨年の『ある詩人』に引き続きカザフスタン映画がコンペティション部門にて選出された。
©Emir Baigazin Production
『ハーモニー・レッスン』で東京フィルメックス審査員特別賞を受賞し、『ザ・リバー』では東京国際映画祭コンペティション入りを果たしたエミール・バイガジン監督は背筋の凍る修羅場をどのように魅せるのだろうか。
【作品情報】
監督:エミール・バイガジン
出演:イェルケブラン・タシノフ/カリナ・クラムシナ/イェルジャン・ブルクトバイ
上映時間:172分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
TOHOシネマズシャンテ(Screen1)
10月25日(火)13:40〜
丸の内TOEI(Screen1)
10月29日(土)13:10〜
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月30日(日)17:20〜
3.『第三次世界大戦』(コンペティション)
イラン映画といえば『英雄の証明』や『白い牛のバラッド』などといった重厚な会話劇が多いイメージがある。
映画祭の役割のひとつとして、既成のイメージを覆す作品や新しい才能を発掘することにある。東京国際映画祭では警察と悪党による壮絶な麻薬戦争映画『ジャスト6.5 闘いの証』を発掘。監督のサイード・ルスタイは後に『Lelia’s Brothers』でカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された実績がある。
コンペティション部門に選ばれた『第三次世界大戦』は、変わったタイプのイラン映画である。家がなく、日雇い労働者として毎日トラックの前で仕事の奪い合いをしている男。彼はホロコースト映画のエキストラに参加することになる。映画の撮影に参加していると、ヒトラー役の男が降板し代役を彼が務めることになってしまう。困惑しつつも人生逆転のチャンスなのではと思っていると今度は、知り合いのろう者の女性が助けを求めに現れる。
イランでホロコースト映画?と思っていると『パラサイト 半地下の家族』を思わせる展開へと発展していき、全く読めない展開にハラハラドキドキさせられる。一方で、雑に扱われるエキストラを通じて、数字としてしかみられない労働者像を暴き出すパワフルな物語だ。
©Houman Seyedi
監督を務めたホウマン・セイエディは、役者としても活躍する人物。本作でヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ二冠(作品賞、男優賞)を達成し、アカデミー賞国際長編映画賞イラン代表にも選ばれた。注目の1本である。
【作品情報】
監督:ホウマン・セイエディ
出演:モーセン・タナバンデ/マーサ・ヘジャズィ/ネダ・ジェブレイリ
上映時間:110分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
有楽町ヒューマントラストシネマ(Theater1)
10月26日(水)18:40〜
TOHOシネマズシャンテ(Screen2)
10月28日(金)14:45〜
丸の内TOEI(Screen1)
10月31日(月)18:25〜
4.『フェアリーテイル』(ガラ・セレクション)
アレクサンドル・ソクーロフ監督最新作。ヒトラー、レーニン、そして昭和天皇を「個人」として捉えた映画を作り、『フランコフォニア ルーヴルの記憶』ではルーヴル美術館に眠る過去の断片を拾い集め、個人の活動からフランス史を語ろうとしたソクーロフ監督。
彼の最新作は、ヒトラー、スターリン、ムッソリーニ、イエス・キリストなどといった歴史上の人物がディープフェイクによって集められ対話する内容。虚構の中の対話を通じて、歴史上の人物の本質に迫る内容になっている模様。予告編を観ると、混沌とした映像の嵐となっており、驚きの映像体験となる予感を抱かせる。
【作品情報】
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:イゴール・グロモフ/ヴァフタング・ クチャヴァ
上映時間:78分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
有楽町よみうりホール
10月29日(土)15:00〜
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月31日(月)12:30〜
TOHOシネマズシャンテ(Screen2)
11月2日(水)13:20〜
5.『コンビニエンスストア』(ワールド・フォーカス)
コンビニエンスストアで働く外国人労働者の悲惨な状況はある種プランテーションであると訴えるロシア映画『コンビニエンスストア』は決して他人事ではない。
舞台はロシア郊外のとあるコンビニエンスストア。ここでは、ウズベキスタンから来た移民が住み込みで働いている。体調が悪い妊婦も昼夜接客対応に追われているのだが、客は横暴な態度を取り、十分な金を支払わずに去っていってしまう。逃げようものなら袋叩きに遭う劣悪な労働環境を、コンビニという狭い空間で表現しており、観ている者まで息苦しく感じる。
前半と後半でガラリと変わる空間を通じて現代の奴隷制度としてのコンビニエンスストア像を暴き出す作品だ。
【作品情報】
監督:ミハイル・ボロディン
出演:ズハラ・ サンスィズバイ/リュドミラ・ヴァシリエヴァ/トリブジョン・スレイマノフ
上映時間:107分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
TOHOシネマズシャンテ(Screen1)
10月24日(月)18:30〜
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月29日(土)18:25〜
丸の内TOEI(Screen1)
11月2日(水)11:00〜
6.『R.M.N.』(ワールド・フォーカス)
ルーマニア映画界はここ20年、三大映画祭で多数の受賞を重ねている。中でもカンヌ国際映画祭常連監督であるクリスティアン・ムンジウ監督は『4ヶ月、3週と2日』でパルム・ドールを、『汚れなき祈り』で脚本賞と女優賞、そして『エリゼのために』で監督賞を受賞しているルーマニア映画界の星といえる存在だ。
ある出来事を中心に、どのように行動すればよいかと迷う様子を通じて人間を描いてきたムンジウ監督。彼の新作『R.M.N.』は、2つの軸を通じてヨーロッパにおける外国人労働者像について斬り込んでいる。
Ⓒ MOBRA FILMS, WHY NOT PRODUCTIONS, FILMGATE FILMS, FILM I VÄST, FRANCE 3 CINÉMA 2022
1つ目はドイツへ出稼ぎに行くも人種差別的な扱いに嫌気が差して故郷の村に戻ってきた男の物語。
2つ目は、かつての恋人が経営するパン屋を舞台に、人材が集まらないため、スリランカから出稼ぎ労働者を雇うことにする物語。
日本でも少子高齢化に伴い移民労働者について考えることが多くなってきた。『コンビニエンスストア』と同じく、今だからこそ観たい作品である。
【作品情報】
監督:クリスティアン・ムンジウ
出演:マリン・グリゴーレ/ユディット・スターテ/マクリーナ・バルラデアヌ
上映時間:127分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月29日(土)15:15〜
有楽町よみうりホール
11月1日(火)15:00〜
7.『タバコは咳の原因になる』(ワールド・フォーカス)
日本では空前のカンタン・デュピューブームが来ており、『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』、『勤務につけ!』が配信、『地下室のヘンな穴』が劇場公開された。東京国際映画祭にやってきたのは、異色戦隊モノ『タバコは咳の原因になる』であった。
タバコ戦隊「タバコ・フォース」は亀怪人をやっつける。しかし、士気が下がってしまったため合宿を行う内容。メンバー構成が秀逸であり、以下のようにタバコに含まれる化学物質が名前になっている。
・ベンゼン
・ニコチン
・メタノール
・水銀
・アンモニア
©2022 - CHI-FOU-MI PRODUCTIONS - GAUMONT
殺人タイヤ、語りかける革ジャンなどといった個性的なキャラクターが登場するカンタン・デュピューワールド。
今回はどんなキテレツな世界をみせてくれるのでしょうか?
【作品情報】
監督:カンタン・デュピュー
出演:ジル・ルルーシュ/ヴァンサン・ラコスト/ウーヤラ・アマムラ
上映時間:77分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月25日(火)21:35〜
有楽町よみうりホール
10月30日(日)15:20〜
TOHOシネマズシャンテ(Screen2)
11月2日(水)11:00〜
8.『クロンダイク』(ワールド・フォーカス)
今年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭ではエキュメニカル審査員賞を制したウクライナ映画『クロンダイク』は先日、アカデミー賞国際長編映画賞ウクライナ代表に選出された。
2014年のウクライナ紛争を舞台にロシア国境付近に住む夫婦が、武装勢力に侵略されながらも留まり出産の時を迎えようとする様子を描いたドラマ。家の壁が破壊され、すぐそばにまで戦火の足音が聞こえてくる状況。野原が広がっており、逃げられそうだが逃げられない状況を圧倒的説得力を持った画で観る者に叩きつけてくる作品である。
【作品情報】
監督:マリナ・エル・ゴルバチ
出演:オクサナ・チャルカシナ/セルゲイ・シャドリン/オレグ・シチェルビナ
上映時間:100分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月27日(木)14:50〜
有楽町よみうりホール
10月31日(月)15:45〜
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
11月2日(水)19:15〜
9.『波が去るとき』(ワールド・フォーカス)
東京国際映画祭では恒例イベントとしてラヴ・ディアス作品が上映される傾向にある。彼の作品はとても長いことで知られており、過去には以下のような作品が上映されている。
・『北(ノルテ) 歴史の終わり』(250分)
・『昔のはじまり』(338分)
・『痛ましき謎への子守唄』(489分)
今回上映される『波が去るとき』は、彼の作品の中でも短く188分であり、初めてラヴ・ディアス映画に触れる方へオススメしたい1本である。
一貫して、ドゥテルテ政権による麻薬戦争を批判した本作は精神が壊れていく捜査官の引き摺る痛みを描いている。どこか冷たい画の中で行われる暴力。静かに泣く子どもを前に葛藤する男を前に我々は「正義とは何か?」を突きつけられる。言葉にもならないような叫びが刺さる作品だ。
【作品情報】
監督:ラヴ・ディアス
出演:ジョン・ロイド・クルーズ/ロニー・ラザロ/シャマイン・センテネラ=ブエンカミーノ
上映時間:188分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
シネスイッチ銀座
10月24日(月)18:00〜
有楽町よみうりホール
10月28日(金)17:30〜
10.『ヌズーフ/魂、水、人々の移動』(ユース)
ワールド・フォーカス部門に選出されている『クロンダイク』は壁に穴が空いてしまう映画であった。ヴェネツィア国際映画祭にて観客賞を受賞したシリア映画『ヌズーフ/魂、水、人々の移動』は壁だけでなく床にも穴が空いてしまう作品である。
フランス生まれのシリア人監督であるスダデ・カーダンは、妻に車の運転を教えようとする『Aziza』でサンダンス映画祭短編グランプリを受賞。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭では、『私の影が消えた日』がコンペティションに選ばれている。今注目のシリア人監督である。
© Nezouh LTD - BFI - Film4
『クロンダイク』とあわせて観ることで、命の危機が迫ろうとも留まらざる得ない人々への理解が深まることだろう。
【作品情報】
監督:スダデ・カーダン
出演:ハラ・ゼイン/キンダ・アルーシュ
上映時間:104分
【第35回東京国際映画祭:上映スケジュール】
シネスイッチ銀座
10月24日(月)18:00〜
ヒューマントラストシネマ有楽町(Theater1)
10月30日(日)11:00〜
最後に
一般販売は10月15日(土)より開始となる。作品の詳細については東京国際映画祭公式サイトを確認の上、自分の観たい映画を見つけてみてはいかがだろうか。▶︎第35回東京国際映画祭サイト
(文:CHE BUNBUN )
■9月26日(月)までに申し込みが必要な作品(先行抽選)
・『生きる LIVING』
・『ラーゲリより愛を込めて』
・『そして僕は途方に暮れる』
・『イニシェリン島の精霊』
・『仮面ライダーBLACK SUN』
▶︎先行抽選申し込み専用ページはこちら
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