「silent」第1話レビュー:目黒蓮”声なき演技”の雄弁さに涙。初回から名作の予感
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川口春奈が主演、目黒蓮(Snow Man)が相手役となる「silent」が2022年10月6日スタート。
主人公・紬(川口春奈)は突然別れを告げられた元恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会。彼は難病により、ほとんど聴力を失っていた……。
音のない世界でもう一度“出会い直す”ことになった二人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語。
本記事では、第1話をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。
「silent」第1話レビュー
事前の予告や俳優陣から、非常に期待していたこの作品。期待の何倍も上をいく素晴らしさだった。
冒頭の高校時代の回想シーン。青空のなか降りしきる雪を見て
「雪降ると静かだね」と大声ではしゃぐ紬(川口春奈)に、笑顔で「青羽の声うるさい」と言うシーン。予告やストーリーを確認しているとその後のことを知っているから、「静か」「うるさい」というワードに切なくなってしまう。
そして思った。制服を着た目黒蓮と待ち合わせしたい人生だった。
上京後、CD屋でフリーターをしている紬。優しい恋人の湊斗(鈴鹿央士)とは、もうすぐ同棲をする様子。一緒に住んでいる弟の光(板垣李光人)はちょっと生意気だけど姉思いで料理もしてくれる。開始5分、ここまで綺麗な顔の男しか出てこない。
同棲する物件の内見に行く日、電車を乗り換えながら湊斗と電話する紬。話しながら見かけたのは、昔の恋人・想(目黒蓮)だった。声をかけたが彼は言ってしまい、見失ってしまった。電話がつながったままだったので、湊斗にも「佐倉くん」と呼ぶ紬の声は聴こえていた。
特に隠すこともなく、想を見かけて電車に乗り遅れたと伝える紬だったが、湊斗の表情は複雑そう。そうか、3人は同級生だったんだ。夜、湊斗は高校からの友人たちと飲み、想の話題を出す。彼が突然いなくならなかったら紬と付き合えてないだろ、的なことを言われる湊斗。
ここで再び、高校時代の回想へ。
想と湊斗はかなり仲のいい友達だった。呼び方や笑顔だけでそれがわかる。湊斗は紬とも友達で、2人にそれぞれを紹介する。お互い相手が気になっている2人をくっつけてあげたのも湊斗だった。でも多分当時から紬のことを好きで、親し気に話す2人を見てそっと教室から出る湊斗、切ない…湊斗、多分めちゃくちゃいいやつだ。
「彼氏いるの? って想が言ってたよ」と聞いて「彼氏いない、1人もいない、ぜんっぜんいない!」と言ったのに、本人を前にすると照れ隠しで違う話をしちゃう紬がかわいい。甘酸っぱい。
イヤホンをしていて「ん?なに」と聞く想がたまらない。こんなに素敵な「ん?なに」の言い方ある……? おそらく知らない音楽を知ってると言い張る紬。お見通しで「今度貸すね」と言う想。音楽を通じて仲良くなる2人がとてもいいなぁ。iPodを階段から落とすのは危険だと思うけど……!
イヤホンをしている想には言えたけど、いざ外されると言えなかった「好きです、付き合ってください」。でも想から「好き、付き合って」「すき!つきあって!」と言われて、その後スピッツの「魔法のコトバ」を聴かせてもらう、ものすごいいい青春……!
そしてスピッツ……! スピッツーーー!
きっと同じようにぶっ刺さった人が多いのではと思うが、筆者も高校時代にスピッツを聴いていたので、ああーーとなった。スピッツといえば「楓」をバンドでコピーしたなぁと思いながら観ていたら、東京のバイト先で紬が聴いているのが「楓」。曲のチョイスがたまらない。
「楓」のサビは「さよなら 君の声を 抱いて歩いていく」という歌詞で、もともと名曲だけど、まさしくこの物語の紬と想はお互いそうなんじゃないかと思えるびったり具合で、曲のこともこのドラマのこともより好きになってしまう。おそらく脚本家の生方さんも、音楽が好きなんだろうなと思う場面がたくさんあり、この後の音楽にまつわるエピソードも楽しみだ。
「好きな声だった、好きな声で好きな言葉をつむぐ人だった」
「名前を呼びたくなる後ろ姿だった」
声、音楽、おしゃべり、イヤホン。想は本当に音楽が好きだったんだなと伝わってくる。紬の想に対する思い出も音にあふれていて、一緒に振り返ると愛おしい。愛おしさや初々しさ、青春のキュンとする感じを味わう一方で、それは全部想が失ったものなんだなぁ……と絶望的な気持ちになる。
ある日、「好きな人がいる。別れたい」というメッセージだけですべて打ち切られた2人の関係。おそらく、耳のことが原因だと思うのだが。
言葉通りだと思っている紬は「好きだった人の好きな人ってどんな人ですか」と心でつぶやく。
湊斗は、想を探していた。「俺もう青羽いらないから。やるよ。あげる」と言われたらしい。失礼すぎるひどい言葉だが、想はあえて嫌われるようにそんなつらい言葉を言ったのだろうと思うと、しんどい。大好きな音楽が聴けなくなって、大事な人たちを自ら突き放したなんて、つらすぎる。そしてその言葉を紬には言わずにいた湊斗もえらい。
実家に帰って想の家を訪れた湊斗は、想の妹の萌(桜田ひより)に話を合わせて連絡先を聞き出そうとして、彼の耳が聴こえなくなったという事実も知ってしまう。「お兄ちゃんて人に甘えられないのが唯一の欠点だよね」という言葉からも、想の人柄が伝わってくる。
紬と2人で想の話になって「声が好きだった」という話を聞き、泣きそうになってしまう湊斗。一人で飲みに入った先で手話を教えている男性・正輝(風間俊介)に会い、チラシを渡されて「できれば覚えたくないですね。また普通に話したいです」というセリフも切ない。ゆくゆく振られてしまう予感しかしないけど、湊斗のこともすでに大好きでつらい思いをしないでほしいと願ってしまう。それはそうと、「普通に話す」ってなんだろう、と考えさせられる。
想の友達(恋人?)で、先天性の難聴者である奈々を演じる夏帆さんが、言葉を選ばずにいうと手話といい表情といい、接したことのある難聴の方のようですごいなと思った。なんとなく、彼女はただの友達のような気もするけど、落ちた本を両手で丁寧にひろってくれたり、表情からいい人そうだなと思う。
そして2人が本格的に再会するシーンは忘れられない。
想に会えるかもと思って降りた世田谷代田駅、落としてしまったワイヤレスイヤホンを拾ってくれた、座っていた人が想だった。紬に気づくなり黙って歩いて行ってしまう想に一生懸命話しかけるが、振り返ることはない。肩を掴んで話しかけるが、想は困惑した表情のまま。「私と話すのそんなに嫌?」と言う紬に、想が手話で話し出す。
「言葉で話しかけないで、一生懸命話されても、何言ってるかわかんないから、聞こえないから」
「楽しそうに話さないで、嬉しそうに笑わないで」
「何で電話出なかったのか、わかったのか、これでわかっただろ?」
「もう青羽と話したくなかったんだよ」
「いつか電話もできなくなる、一緒に音楽も聴けない、声も聞けなくなる」
「そうわかってて一緒にいるなんてつらかったから」
「好きだったから」
「だから会いたくなかった」「嫌われたかった」「忘れてほしかった」
言葉がなくて、もちろん字幕が出ているから言っている内容がわかるのだが、それ以上に目黒蓮の表情や息遣いから彼のつらい切ない気持ちが伝わってきて、観ているこちらも彼と一緒に徐々に涙があふれてきてしまうような、すごいシーンだった。
手話をマスターすること自体大変だっただろうに、手話をしながらこれだけの演技ができることに純粋に驚いてしまった。ある程度演技ができる人とは思っていたけど想像以上というか、このドラマの今後の演技も楽しみでたまらない。
当然相手が何と言っているかわからない紬を演じる川口春奈も、笑顔からどんどん悲しい顔になっていき、でも話しかけるときは笑顔になろうとする表情がよかった。
「何言ってるかわからないだろ」「俺たちもう話せないんだよ」
「うるさい」「お前うるさいんだよ」
引き止める紬を振り払って、行ってしまった。
離れたところで泣き崩れる想。
「一緒に音楽も聴けない」のところの手話がイヤホンを表すようなところもつらいし、「好きだったから」という言葉と表情が刺さる。
むかし笑いながら話した「うるさい」を、こんな形で全く別の意味で使うことになってしまったのも悲しい。
難聴の方が出てくるドラマというと、真っ先に思い浮かぶのが「愛していると言ってくれ」や「オレンジデイズ」(ともに北川悦吏子脚本)で、特に「愛していると言ってくれ」は当時子どもだった視点で観ても名作だった印象があるが、初回を観て、そんな名作たちと並ぶ作品になるかもしれないと思った。
本気で泣ける、‟本格ラブストーリー“が作りたいという本作、誰が主役を張ってもおかしくない、演技派ぞろいの俳優陣からも、数々の名作を手掛けた精鋭たち+ヤングシナリオ大賞受賞の新人というスタッフ陣からも、そして何より初回の素晴らしさから、フジテレビの本気を感じた。
初回からホームランをかっ飛ばされた感覚なので、次回以降もいい意味で期待を超えて行ってくれるのではないかとドキドキしている。
(文:ぐみ)
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