「silent」第9話レビュー:過去イチかわいい想(目黒蓮)と、母への「ありがとう」
主人公・紬(川口春奈)は突然別れを告げられた元恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会。彼は難病により、ほとんど聴力を失っていた……。
音のない世界でもう一度“出会い直す”ことになった二人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語。
本記事では、第9話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
▶︎「silent」画像を全て見る
「silent」第9話レビュー
紬(川口春奈)の母・和泉(森口瑤子)が登場した前回。相対的に想の母・律子(篠原涼子)を思い浮かべてしまった。病気になった想を心配するあまり、過保護な言動も目立ち、想の妹・萌(桜田ひより)や姉・華(石川恋)を傷つけてしまうこともある律子。今回は律子がそんな風になった経緯が、丁寧に描かれていた。佐倉家の苦悩
思い出しても切ない2話の、想が紬と別れた(想はこれで最後と決めているが、紬は知らない)シーン。こ、このつらいシーンをまた別の角度から見せてくださるんですね……? 予告でつらいことは想像していたが、あらためて覚悟が必要そうだ。実家に帰宅した後の想の様子が切ない。はじめは律子も、病気のことを隠さなくても、親しい人には伝えておいたほうが、と思っていたのだが、想は湊斗をはじめとした友達が家に来ても病気のことを言わないでと言う。助けてくれると言っても「誰がどう助けてくれるの?」と返され、何も言えなくなる。誰も想の病気を治すことはできないから、このときの想がこんな気持ちになってしまうのも無理はない。
耳が聞こえない人たちがやるサッカーがあると知り、想に勧める律子だが、まだ完全に聞こえなくなったわけではない想は「耳が聞こえないって言わないで」と耳をふさぐ。当たり前にできていたことができなくなる苦しみは、想像してもしきれない
当時律子は、頻繁に都内の想の家へ訪れていた。同じ関東とはいえ、群馬からはそれなりに時間がかかるので大変だと思うが……。地元の友達とも縁を切り、スポーツ推薦で入った大学で部活も辞め、寮を出てふさぎ込む息子を放っておけなかったのだろう。姉の華が妊娠し、買い物に付き合う約束をしていたのに「ごめん、想のところに行かなきゃ」と言い出す始末。これは華の立場だったらつらすぎるし、さすがにいきすぎている気もしてしまう。そして自分が買い物を手伝うと、何とか場をおさめようとしている萌の気遣いが涙ぐましい。
ついに華は、想の病気が遺伝性なら、生まれてくる自分の子どもも耳が聞こえない可能性があるのでは、結婚相手にまだ伝えられていないと話し出す。「自分のことばっかり、想の気持ちも考えなさい」と声を荒げる律子に「自分のことじゃないよ、子どものことだよ」と言い返す。「私と萌も、お母さんの子どもだよ」という華のセリフがつらい。
華と萌が律子にないがしろにされているように感じて傷ついている場面は、これまでも何度か出てきた。きょうだいの中で男の子を大事にするタイプの母親はいるが、律子はそういうわけではなさそうだ。病気になってしまったから、こんな感じになってしまったのだろうが……。
最もつらかったのは、想が自室でCDを割ってしまうシーンだ。実家に帰り、高校時代に聴いていたiPodを取り出した想。紬に貸した、あのiPodだ。ほどなくして、想の部屋から何かを壊すような音が階下に響く。驚いて上がっていった家族たち。イヤホンが壊れてるみたいで音が聞こえない、壊れてるのはこっちかなと自分の耳をさわる想。
「声、出てないよね? しゃべってるつもりなんだけど聞こえなくて」「何か言ってよ」と泣く想。確実に想の耳が聞こえなくなっていっていることを表していて、言葉にならない。音楽が好きな想だ、聞こえなくなるなんて、聴けなくなるなんて、どんなにつらいだろう。一人部屋に残ったお父さんは、隣に座って励ますようにぽんぽんと叩く。
久しぶりの里帰りで、想が打ち明けた想い
時は現在に戻り、久しぶりに里帰りした想は湊斗と川辺で楽しそうに話す。それをたまたま見かけた律子はあいさつし、うちで話せばと言うが、想は嫌そうな顔をする。「あっそ!」と言う律子だが、なんだかうれしそうだ。帰宅した想に話しかけると、かしこまって近くに座る想。体が大きいから、ちょっと窮屈そう。律子の心配に反して、想は萌が耳のことを湊斗に言ったおかげでまた話せるようになり、部活の仲間とも再会できてよかったと言う。つらい思いをさせるから耳のことを言わずに離れたけど、もっとつらい思いをさせてしまったことに気づいたと。なんで耳のことを隠そうと思ったんだろう、と。
「親だからってなんでも話さなきゃだめ、じゃないし。親だから話したくないことだってあるだろうし」
この言葉が律子から出てきたのは意外だった。でも心配はする、と。律子も、律子と想の関係も、もう大丈夫そうだ。
目黒蓮に頭を撫でられたい人生だった
自分のCDをあらためて眺める想。スピッツの歌詞カードを開いて眺める。律子に捨てられそうになったけど「また見たいかもって思って、萌が保護してた!」と伝えた萌の頭をわしゃわしゃっと撫でる想。萌はうざい! と言ったけど、「目黒蓮に頭を撫でられたい人生だった」と思った人、いますよね? 私は思いました。萌、本当にいい子だな~。想のこと大好きなんだろうな。想も萌に救われてきただろうな。華も加わり、YUKIのCDが実は華のだったことがわかったり、華も想も萌に「割れてるやつあるからケガしないように気を付けて」と言ったり、騒がしく楽しむきょうだいたち。「昔から3人揃うとうるさかった」とうれしそうに言う夫婦。なんだか本当に、よかったなぁ。
「ごめんね」から「ありがとう」へ
東京に戻る想を車で送る律子。いつか見た光景、初回で想が状況したときと同じシチュエーションだ。あのときは別れ際に「ごめんね」と言った想。今回は「ありがとう」と言った。もう、何か言おうとしている時点で言葉は予想できちゃったけど、それでもじーんときた。
音楽の楽しみを思い出した想
そのまま紬の働く渋谷タワレコにきた想は、スピッツの買っていなかったアルバムを買う。「実家に帰って、これ持ってなかったなって思い出して」「これ私持ってるよ、貸そうか?」と言うが、ちょっと考えて「自分で持ってたい」と言って買う。わかる。本当に好きなやつは自分で持っていたいよね。歌詞をネットで調べられる時代、光(板垣李光人)に言われたことを思い出して「ネットで検索した?」と聞く紬だが、「歌詞カードではじめに読みたくて」「それがいいよ」と会話する。わかる。地元で、湊斗から、高校のとき紬がCDに入れたというメモを返された想。捨てたと言っていたけど、持っていたのだ。それを見せて取り返そうとする紬。「お願い聞いてくれたら返す」と、好きなCDを貸してと頼む。今は青羽のほうが詳しいでしょ、と。
2人とも音楽が好きな人なんだなぁとあらためて思ったし、音楽を好きな想の耳が聞こえなくなってしまったこと、本当に悲しく思っていたし、実際つらいところがないと言ったら噓になるけど、音楽の楽しみって曲を聴くだけじゃなくて、CDを買って開けて歌詞カードを見て……といろんな楽しみがあったなと気づかせてもらった。今はサブスクがあって便利だけど、本当に好きなものはCDで手元に持っておきたいの、すごくわかる感覚でうれしくなった。
想が過去イチかわいい件
紬の仕事が終わるのを待って、湊斗に渡されたメモを見せていたずらっぽく振る舞う想、お目目がきゅるきゅるでめちゃくちゃかわいい。空に月が出ているのを見て「晴れてる」と言うのも、昔のその口ぐせがうつって月を見ると同じ事を言っちゃう湊斗も、湊斗がそう言うのをおそらく見ていて「仲いいな……」とつぶやいた紬も、なんだかまるっと愛おしい。いい感じに着地した9話だが、次回予告はやはりなんだか不穏である。またかなり接近したけれど付き合っていない2人。湊斗や紬のモノローグから、想はまた彼らから離れて行ってしまうのか……? と不安になる。今回のラスト、奈々(夏帆)から正輝(風間俊介)への手紙の内容も気になるところだ。
話を進めることにプライオリティを置いていないこのドラマ。ちょっと進んだと思ったら、登場人物の過去をしっかりと振り返る回が続いたりと、異色な構成だと思う。残り2話、どんな内容になるのか、どんな結末にたどり着くのか気になる。願わくば、みんなが笑えるラストだといいのだが。
(文:ぐみ)
無料メールマガジン会員に登録すると、 無料のメールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
© Fuji Television Network, Inc.