アクション好き映画ライターが選ぶ!2022年「ベストアクションシーン」TOP10

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100億円超えの興収を叩き出す作品やネット上を席捲するタイトルが相次ぐなど、ここ数年の中では何かと明るい話題が多かった2022年の映画界。年末は「今年のベスト映画」がSNS等に投稿されるタイミングでもあり、各々の個性が垣間見えるランキングは眺め見渡しているだけでもワクワクする。

──ということで。「CINEMAS+」の場をお借りしつつ、今回は少しばかり趣向を変えて個人的趣味を全開にした「今年のベストアクションシーン」TOP10をご紹介。アクションの解釈をなるべく広く定義しつつ、「これは激アツ」と胸を高鳴らせた瞬間(作品そのものではなくあくまでもシーンに限定)をピックアップしていきたい。

※テーマ上ストーリーに言及しているので、ネタバレが気になる方はご注意ください

10位『グレイマン』プラハ崩壊

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MCU作品でお馴染みのルッソ兄弟がディズニーから離れ、ライアン・ゴズリングを主演に迎えたNetflixのアクションスリラー『グレイマン』ゴズリングが“CIAの雇われ凄腕工作員”を演じるというだけでも「観たい」と思わせるのに、キャプテン・アメリカことクリス・エヴァンスをチョビひげ姿の悪役として起用しているところがなんとも心憎い。

映画としてはゴズリングvsエヴァンスのファイトシーンがクライマックス(にしてご褒美)ではあるものの、それ以上に度肝を抜かれたのが中盤に用意されたプラハでのトラム大爆走シーンだ。

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身内であるCIAの機密データを手にしてしまったゴズリングが襲撃され、プラハの市街地で幕を開ける激しい銃撃戦。そこまではアクション映画でもよくある展開なのだが、なんせ監督は『アベンジャーズ/エンドゲーム』を大成功へと導いたルッソ兄弟。

ゴズリングがトラムに飛び込んでからというもの銃撃戦&カーチェイスは加速度的に激しさを増し、ついにはアナ・デ・アルマス演じるエージェントも車をかっ飛ばしながら参戦してくるのだからもう誰にも止められない。

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銃火器による攻撃をこれでもかと浴びた果てに暴走したトラムは見事に脱線し、建物に激突しながら転覆(それでも一切表情を崩さないゴズリングがソー・クール)。街そのものを破壊してしまうようなスケールに、観ているこちらは唖然茫然するしかない。とはいえ「ここまで見せてくれるのか」という謎の感動や、これほどの大規模エンタメアクションにゴズリングが参加したことの喜びも大きかった。

そして余談として、半袖になったゴズリングからのぞく鍛え抜かれた筋肉美にもぜひ注目してほしい。

9位『ドクター・ストレンジ MoM』ストレンジvsストレンジ

(C)Marvel Studios 2022

MCU作品にはキャラクターの特性・特徴を活かしたアクションが多い。キャップvsウィンター・ソルジャーの近接格闘、ブラック・ウィドウのアクロバティックな体術、ソー+ムジョルニアの落雷攻撃などなど……。

ドクター・ストレンジといえば、時として観客をも翻弄するようなトリッキーな魔術が魅力。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はそんなストレンジがマルチバースの別のストレンジと戦うことになるのだから、その時点で既に映画として十分面白い。いや既にキャップvsキャップが実現しているので新鮮味はないかもしれないが、「ならば」とばかりに本作ではまさかのアイデア勝負が繰り広げられる。

(C)Marvel Studios 2022

音楽対決。ストレンジ先生同士の対バンではない。音楽で物理的に攻撃するのだ。──と説明されて「なるほどそういうことですね」と理解できる人がどれくらいいるだろう。本作の音楽を担当するダニー・エルフマンも、監督のサム・ライミから「ストレンジ同士が音楽で戦うんだ」と説明を受けて「この人は何を言っているんだろう」と首を傾げざるを得なかっただろう。

(C)Marvel Studios 2022

ところが、いざその場面を目の当たりにすると、遊び心にあふれていてすこぶる面白い。ストレンジ同士の対決という絵面に加えて、楽譜が可視化され五線譜を離れた音符がスパスパと飛び交う。たとえ不協和音であろうともその音符が実際に音として響くという、まさに“映画音楽の新しい使い方”を示す斬新なバトルシーンだった。

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8位『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』?????


中国の伝統芸能「獅子舞」にフォーカスし、広東の田舎に住む少年・阿娟が仲間とともに獅子舞大会を目指す『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』。スポ根映画であり少年たちの青春・成長譚であり、さらには中国社会の現実も逃げずにすくい上げたドラマ作品でもある。

いつの間にか日本人のDNAにも刷り込まれている獅子舞について題材として的を絞った映画というのも珍しいのではないか。筆者の記憶にあるところでは、ジェット・リーことリー・リンチェイ主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地争覇』くらいしかパっとは思いつかない。


本作はスポ根モノでありつつ、田舎から都会へ向かう出稼ぎ労働者たちの実情をしっかり映し出した作品だ。阿娟も両親の代わりに働きに出るため、夢を追うだけではないシビアなストーリーも展開する。

肝心の胸アツアクションシーンについてだが、あえて詳細は伏せておきたい。ただ言えるのは、劇中で渦を巻くように膨れ上がっていく太鼓の演奏シーンにぜひともご注目を。大勢の手拍子も重なることで生まれる爆発的なエネルギーは、実写アクション映画の熱量にも決して引けを取らない。

本作はサウンドトラックも配信されていて、劇中の興奮そのままに太鼓と手拍子のリズムを劇伴としてたっぷり聴くことができる。作品をご覧になった方はサウンドトラックも聴いて、その迫力を追体験してみてはいかがだろう。

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また『雄獅少年』(原題)は2023年に日本全国公開&日本語吹き替え版の制作が決定している。

中国での大ヒットや日本での「電影祭」にて行われた字幕版の上映における熱狂を踏まえて、全国公開された際の反響が今から楽しみであり、多くの人に観てほしい作品だ。日本語吹き替え版は日本を代表する声優陣が集まり、制作中とのこと。今から続報をワクワクしながら待ちたい。


7位『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』降谷零vsプラーミャ

(C)2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

ミステリー作品というより、もはやアクションに振り切った感のある『名探偵コナン』の劇場版シリーズだ。謎解きが添え物程度になっているということは決してないが、やはり爆発に次ぐ爆発、空手やジークンドーなどを駆使したクールな格闘戦ばかりに目が向いてしまう。

もちろん劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』も多分に漏れず、息を呑むようなアクションが連発。そもそも本作の犯人が「プラーミャ」と呼ばれる連続爆弾犯なのだから潔い。実際序盤から公安警察の降谷零がプラーミャの罠にかかって首輪式爆弾を仕掛けられるため、『ゼロの執行人』で“安室の男”になった筆者は気が気でなかった。

(C)2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

▶︎『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』ゼロの執行人で“安室の男”になった筆者が泣いた理由

また今回は松田陣平や萩原研二ら警察学校組が絡んでくる重要な物語であり、降谷を起点に過去と現在が繋がっていく意味でも作品の引きが強い。その過去において因縁を持つ相手こそプラーミャであり、現在の降谷が警察学校組の生き残りとして使命を背負う姿が胸にグっとくる。

そんな降谷とプラーミャの直接対決の場となったのが、墜落間近のヘリコプター内。コントロールを失い旋回するヘリの中で激しい徒手格闘を展開する様子は、カメラワークも手伝ってまさに「因縁の対決」に相応しい。

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6位『メイヘムガールズ』東京空中戦

(C)2022 ARTHIT CO,. LTD

『RE:BORN』『狂武蔵』でプロデューサーを務めた藤田真一監督の『メイヘムガールズ』は、超能力に突如目覚めた女子校生たちが繰り広げるサイキック・エンターテインメント。吉田美月喜・井頭愛海・神谷天音・菊地姫奈というフレッシュな顔ぶれが集まり、感染症の拡大によって奪われた青春を取り戻すかのように彼女たちが超能力を駆使する姿が描かれた。

本作の予告編映像に惹かれて鑑賞を決めた筆者は、正直「女子校生たちが超能力でワイワイキャッキャする話」くらいのノリで劇場に向かった。とはいえ始まって早々に、コロナ禍の鬱屈した空気がキャラクターからにじみ出ていていきなり不意打ちを食らってしまう。

(C)2022 ARTHIT CO,. LTD

そういったチクチクした肌触りの窮屈な日常を積み重ねるからこそ、超能力に目覚めた女子高生4人の「ワイワイキャッキャ」にリアリティ(あくまでも感染症拡大下の世界の延長線上)を与えていく。

超能力を“楽しむ”女子校生4人(瑞穂・あかね・環・ケイ)を見ながら、確かに「いいぞ、もっとやれ」と願った。だからといって、まさかザック・スナイダーばりのサイキック・バトルに転じると誰が予想できようか。──いや、でも。うん。青春にケンカはつきものだよね。



東京都心のビル群を縫うように空を飛び、瞬間移動能力で相手の裏をかく。念動力で次々と車が弾丸のように空中へ放たれ、大型車がビル上層に激突して爆発する。そうだよね。青春にケンカはつきものだよね。

 繰り返しになるが、溜まりに溜まった鬱憤を序盤から丁寧に描写していたからこそ作品に説得力がある。気づけば倫理的価値観をすっ飛ばして、「いいぞもっとやれ。好きなだけ破壊(メイヘム)しろ」と彼女たちのバトルを見守ってしまうのだ。

5位『戦慄せしめよ』Games

(C)越島

新潟県佐渡島を拠点にワールドワイドな活躍を見せる太鼓芸能集団・鼓童。生み出される和太鼓の圧倒的なパワーは以前からずっと映画向きだと感じていたが、まさかこれほどまでたっぷり鼓童の魅力に浸れる作品が登場しようとは。

豊田利晃監督が手掛けた『戦慄せしめよ』はドキュメンタリーとは異なり、かといって従来の映画とも様相が違う。物語はほぼないに等しく、鼓童のパフォーマンスに集中したミュージックビデオを映画へとアップグレードした作品といえる。音楽を制作した日野浩志郎もたびたび演奏に参加しているほか、豊田作品の常連俳優・渋川清彦が面を被ってナビゲーター的に舞台転換の一翼を担っているのも面白い。

(C)越島

前半こそ曲調は抑えめだが、鼓童の主要メンバー・中込健太と住吉佑太が1つの大太鼓を打ち鳴らす「Shiver」から様相が一変。場所が切り替わって滝の麓で大太鼓を高速で叩く場面はもはや人間の限界を超えており、振り下ろされる腕にシャッタースピードが追いついていない。例えるなら『マトリックス』の高速分裂パンチをCGなしで表現したかのように、腕が何本にも見えるほどだ。



そんな一流奏者集団の鼓童がモノリスを囲んで奏でる「Games」は、まさに本作のクライマックス。想像してみてほしい。奏者全員がブルース・リーのようにたくましく、躍動する筋肉が太鼓を力強く延々と打ち続ける映像を。モノリスを中心に奏者の背後を周回し続ける視点が途中からぐるりぐるりと天地反転するカメラワークに加えて、日本海の波濤や鬼の舞などを矢継ぎ早にインサートする編集術も圧巻。

4位『RRR』肩車無双

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『バーフバリ』を超えるのは、やはり創造神だった──
。S.S.ラージャマウリ監督に寄せられていた映画ファンの期待は相当のものであり、当然ラージャマウリ監督にとってプレッシャーは限りなく大きかったはず…… なのだが、創造神はこちらの期待値もましてや要らぬ心配も『RRR』は易々と飛び越えていく。

イギリスに植民地支配されていた1920年のインドを舞台に、異なる目的を秘めた2人の男が運命的に巡り会う本作。2人の名はビームとラーマ。彼らの物語はブロマンスという言葉で一括りにするのも烏滸がましく、もはや言葉に言い換えることすらできない崇高な関係性だといえる。

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そんな2人の一挙手一投足をラージャマウリ監督はスローや視覚効果も駆使して丁寧に映し出しており、どこを切り取っても魅力的に見せているのだから「すごい」と驚嘆するしかない。

『バーフバリ』は歴史スペクタクルの側面がある一方、本作は紆余曲折を経ながらも勧善懲悪に振り切ったわかりやすさがある。そのためビームとラーマが共闘する瞬間は待ってましたと言わんばかりの力強さがあり、しかもそれを“肩車無双”という思いもよらないビジュアルで観客にぶつけてくる(けれどそれに至る伏線は周到に張られている)。

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ドッキングしたビーム&ラーマ見参シーンは、映画のキメ絵として今年随一。伏線が一挙に回収された喜びに2丁銃ダブルリロードの興奮を被せ、「観客が見たかったもの」以上のツーマンセルアクションがスクリーンに刻み込まれる。しかも肩車無双を終えてから本当のクライマックスバトルが始まるのだから、ラージャマウリ先生が処方するお薬は毎度毎度のことながら過剰摂取感が凄まじい。

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3位『ONE PIECE FILM RED』Tot Musicaバトル

(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

先に断っておくと、筆者は「ONE PIECE」について原作は飛ばし飛ばしでしか読んでいない(すみません)。アニメも飛ばし飛ばしで、劇場作品に至っては1本も観たことがなかった(スミマセン)。

そんな人間が、今回は“音楽”がフィーチャーされているからという理由で『ONE PIECE FILM RED』を鑑賞した結果。やだもう本当に楽しいじゃない。もちろん「誰だっけ」と記憶をたどるサブキャラも多かったが、それを差っ引いても面白さが有り余る物語。しかも巧妙な宣伝により、鑑賞中「いや君が敵かい」なんてサプライズもあり……。



本作の魅力の1つとして、人気アーティストのAdoをメインキャラ・ウタの歌唱キャストとして迎えている点が挙げられる。また中田ヤスタカを筆頭に名だたるコンポーザーが楽曲を提供しており、サウンドトラック自体が作品を牽引する原動力にもなった。

そんな特性を存分に叩き込んだクライマックスバトルの迫力は、おそらく実写では出しきれないだろう。ルフィやシャンクスたちが入り乱れるアクションは「怒涛の如く」という言葉がぴったりで、アニメーションならではのダイナミックな表現力がまさに圧巻。劇場版アニメワンピがこんなド迫力の映像を見せてくれるとなぜいままで誰も教えてくれなかったのか……。

(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

さらにバトルを盛り上げるのが、それまでの曲調とは打って変わってダークで重々しいウタのナンバー「Tot Musica」だ。参加アーティストは事前に把握していてもどの曲を担当したのかまでは認識していなかったが、聴いた瞬間に「間違いなく澤野弘之サウンドじゃん」とわかるカッコよさ。今回の楽曲提供を布石に、いつか劇伴も担当していただきたい。

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2位『トップガン マーヴェリック』Canyon Dogfight

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1位と2位については本当に迷った。いや今でも迷っているし、もう同率1位でもいいのではないかと思ってもいる。

もはや説明不要、2022年映画界最大のトピックスといっても過言ではないのが『トップガン マーヴェリック』の特大ヒットだろう。もちろんヒットしたことだけでなく、作品そのものの評価と劇場公開にこだわったトム・クルーズの思いもエンターテインメントを受け取る側として忘れてはならない。

とにかく本作はオープニングからエンディングに至るまで、1つ1つのシーンの組み立てがとても丁寧だ。前作に敬意を示しつつマーヴェリック教官の葛藤に時間を割き、見せ場であるはずのドッグファイトもまずは訓練での様子に集中させている。

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それだけ溜めに溜めた分、“ならず者国家”の地で展開されるドッグファイトのテンションは異常。ミサイルが次々と目まぐるしく飛び交い、マーヴェリックたちが操縦する戦闘機がフレアで回避するスピーディーな描写は文字どおり目を見張るものがあった。

中でも圧倒的興奮を覚えたのが、マーヴェリック&ルースターが搭乗したF-14戦闘機vsならず者国家の第5世代戦闘機による渓谷~上空でのドッグファイトだ。最新鋭戦闘機をも凌駕するマーヴェリックの技術と、マーヴェリックを翻弄する第5世代機の性能。絵力に加えてわだかまりを抱えていたマーヴェリックとルースターの共闘というドラマもあり、改めて本作における脚本の構成力に感服させられる。



さらにこのドッグファイトをサポートするのが、ハンス・ジマーをはじめとしたチームの音楽。まさにジマー節と呼ぶに相応しい高揚感をかき立てるメロディと激しいリズムの応酬で、陰ながら映像に迫力をプラスさせている。

ちなみに本作随一のアクションスコアとなった該当曲「Canyon Dogfight」は、ボーナストラックとして日本国内盤サウンドトラックのみに収録された貴重な音源。海外盤・配信版には未収録という異例の対応のため、サウンドトラックを購入するなら国内盤がおススメ。

余談として、筆者は本作をIMAXと3画面の4DX SCREENで鑑賞。4DX SCREENで観た『トップガン マーヴェリック』は間違いなく人生最高の映画体験だった。

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1位『バブル』パルクール・バトル

(C)2022「バブル」製作委員会

繰り返すが1位と2位は本当に迷った。その差は極々僅かと思っていただきたい。

「進撃の巨人」等で知られる荒木哲郎監督×虚淵玄脚本のタッグで制作されたアニメ映画『バブル』は、劇場公開に先駆けてNetflixによる全世界配信がおこなわれた。

本作は配信当初こそ評価が芳しくなかったものの、劇場鑑賞者からは高く評価されるという現象が起こった。──それはそうだろう、と思う。そもそもパルクールアクションをメインにした本作は、映像もサウンドデザインも劇場公開に重きを置いて作られているのが明白だ。小さな画面で観るのとスクリーンで観るのとでは、明らかに、それはもう驚くほど明らかに迫力が違う。



筆者も初見は劇場鑑賞を選び、これが大正解だった。謎の“泡”によって重力が壊れた東京を舞台にチーム対抗のパルクール戦(バトルクール)が繰り広げられ、その設定を活かしてSFにも近いグラビティアクションが連発する。あまりの興奮にドルビーシネマでおかわりしたくらいだ。

クライマックスは崩壊していく東京タワーで展開される。だが実は筆者が今年最も感動したアクションシーンは別にある。

(C)2022「バブル」製作委員会

中盤に用意された主人公・ヒビキを擁するブルーブレイズと加速装置を駆使するアンダーテイカーのバトルクール。追い詰められたヒビキがチームメイト・ウタの行動によって、形勢逆転する瞬間からだった。

本作は物語の鍵を握る謎の少女ウタとヒビキのボーイ・ミーツ・ガールストーリーが軸になっている。当初は奔放すぎるウタに困惑するヒビキだったが、彼女と一緒に躍動する(いわゆるラブパルクール)ことで距離が縮まっていく。

(C)2022「バブル」製作委員会

…… からの! アンダーテイカー戦! ウタが奏でるハミング(歌うのはウタのボイスキャスト・りりあ。)に澤野弘之の音楽が重なり、ウタが、そしてヒビキが重力の壊れた世界を軽々と飛び回る。とにかくその疾走感が語彙力を失うほどすごい。横倒しに崩壊する巨大ビルを2人でスライディングしてかわし、続けてヒビキが空中に浮く列車内を駆け抜けて再び外側に戻り、カメラもシームレスに列車外→列車内→再び列車外へとワンカットでヒビキに追従する。

「映像×カメラワーク×りりあ。」が奏でるウタのハミング×劇伴が寸分のズレなく一体となった瞬間、興奮は感動へと変化して気づけば涙が流れていた。

泣ける場面ではないのに、ここまで揺さぶられて感涙したのは今年『バブル』のみ。「この作品に出会えたこと」を映画の神様に感謝した。

▶︎アニメ映画『バブル』を全力で称賛&解説|“マイノリティー”と“世界の肯定”の物語だった

まとめ



いかんせん筆者自身の価値観をもってランキングにしたため、「いやいやその順位はおかしいでしょう」「この作品が入っていないからやり直し」という意見もあるだろう。それも十分理解した上なのでここはご容赦いただきたい。

とにもかくにも、良質なアクションをいくつも目の当たりにすることができた。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では『アメイジング・スパイダーマン2』からずっと抱えていたモヤモヤが解消され、『キングダム2 遥かなる大地へ』は作品全体をとおして邦画アクションを世界水準に引き上げてくれた。『シャドウ・イン・クラウド』でグレムリンとタイマンをキメたクロエ・グレース・モレッツも実に清々しい。

このようにタイトルを挙げ始めたらキリがない。2023年も、筆者だけでなく観客の皆様が感情を突き動かされるようなアクションに出会えることを願う。

(文:葦見川和哉)

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