2022年映画産業分析:明暗分かれた邦画アニメと洋画アニメ。東宝一強時代は終わりを告げるか?
1月31日(火)、2022年の日本映画産業統計が日本映画製作者連盟(映連)から発表されました。過去2年コロナ禍で苦境に立たされた映画産業、今年は本格的な回復の兆しが見えた年となりました。
年間の興行総収入は2131億円と2000億円を回復、コロナ前の数年平均と比較して93%を記録し、コロナからの完全回復まであと一歩のところまで来ているといえそうです。
しかしその中身をつぶさに見ていくと、コロナを経て勢力図に変化が見られます。こうした変化について見ていきましょう。
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邦画アニメが驚異的な強さを発揮
2022年の映画産業を牽引したのは、アニメ映画です。
なんといっても『ONE PIECE FILM RED』『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』の3本が100億円超え、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』が97.8億円とメガヒットが4本も生まれました。2022年のアニメ映画の総興行収入は過去最高を記録するだろうと見られています。
この4本に隠れて目立ちにくいですが、アニメ映画は中規模ヒットも量産。『映画 五等分の花嫁』が22.4億円のヒットをはじめ『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEスターリッシュツアーズ』の19.8億円、『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』15億円など、深夜アニメの劇場版が好調に稼働。ヒットの目安となる10億円を超えた邦画26本中、過半数の14本がアニメ映画という結果になっています。
邦画配給会社別に見てみると、大手3社である東宝・東映・松竹ともに、アニメ映画が主力となっている状態です。東宝の上位5作品中、アニメ映画は3本、東映は年間トップに輝いた『FILM RED』に『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』、松竹も上位5作品中、3本がアニメ映画という結果になっています。アニメ映画は日本映画の興行の中心になったといっても過言ではありません。
逆に実写映画はやや元気がなくなっているかもしれません。2022年は、個人的には2000年代から続いてきたアニメ・漫画の実写化企画の曲がり角いう印象を受けました。10億円超えの実写化作品は、『キングダム2 遥かなる大地へ』と映画『おそ松さん』の2本のみ。2部作の大型企画だった『鋼の錬金術師』は不発となり『耳をすませば』も期待通りの興行とはなりませんでした。
原作の知名度だけで人を呼べなくなってきており、原作ファンは「企画の本気度」をかなりシビアに判断するようになってきていると思います。
『キングダム』が大ヒットしているのは、原作のスケール感を出すため大型予算を投入しており、映像のパワーとなって伝わってくるので、ファンにも本気度が伝わっているのでしょう。これからの実写化企画は入念に企画を吟味し、相当の本気度で挑まないとヒットは作れないかもしれません。
10億円超えの作品は26本を記録していますが、昨年の33本よりも少なく、コロナ前の2019年の40本と較べて14本も下回っています。大型のアニメ映画に観客が集中する一方、中規模ヒットが減少傾向にあるといえ、実写映画の元気のなさが反映されているように思います。
ディズニーがコロナショックから回復していない?
アニメが牽引した邦画に比べて、洋画の回復はやや遅れています。邦画と洋画を分けて回復率を比べると、邦画はコロナ前の96%、洋画は77%の回復率となっています(GEM Standard調べ)
しかし、2021年比較で洋画の興行収入は198.3%と、ほぼ倍増の急回復です。そんな洋画2022年を代表するタイトルは『トップガン マーヴェリック』で洋画唯一の100億円超えのメガヒットを達成。その他、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』に『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が続いています。
洋画全体の回復率は前述したように77%ですが、実写とアニメーションにわけると、洋画実写は81%で、アニメーションが62%と厳しく最も回復が遅れているのは洋画のアニメーションとなります。(GEM Standard調べ)
洋画アニメーションというのは、要するにディズニーのことです。イルミネーションの『ミニオンズ フィーバー』と『SING/シング:ネクストステージ』は大ヒットを記録する一方、ディズニーの『バズ・ライトイヤー』は12.2億円にとどまり、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』も振るわず、『私ときどきレッサーパンダ』は公開されずにディズニープラスで配信となってしまいました。
ディズニー作品は、コロナ以前には毎年100億円近い興行収入を叩き出す作品を送り出していただけに、洋画全体に占める比率も大きくなっていました。ディズニーの不振がそのまま洋画全体の回復遅れにつながっているといえるかもしれません。
実際、アニメーションだけでなく実写でもディズニー作品は、年間通して少し存在感が薄かったですね。マーベルシリーズから何本か公開され、そこそこの数字を記録していますが、爆発的なヒットには至っていません。フェーズ4は、フェーズ5に向けた助走時期だったような印象もあります。
根本的な要因は、ここ数年ディズニーが配信を重視していたことでしょう。アメリカ本国では、黄金時代を築いたボブ・アイガーがCEOに復帰し、戦略の修正があるかどうか注目です。
ちなみに実写で比較すると、邦画実写の回復率は78%なので、洋画実写81%の方が回復率が高くなっています。コロナ後は「邦画はアニメ、実写は洋画」という棲み分けが進むのでしょうか。邦画アニメは119%とコロナ禍前を超えているので、洋画アニメと明暗がくっきり分かれています。
洋画については、コロナ禍前の3年間の年間上映本数は平均588本の一方で2022年は500本なので、まだ上映本数が戻ってきていません(文化通信.com)。2022年は歴史的な円安もあったため、各配給会社は作品の買い付けにも苦労したのではないかと思います。上映本数は2023年もまだ完全回復とはいかないかもしれないですね。
東宝一強時代が終わる?
ディズニー1社の回復遅れが全体に大きく響くほどに、ディズニーの存在感が大きくなったのは、2010年代を通して同社が大型買収を繰り返し、支配的な存在になっているためです。洋画は、ディズニー一強状態の弊害が如実に出ているように思います。
一強状態は洋画に限らず、邦画でも同様で東宝の支配的な状態が長く続いていました。しかし、2022年は東映の台頭でこの状況に変化が訪れました。
©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会
2022年の東映は、過去最高を大幅に更新する年間興収320億円を記録。年間1位の『FILM RED』がその立役者となりました。全体の興行収入ではまだ東宝の方が大きいのですが、ほとんど市場で一強状態だったことを考えると大きな変化です。
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一強状態よりも、複数の会社が拮抗して健全な競争原理が働く方が市場は活性化するため、良い傾向だと思います。松竹にもぜひとも頑張ってほしいところです。
東映の2023年は、12月から公開され記録を伸ばし続ける『THE FIRST SLAM DUNK』が100億円超え確実。1月27日に公開された『レジェンド&バタフライ』も大ヒットスタートを記録しており、好調を維持しています。今年はさらに『シン・仮面ライダー』も予定しています。
アニメ、時代劇、そして特撮と東映は伝統の得意分野で勝負を仕掛けてきており、これらが成功すれば会社全体として自信につながるでしょう。数年前の『孤狼の血』のようなヤクザ路線がラインナップに加われば、さらに厚みが増してくるのではないかと思います。
映連島谷会長は、2023年について「2022年と甲乙つけがたいラインナップが揃っている」と会見で語っていました。今年はいよいよコロナからの完全回復に期待がかかります。
(文:杉本穂高)
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