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井上真央の切実な“妙味”を感じる作品「5選」

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井上真央といえば、ドラマ「キッズ・ウォー」シリーズの茜を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。1990年代前半生まれにとっては特に「ざけんなよ!」の名ゼリフが頭から離れないはず。そんな彼女も36歳、数々の映画やドラマで主演を担っている。

2023年1月クールで主演を務めているドラマ「100万回言えばよかった」での魅力を振り返るほかに、役者・井上真央の妙味を感じられる作品を紹介したい。

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ドラマ「100万回言えばよかった」


金曜ドラマ「100万回言えばよかった」では、佐藤健演じる直木の恋人・悠依役を演じている井上真央。1話にしてすでに直木は亡くなっていることが判明し、悠依はその死の真相を解明しようと奔走する。

元幼馴染の恋人が亡くなった事実に向き合いつつ、逃げずに本当のことを知ろうとする健気な悠依を見ていると、自然と応援したくなる。直木と悠依は、お互い問題を抱えた家庭に生まれた。幼い頃に里親制度を使い、一時期いっしょの家庭に世話になっていたことがある間柄。時を経て大人になったふたりは、直木が営む料理店で再会する。


いっしょに住んでいた頃から料理が得意だった直木。彼に作ってもらった思い出のハンバーグの味を、悠依はずっと覚えていた。彼女がふと立ち寄った店で口にしたハンバーグは、舌で記憶していた味と同じだった。なんともロマンチックな再会だが、あたたかい時間は長くは続かず、直木は亡くなってしまう。そして、どうやら何かの事件に関わっている可能性が高い。

恋人を亡くした女性のやるせなさ、ままならなさを最大限に表現している井上真央は、切実さや健気さを余すところなく具現化している。彼女の悠依としての表情・所作・発する言葉から、また新たな魅力を再確認せざるを得ない。

スペシャルドラマ「夜のあぐら~姉と弟と私~」

(C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

BS松竹東急の開局記念として制作されたドラマ「夜のあぐら~姉と弟と私~」。長嶋有による同名小説を原作としている。井上真央が演じるのは、元ピアノ教室の講師であり、理由あって現在はパチンコ店で働いている秋子。姉の春子(尾野真千子)、弟の雪雄(村上虹郎)の姉弟3人をメインに、物語は進む。

3人は幼い頃、両親の離婚をきっかけに別々の地に住むことを余儀なくされた。不倫相手を後妻として迎えた父の体調が芳しくなく、年明け早々、遺言を聞くために集まることに。姉弟同士の微妙な関係性を描きだすとともに、途切れていた家族同士のつながりが少しずつ修復される様まで表現された、見応えのあるドラマだ。

(C)BS松竹東急/角川大映スタジオ

井上真央演じる秋子は特に明るいキャラクターでもなければ、無気力すぎるわけでもない。良くも悪くも普通の女性で、少々“低体温”な気質である。

しかし両親の離婚の際、自分ひとりだけ母親とともに岡山に越すことになった事実や姉や弟と離ればなれになった顛末、大好きなピアノを一緒に持ってこられなかった恨みなどしっかり根に持つタイプでもある。

そんな秋子が姉や弟との久々の再会、父親や後妻との少々めんどうなやりとりを通じ、停滞していた血流が身体中に巡りはじめるようにだんだんと“体温”を取り戻していくさまを、井上真央は誠実に表現している。

終盤、父親が作ったびわのジャムを食パンに塗り、涙しながら食べるシーンには引き込まれてしまう。込み上げる涙や嗚咽を必死にこらえながら、母親とともに岡山に行かざるを得なかった過去を振り返り、後悔の念を口にする。

素直に「さようなら」と言えなかった自分を内省しながら静かに襟を正すような演技は、井上真央自身の“表現に向き合う姿勢”を具現化しているかのようだ。

ドラマ「二月の勝者-絶対合格の教室-」



「トッカン 特別国税徴収官」(2012/日テレ系列)から、およそ10年ぶりの日テレドラマ出演となった「二月の勝者-絶対合格の教室-」。柳楽優弥演じるスーパー塾講師・黒木蔵人を中心に、中学受験に挑む小学生たちの奮闘や悲喜こもごもを描いている作品だ。

井上真央が演じたのは、黒木が塾長を務める「桜花ゼミナール吉祥寺校」の講師・佐倉麻衣。桜花ゼミナールは成績不振に陥っており、テコ入れのため黒木を招聘した背景がある。確かに力はあるのだろうが、言葉少なに大胆な行動や施策を仕掛ける黒木に、文句を言いつつ振り回されるのが佐倉だ。

「夜のあぐら」で演じた秋子、ならびに『謝罪の王様』の典子や『白ゆき姫殺人事件』の城野美姫と比べると、もっとも癖のない役と言えるかもしれない。黒木の“血の通わない”物言いに辟易する場面は多々あるが、佐倉自身も生徒思いであり、その熱量や洞察力は黒木とは違うパワーを持つ

黒木は持ち前の観察力で、成績が振るわず勉強へのやる気も見せない生徒たちを鼓舞していく。まだ小学生の時点で、言ってしまえば「競争社会」で一喜一憂する生徒たちを見ているとどうしても現実に照らし合わせてしまい、なんとも言えない気持ちになってしまう視聴者も多いことだろう。特に中学受験当事者、ならびにその両親の立場にとっては。

しかし「テストの点が上がらなければ志望校に合格できない」「志望校に合格できなければお先真っ暗」といったような、キリキリしたシーンばかりではない。むしろ、将来につながる選択肢は無数にあり、そのひとつが中学受験なのだという視点を、佐倉が与えてくれる。柔らかくマイルドな雰囲気を併せ持つ、井上真央の魅力が見えるドラマだ。

映画『謝罪の王様』

(C)2013「謝罪の王様」製作委員会

監督・水田伸生、脚本を宮藤官九郎が手がけた、2013年公開のコメディ映画『謝罪の王様』。阿部サダヲ演じる「東京謝罪センター」所長の黒島と、井上真央演じる司法書士志望の典子が主人公である。「土下座以上の謝罪はない」をモットーに、効果的な謝罪の方法を伝授する黒島と、飄々とした典子の掛け合いが魅力だ。

「夜のあぐら」をはじめとする作品と比較すると、今作で井上真央が演じている典子はパッツン前髪に重ためのセミロングや濃いめの化粧が特徴的。帰国子女という設定を、これでもか!とわかりやすく全面に表している。あまり物事を深く捉えない、軽妙であっけらかんとした性格はとても新鮮に映る。

(C)2013「謝罪の王様」製作委員会

黒島と典子は、典子自身が起こした“とある事件”をきっかけに出会う。司法書士を目指す典子は「黒島さんといると、いろんな経験ができそうだから」といった理由で、東京謝罪センターのアシスタントを務めることに。

全体的にコメディ要素たっぷりな一方で、中盤から終盤にかけては「マンタン王国」と呼ばれる国とトラブルが勃発する。黒島が得意とする土下座は、マンタン王国では究極の侮辱とされているため収拾のつかない事態へ。最終的には、マンタン王国における“とっておきの謝罪”を繰り出し、和解する

(C)2013「謝罪の王様」製作委員会

過ちを犯したときは、ただ謝ればいいものではない。相手の気持ちを想像して相手の価値観や文化を理解したうえで、相手に通じる謝罪をする。人と人とのコミュニケーションにおける、もっとも根幹な部分を描き出した作品とも言えるかもしれない。

井上真央演じる典子は、最初から最後まで飄々とした態度を貫くが、不思議と憎めない。それに、なんといっても物語におけるキーパーソンだ。彼女の存在感は、コメディでも光ることが証明されている。

映画『白ゆき姫殺人事件』

(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社

湊かなえ原作、中村義洋監督のイヤミス映画『白ゆき姫殺人事件』で井上真央が演じたのは、とある事件の容疑者として追われることになる城野美姫。その事件とは、化粧品会社の社員・三木典子(菜々緒)が、山中で焼死体となって発見された殺人事件である。城野美姫も同じ化粧品会社で働いていたこと、いわゆる痴情のもつれが原因ではないかと推測されたことから、彼女が容疑者として浮上した。

物語の中盤まで、城野美姫という人物像は他の登場人物による「回想」や「証言」からしか描かれない。何を考えているか掴みきれず、少しずつ明かされる過去からして不気味な印象である。笑顔も少なめで陰鬱な様子は「100万回言えばよかった」の悠依や『謝罪の王様』の典子とは正反対だ。

(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社

中学生の頃、放課後の掃除中に男子が蹴り上げた雑巾が頭に命中した美姫。その後、男子は事故に遭い大腿骨を骨折した。サッカー選手も夢じゃないほどに有望視されていた男子。突如立ち上った「城野の呪いに遭ったに違いない」の噂は、しばらく囁かれることになる。

美姫の周囲を探れば、こういったエピソードには事欠かない。じっくりと丁寧にその様を見せつけられる視聴者も、だんだんと「城野美姫が犯人で間違いない」と思うようになる。しかし、この手のイヤミス映画界ではお得意の“どんでん返し”が待っている

(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社

どんでん返しの前後で、美姫に対する見方がガラリと変わってしまうのだから、不思議だ。井上真央の微細な表情の動きや所作だけでなく、やはり彼女が根本的に持っている“切実さ”のようなものが、視聴者の心へ直接働きかけるのだろう。

キャリアはすでに30年超えと長く、さまざまな映画やドラマに出演してきた彼女であっても、まだまだ新しい役柄を見てみたいと思ってしまう。それも含め、役者・井上真央の魅力に違いない。

(文・北村有)

■「夜のあぐら~姉と弟と私~」配信サービス一覧



| 2022年 | 日本 | 106分 | (C)BS松竹東急/角川大映スタジオ | 監督:野尻克己 | 井上真央、尾野真千子、村上虹郎、手塚理美、南果歩、岸部一徳 |

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