映画コラム

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2023年02月22日

<衝撃の問題作>『ベネデッタ』ポール・バーホーベン監督が観る者を挑発する!

<衝撃の問題作>『ベネデッタ』ポール・バーホーベン監督が観る者を挑発する!

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誰かが言った。「すべての映画を、ポール・バーホーベンが撮ればいいのに」と。

……あ、いや、誰が言ったかはハッキリしている。映画ライターにしてデザイナーの高橋ヨシキ氏だ。いま映画批評で最も信頼のおける高橋ヨシキ氏がそうおっしゃるのだから、ポール・バーホーベンが間違いないことは間違いない。面白いに決まっている。という訳で、皆つべこべ言わず、バーホーベンの映画を観ればいいです。以上。

もはやこれ以上語ることもないのだが、この文字数だと間違いなくCINEMAS+編集部に原稿を突っ返されるので、もう少し書きます。

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暴力的で変態的で俗悪で倒錯的なフィルモグラフィー


『ロボコップ』『氷の微笑』『ショーガール』『スターシップ・トゥルーパーズ』『インビジブル』etc。ポール・バーホーベンといえば、暴力的で変態的で俗悪で倒錯的なフィルモグラフィーで知られるが、ハリウッドに渡る前のオランダ時代は、さらに輪をかけて暴力的で変態的で俗悪で倒錯的な作品を発表していた。

『娼婦ケティ』は娘が毒親に売春を強要されるサイテーな話だし、『4番目の男』はアル中のゲス作家が女性の陰毛をむしり取るヤバい話だし、『女王陛下の戦士』には死体や汚物がテンコ盛り。


特に筆者が衝撃を受けたのが、中世ヨーロッパを舞台にした『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』。主人公のマーティン(ルトガー・ハウアー)は仲間に裏切られ、ペスト菌がウヨウヨしている井戸に突き落とされてしまう。友情もへったくれもなし!とにかく全編にわたって、露悪的演出のオンパレードなのである。

彼は、悪趣味でそのような作品を作り続けている訳ではない(いや、それもあるかもしれないけど)。それが人間の本性であり、虚飾を剥ぎ取った真の姿だと信じているのだ。バーホーベンは究極の写実主義作家なのである。

そんな奇才の最新作が、ジュディス・C・ブラウンの「ルネサンス修道女物語—聖と性のミクロストリア」を原案にした『ベネデッタ』。17世紀イタリアに実在した修道女が、家父長的なカトリック教会によって宗教裁判にかけられる実話を元にした物語だ。

『ベネデッタ』は神への冒涜なのか?



この映画には、神の存在を信じず「教会は慈善事業ではない」と言い切る修道院長が登場する。残酷な拷問も辞さない非道な教皇大使が登場する。そして、女性同士による過激な性描写がある。

ポール・バーホーベンは語る。
「ベネデッタの物語の独特な性質に惹かれたんだ。17世紀初めに修道女の同性愛についての裁判があったこと、裁判の記録や本書のセクシュアリティの描写がとても詳細なことにも感銘を受けた。そして、完全に男が支配するこの時代に、才能、幻視、狂言、嘘、創造性で登り詰め、本物の権力を手にした女性がいたという点だ。私の映画の多くは女性が中心にいる。つまり、ベネデッタは『氷の微笑』『ショーガール』『ブラックブック』『エル ELLE』のヒロインたちの親戚というわけさ」(『ベネデッタ』ホームページより抜粋)
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もちろん、カトリック信者は大激怒。この映画がプレミア上映された際には、「なぜイエスを延々と侮辱するのか?」「カトリック修道女の神聖さを侮辱する、冒涜的なレズビアン映画だ!」というプラカードを掲げた抗議活動に発展。ロシアでは「神を冒涜し、同性愛を促進する映画」という理由で、上映禁止となった。

だが当のバーホーベンは意にも介さない。カンヌ映画祭の記者会見で「この映画は神への冒涜ではないのか?」と質問されると、彼は憤慨した面持ちでこうコメントしている。
「私には、実際に歴史上で起きたことがなぜ冒涜することになるのか、全く理解できないね。基本的に歴史を後から変えることはできない。それが間違っていたかどうかは話せても、歴史を変えることはできない。この場合、“神への冒涜”という言葉は愚かなものだと思うね」
バーホーベンはかつて「ジーザス・オブ・ナザレ」という書籍を発表し、「処女降誕やキリストの復活といった数々の奇跡には、信憑性を見出せない」という反キリスト的な態度を表明している。彼がカトリックに対して懐疑的であることは明白だろう。

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だが少なくとも筆者の眼には、『ベネデッタ』は神を冒涜することが目的の映画には思えない。神を信仰することを糾弾した映画でもない。

人間には等しく性欲があり、性愛への渇望がある。「たとえ厳しい戒律のもとで生活するカトリックの修道女であったとしても、欲望を押し留めることはできないのだ」という、ありのままの人間の姿をありのままに描いた作品のように思える。繰り返すが、バーホーベンは究極の写実主義作家なのだ。

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これまでのフィルモグラフィーと同じく『ベネデッタ』も暴力的で変態的で俗悪で倒錯的なフィルムだ。ここには、人間のおぞましさが包み隠さずスクリーンに刻まれている。そんな映画、面白いに決まっているではないか。

という訳で、皆つべこべ言わず『ベネデッタ』を観に行けばいいです。以上!

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(文:竹島ルイ)

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