インタビュー

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2023年02月23日

ドキュメンタリー映画『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』佐井大紀監督を直撃!作品づくりのルーツとテーゼは井上陽水にあり!?

ドキュメンタリー映画『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』佐井大紀監督を直撃!作品づくりのルーツとテーゼは井上陽水にあり!?


佐井大紀が浴びたカルチャー


──1年前、深夜にテレビで60分版が放送されているので、さすがに取材対象からのクレームはないとは思いますが……。そんな佐井監督ですが、どういうカルチャーの浴び方をすると、20代にしてこれほどのディープな知識量になるのでしょう? いわば、「ドキュメント・オブ・佐井大紀」的なお話を最後に訊きたくて……。


佐井:僕は'60〜'70年代、'90年代のカルチャーが大好きなんですけど、なぜ'60年代が好きなのかというと、小学校のときからずっと親の影響で井上陽水さんを聴いていて、学校で習う前に(陽水の楽曲)「ワカンナイ」で「雨ニモマケズ」に対するクエスチョンマークを抱く、という刷り込みがあったことが、理由の1つとして挙げられるかなと思っているんです。物事を疑ったり、裏返してみることの面白さをいつしか知ったわけですが、'60年代がまさにそういう時代だったんじゃないかなと、僕は解釈しているんですよね。陽水さんをはじめとする団塊の世代の人たちはビートルズやボブ・ディランを聴いて、自分なりにアウトプットをしてきたバックグラウンドがありますけど、そういった'60〜'70年代前半ぐらいまでのカルチャーの価値観が、そもそも好きなんです。話が脱線するかもしれないんですけど、ビートルズとクイーンを比較して論じるのは、僕はナンセンスだと思っていて。比べるなら、ビートルズと同時代にリバプールで活動していたジェリー&ザ・ペースメーカーズ(サッカーのサポートソング「You’ll never walk alone」で有名)やビリー・J・クレイマー&ダコタスとか、スウィンギング・ブルー・ジーンズといったマージービート(リバプール・サウンド)だろうと。そういったバンドも聴きまくって、「このバンドは歌がうまいな」「このバンドはルックスがいいな」みたいに、自分の中でキャラクターづけをしていったりもしたんです。

──いわゆる、ディグっていったわけですね。

佐井:はい。で、リバプールって港町だから、ブラックミュージックのレコードがいっぱい入って来るんですよね。だから、どのバンドも「スロウ・ダウン」(※原曲はニュー・オリンズのアーティスト、ラリー・ウィリアムズのロックロール。ビートルズのカヴァーが有名)をカヴァーしていたり、アーサー・アレキサンダーの曲を演奏していたり、「意外と横並びで一緒じゃん!」みたいなことがわかってくるんです(笑)。

そうなると、「なぜ、このバンドはうまいんだろう?」って、横の比較で見て考えるようになるんですよ。例えば、はっぴいえんど(※1970〜72年に活動した大瀧詠一、細野晴臣、松本隆、鈴木茂の4人によるバンド。日本語をロックのメロディーとリズムに乗せた先駆者と名高い)が素晴らしいのは言うまでもありませんが、誰の影響を受けているんだろうって掘っていくと、モビー・グレープとかバッファロー・スプリングフィールドといった'60年代のアメリカのバンドに行き着くんです。はっぴいえんどの「はいからはくち」はモビー・グレープの「ヘイ・グランドマ」の影響をもろに受けていて、そう考えると新しいロックというよりも、当時の日本でモビー・グレープにインスパイアされているミュージシャンが極端に少なかっただけなんだなって、視点が変わってくるわけですね。サザンオールスターズの初期も、レオン・ラッセルやリトル・フィート的なサウンドで歌謡曲を演奏するというアプローチが新鮮だったのだと。で、僕もそういう“何と何を足すと、何々になる”みたいな化学反応的なものが好きなんです。

そんなふうに毛細血管的にたどっていくと、いろいろなものがリンクづけされてくる。そこから歴史の流れという縦軸とカルチャーという横軸の世界を交差させつつ、今の自分がどこに位置していて、どういうものに影響を受けてアウトプットしていくのか──と模索することが、僕なりの表現手法につながっている気がしているんです。

──なるほど、そのバックグラウンドは興味深いですね。

佐井:その横と縦の軸が交差する中で、生まれてくるアウトプットに興味があるんです。星野源さんも、細野晴臣さんの影響とブラックミュージックを消化して、ご自身のスタイルを生み出していらっしゃるじゃないですか。大根仁監督や小西康陽さんも、たくさんの素材の中からサンプリングして、その時代のカタチに合うようにアウトプットしていくスタイルですけど、僕もそういう手法がすごく好きなんですよね。

なので、初期衝動的にパフォーマンスするセックス・ピストルズの手法とは、ちょっと違っていて。ザ・ブルーハーツは好きなんですけど、表現という観点では自分と距離があるんですよね。大きな流れの中に自分がどこにいるかを客観的に見て、それを自分の感性でパッチワーク的につくっていくのが、僕の好むものづくりであり、僕が『日の丸』のような作品を発表することによって、「ゴダールも観てみようかな」とか「神代辰巳の映画も観てみたいな」と誰かに思ってもらえたなら、それだけで僕は歴史の中に存在する価値があるような気がするんですね。

それが自分のものづくりの方法論なので、パクリだと言われたとしてもオマージュはわかりやすく取り入れた方がいいと思っていて。ただ、「まんまじゃん!」って言われないように、ちょっと変えてみたりはします。たとえば、AをA’にするだけじゃなくて、ABにしてみるといったことが、僕が『日の丸』で実践したことではあったかなと思っているんです。

──ある種、DJ的なセレクトとミックスに近いのかな、とも思いました。

佐井:そうですね、DJに近いかもしれないです。「この曲の次に何をかけるんだろう、どういう繋ぎ方をするんだろう?」というところで驚かせたい、と言いますか。「こんな7インチ、知らない!」「それ、どこのレーベルから出てるの!?」みたいに、思わず前のめりになるようなセンスを発揮していけたら楽しいだろうなと思っています。

<PROFILE>

佐井大紀(さい・だいき)
監督/プロデューサー
1994年4月9日生まれ、神奈川県出身。2017年、TBSに入社。ドラマ制作部に所属、現在放送中の「Get Ready!」やドラマストリーム「階段下のゴッホ」など連続ドラマのプロデューサーを務める一方、企画・プロデュースした成田凌・黒木華主演の朗読劇『湯布院奇行』が2021年9月に新国立劇場・中劇場で上演された。また、ラジオドラマの原作や文芸誌『群像』への寄稿など、活動はテレビメディアに留まらず多岐にわたる。本作が初のドキュメンタリー作品かつ劇場公開作品。また、4人を殺害した死刑囚にして獄中で小説家として活動した永山則夫、若い女性たちから崇拝を集めて蒸発する事件を起こした「イエスの方舟」の千石イエス、安倍晋三元首相の国葬を題材にした2作目のドキュメンタリー映画「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」を鋭意制作中。

■『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』作品情報


2023年2月24日(金)公開

概要

1967年2月9日、劇作家の寺山修司が構成を担当したドキュメンタリー番組『日の丸』がTBSで放送された。街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」
「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」
と、普段は考えないような本質に迫る挑発的な質問を、矢継ぎ早に人々へインタビューしていく番組は放送直後から局に抗議が殺到。閣議でも問題視された曰くつきの番組として、語り草になった。それから半世紀あまり。TBSに入社した佐井大紀は研修で寺山版「日の丸」を視聴し、「現代に同じ質問をしたら、果たして?」と、1967年と2022年のふたつの時代を対比させることにより「日本」や「日本人」の姿を浮かび上がらせようと、自ら街頭に立った。55年という決して短くない時間は、日本と日本人にどのような変化をもたらしたのか、何を浮き彫りにするのか……!?

基本情報
出演
金子怜史(写真家)/シュミット村木眞寿美(インタビューア、ノンフィクション作家)/寺山修司/安藤紘平(映画作家)/今野勉(テレビマンユニオン最高顧問)ほか(順不同)

監督・出演・ナレーション
佐井大紀

配給
KADOKAWA

製作国
日本

© TBSテレビ

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