『長ぐつをはいたネコと9つの命』山本耕史が分析する自身の「かっこいいところ」
そんな物語の主人公・プスの日本語吹き替えを担当する山本耕史に話を聞いた。
まず台本の分厚さに驚いた
▶︎本記事の画像を全て見る――本作に対しての第一印象を教えてください。
山本耕史(以下、山本):自分のセリフがかなり多かったので、「ちょっとこれ何時間あるの?」と思ったぐらいに台本が厚くて。いろんな役をやってきましたけど、こんなに出演シーンが多い主役って意外といないんですよ。本当にずっと出ている。なので、「これは大変だな!」というのが最初でした(笑)。
でも、やっぱり出来上がったものを見ると、ストーリーは知っていたけどより面白かったし、感動もしましたね。アニメだからこそ、余計な概念がなく、キャラクターの言葉がフッと腑に落ちますし、すんなりと観られるというところはあるのかもしれません。いろんなおもしろさが盛り込まれているからハラハラもするし、ワクワクもするし。ちょっと心配もするけど勇気ももらえて、そこはかとなくハッピーエンドだから、自分が声をやっていなくても、楽しい作品だな、と思いました。
▶︎本記事の画像を全て見る
――今回は劇中で歌も。
山本:プスというキャラクターで歌うので、自分がただ歌うのとは全然違いますね。ディレクションの方もいろいろ伝えてくれました。そういう意味では歌をすごく気持ちよく歌ったというよりは、かなり細かく、丁寧に録った感じですね。
――演じてみて、プスの魅力はどういったところだと思われますか?
山本:途中でこれまでの8人のプスと、今のプスのシーンがあるんですけど、そのシーンでは人間、生き物のいろんな部分を代弁してくれていて。
すごくだらしない自分、傲慢な自分、ちょっとずる賢い自分とか。その中で唯一いなかったプスが「他人のために」というプス。最後の9人目のプスがそうなるところがすごく面白い作りだな、と。今までは優しいプスがいないんですよ。虚勢を張っているのがプスの生きざまなんだけど、最後に本当の強さを手にいれるためにそれを手放す瞬間が多分グッとくるんだろうな、と。
何かを捨てたときに大切なものが見つかる
▶︎本記事の画像を全て見る――そんなプスを作っていく上で、ご自身の経験が生かされた部分はありますか?
山本:人間って、いつも自然体でいつもおおらかに、大きく構えられるかって言ったら絶対にそんなことはないと思います。虚勢を張るときもあるし、なんならちょっと嘘を言わなきゃいけないときもあるし。
プスはずっと虚勢を張って生きて、みんなにレジェンドと呼ばれて、そのレジェンドと言われていることをエネルギーに変えて生きていくんだけど、あるとき、自分自身と向き合わなきゃいけない瞬間があって。そうしたら意外と自分自身はそんな強い生き物じゃなかったことに気づいて、怖さを知るということが明確に表現されているんですよね。
自分がいつどの瞬間でそうだったか、と言われると分からないですけど、やっぱり、20代のときとか、今考えるとすごく虚勢を張っていたんだな、と思います。昔の映像を観ると「恥っず!」ってなるぐらい虚勢張っていたときもありますけど、それがあるから、今があるとは思うんですよね。
――プスに共感できる部分はありましたか?
山本:共感できるな、と思いながらやってはいなかったですけど、「そういう瞬間も絶対あったよな」とは思います。強くいなきゃいけないし、負けを認めたら負けだ、みたいな瞬間って今でもやっぱりあるし。やっぱり人間ってみんなどこかでいい無理もしてるし、良くない無理もしてるから。プスは、あるとき無理をしている自分に気付いて、最後、生きるために今まで自分の中で決めていたことを捨てる。それって一番勇気がいることだと思うんです。
ちょっと話が逸れるんだけど、筋トレをしていると「毎日やっていて意思が強いですね」って言われるんですよ。でも、実は逆なんです。本当は志を強く持って休まなきゃいけない、僕らのレベルになると(笑)。これは本当に俺たちのあるあるで、意志がむしろ弱いから、「休みたい」というよりも「やんなきゃ」って思っちゃう。もっと意志を強く持てば「今日はやらない」「明日はやる」ができるんですよ。
だからプスも今まで続けてたことを捨てる瞬間が、むしろ一番強かったのかな、と思います。でも自分にも確かに「もういいかあ」というある種、諦めなのかもしれないけど、「そんなに頑張らなくていいか」と思ったときに割といろんなことが見えたりもするんですよね。
▶︎本記事の画像を全て見る
――プスたちは願い事を叶えるため、願い星を探しに行くわけですが、ちなみに山本さんは願い事はするほうですか?
山本:願い事をする暇があったら、自分から行動するタイプですね。
願い事って瞬間的にできるものの気がするんですよ。叶えたいな、と思うものができたときからもそこに向かうかな、僕は。例えば香取慎吾くんの電話番号を聞きたいってなったのに、「神様、香取くんの電話番号教えてください」って願わないでしょ?(笑)
――行動あるのみ、という。
山本:結果的に叶っていたけど、願ったからではないですよね。子どものころはおもちゃが欲しいとか願いがちだけど、「こういうときはここまで来られたことを感謝すればいい」って親父に言われてなるほど、と思いました。先のことを願うんじゃなくて、「健康でここにいられることをありがとうございます」って願い事より感謝なのかな。今は家族がいるので、「もしできれば、この先も健康でいれたら……いいな……」というぐらいは言いますけど(笑)。
年齢を重ねて、よりシンプルになった
▶︎本記事の画像を全て見る――プスはレジェンドとして周りから憧れられるカッコイイネコ、という存在だと思うんですけど、山本さんご自身が考える山本さんのかっこよさを教えてください!
山本:自分の!?
――はい!
山本:……かっこよさ? いっぱいあるなぁ、と思って……(笑)。
――お願いします!
山本:いやいや(笑)。こんなこと自分で言うのもあれだけど、優しいところかな。優しくしてるんじゃなくて、基本、優しいんだろうなと思います。あと明るいところとかね。いろいろな自分の取り組みを見てると、人の気持ちに割と寄り添うんだな、自分は、と。そこはかっこいいと言っていいのかな、と思いますけどね。
――年齢を重ねていかれる中で、ご自身に対する見方は変わっていますか?
山本:変わったところって、自分ではあんまり気付けないんですよね。もちろん結婚を機に生活が変わった、とかはあるけど、中身はどうなんだろう。そぎ落とした感じかな。変わったというよりはシンプルになった、という感じかもしれないですね。
――そんな山本さんが客観的に見られたときに、かっこいいな、と思うのはどういう方ですか。
山本:やっぱり優しい、明るいとか、あと面白い人がかっこいいですよね。面白い人ってやっぱりゆとりがある人じゃないですか。面白さにも、話が面白い人とか佇まいが面白い人、生き方が面白い人とかいろいろありますけど、そういう人はやっぱりかっこいいな、と思うけどな。きっと不器用なんだろうけど、不器用でも自分なりに生きてる人がかっこいいと思うし、なんなら器用に円滑に生きてる人よりも、かっこよく見えたりするな。いいな、なんか堅物な感じ、と思ったりします。
▶︎本記事の画像を全て見る
――最後に山本さんの生き方のポリシーを教えてください。
山本:結局ひっくるめると「まあ何でもいいか」っていうところかな。この仕事も「嫌になったらやめちゃえばいいや」と思っている方なんですよね。今はありがたいことにお仕事がありますけど、そこにしがみついているような人生は嫌だな、と思います。
以前、大泉洋さんに「耕史くん、そんなに鍛えて病弱な役とか細い役が来たらどうするの」、って聞かれたんだけど「即答で断ります」って言ったんですよ。役のために自分を弱くするのは考えられない。今の俺で使っていただけるなら、という感じです。もちろん、そういうふうに役に寄せる人を否定するわけじゃないですよ。でも、役のために何十キロ痩せて、という話を聞くと、そんな命かけてやる仕事なのかな、とたまに思います。健康の方がいいんじゃないか、元気に生きてるのがいいかな、というぐらいのところですね、自分のポリシーは。
(スタイリスト=笠井時夢/ヘアメイク=西岡和彦(PARADISO)/撮影=大塚秀美/取材・文=ふくだりょうこ)
<衣装協力=ジャケット ¥61,600、パンツ35,200、シューズ¥57,200=セモー (ビューロー ウエヤマ TEL : 03-6451-0705) / カットソー スタイリスト私物>
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
© 2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.