「らんまん」万太郎はなぜ竹雄の分のかる焼きを買わないのか<第15回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第15回を紐解いていく。
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竹雄の怒りが爆発
東京での博覧会の最終日。これで東京ともお別れです。万太郎(神木隆之介)は最終日を満喫し、あれこれ買い物しまくります。博物館で見た顕微鏡を買おうとして、高価過ぎると竹雄(志尊淳)を困らせます。いくらなんでしょうね。
今回買えなかったものはまた来たらいいとお気楽な万太郎に、東京はそんなに気軽に来られる場所ではないと竹雄がたしなめます。高知から東京に来ることがいかに大変かは、事前に、高知から東京の行き方を説明されたので、実感をもって見ることができます。
万太郎に対していらいらが募っていく竹雄。ふたりは気まずくなりますが、美味な牛鍋を食べたら自然に笑顔になり仲直り。そのうえ、牛鍋屋の客が峰屋の酒がいいと言うものだからもう上機嫌に。
万太郎は店の客にも大盤振る舞いします。どんだけ金持ちなのでしょうか。竹雄が、昔から大店の旦那はお金を使いまくるものと教えられていたというだけあります。
ですが、竹雄的には、使用人は、当主がどんなに遊んでも、経営をしっかりして、従業員を食べさせているからついていくのであって、店を第一に考えていない万太郎にその価値を見いだせず困るのです。
人ではなく店のために働くという割り切った考え方でやってきた竹雄でしたが、いつしか万太郎個人への思いが強くなっていくことに戸惑っていました。
万太郎が東京や植物への思いを強くするということは、峰屋から離れていくことで、そうすると万太郎と竹雄の関係は続かないだろうと想像して苦しいのでしょう。
万太郎を責めるとき、はきはきとセリフを発する志尊さん。セリフの意味がはっきり伝わってきますが、ときどき音が淡くなって、心の柔らかい部分をにじませます。やっぱり音を大事にする演劇人・野田秀樹さんの舞台を経験したひとは違うなあと思う箇所です。志尊さんは、長田育恵さんの書く、徹底的に突き詰めたところから生まれる情感を音楽のように奏でます。
万太郎が好きな竹雄は、綾(佐久間由衣)も好き。お土産に好きなものを買っていいと万太郎に言われ、気になったのは、綾に似合いそうな櫛でした。万太郎は寿恵子(浜辺美波)と植物に夢中で、綾は幸吉(笠松将)といい感じになっていて、と竹雄は報われなそうですが、彼にもなにかいいことが起こりますように。
さて、万太郎は、東京を発つ前に、もう一度寿恵子に会いたいと思いますが、屋台がみつかりませんでした。縁がなかったかと思ったら、その晩、屋台がもう一度出ていました。
かる焼きをもう一度買う万太郎。
買えてよかった(買える)
くにへ帰る
カエル
と言葉遊びが心地よいです。
でもなぜ、かる焼きを独り占めして竹雄には買ってあげないのでしょうか。ふたつ買って、一個を竹雄にはい、と手渡すだけでいいのに、なぜ。
東京での万太郎と竹雄の珍道中は酒と植物と恋とが混じり合った充実した話なのに、帰りがけに木の幹に触って挨拶するところまで完璧なのに、かる焼き部分の足りなさだけじりじりとなります。もしかしてこれは、わざと穴を作って忘れられなくさせる作劇術なのかもしれません。完璧過ぎると満足してそれで終わってしまいますから。
【朝ドラ辞典2.0 ツッコミ(つっこみ)】見てる側があれ?と思ったり、ツッコんだり、議論できる隙間を作ることで、視聴者の能動性を刺激する手法はSNS時代に増加した。ツッコミ箇所が多すぎると視聴者のストレスになり、逆につっこまれそうな部分を徹底的につぶしていくというやり方もあるが、これまたやりすぎると理屈ぽく堅苦しく、あるいは思考停止を生むため、なにごとも適度な塩梅が肝要である。
(文:木俣冬)
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