<興行分析>『名探偵コナン 黒鉄の魚影』悲願の100億円へロケットスタート!
4月中旬恒例(といっても2020年はコロナ禍で延期……)の『名探偵コナン』の劇場版最新作『黒鉄の魚影(サブマリン)』が公開初日だけで観客動員58万人、興行収入8.5億円という破格のロケットスタート切りました。
『黒鉄の魚影』ではコナンと灰原哀と因縁深い“黒ずくめの組織”が大々的に登場し、暗躍します。組織が動き出せば当然のごとく赤井秀一(沖矢昴)、安室透(降谷零/バーボン)も動きを活発化させて……。
ということでほぼ“コナンオールスター映画”の『黒鉄の魚影』、その最初の週末の数字が上がってきました。
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悲願の興行収入100億円へ
そもそもの流れを簡単に振り返ると、2018年の『ゼロの執行人』でいわゆる“安室の女”現象によって興行収入が91.8億円を記録。その前の『から紅の恋歌(ラブレター)』の興行収入68.9億円だったため、ものすごいジャンプアップが起きました。
以降、2019年の『紺青の拳(フィスト)』が興行収入93.7億円となり『ゼロの執行人』の勢いとヒットの規模感がキープされました。
2020年はコロナ禍でお休みとなった『緋色の弾丸』が2021年に座席制限、時間制限がある中で公開され76.5億円の興行収入をたたき出し、2022年の『ハロウィンの花嫁』でいよいよ大台突破の機運が高まりました。関係者のインタビューでも『ハロウィンの花嫁』は興行収入100億円突破すると思っていたと語られています。
ところが残念ながら『ハロウィンの花嫁』は興行収入97.8億円で終映。悲願の大台越えは1年持ち越されました。(その間に『ONE PIECE FILM RED』の197億円という記録的なヒットがありました)
『黒鉄の魚影』は公開から3日で興行収入31.46億円、観客動員217.64万人という数字でした。これは前作でありシリーズ最大ヒット作でもある『ハロウィンの花嫁』対比で興行収入が159.6%、観客動員が164.8%という数字です。『ハロウィンの花嫁』もシリーズ最高のロケットスタートを切りましたが、なんとその1.5倍以上の数字を挙げてきました。
さらに目下、韓国・中国でも大ヒット中で、日本国内でも144.5億円を突破している『すずめの戸締まり』との対比では興行収入が167%、観客動員が163%という数字です。
この数字から見れば、よほどのことがない限り(上映中止などの最悪中の最悪のトラブル以外)『黒鉄の魚影』は、シリーズ悲願の興行収入100億円も実現してくれそうです。
初日の劇場の空気感は?
今回も新作初日の空気感を知りたくて、大ヒットの震源地TOHOシネマズ新宿を覗いたところ、非常にいい空気感でした。
ネット予約が定着したため、チケットブースの長蛇の列はありませんが、リアル販売がまだまだ主流のグッズショップにはかなりの列ができていてファンの熱さを感じました。
また「公開初日になんとしても見ておきたい!」という気持ちの表れでしょうか、仕事を終えて駆けつけられる夜の回は混雑して、一部には昼前で完売となっている回もありました。これが本文冒頭の初日の凄まじい数字に表れているのだと思います。
『黒鉄の魚影』の順調な興行の先を考えると、何事もそううまく行くようにはできていないようです。映画業界において、有数の稼ぎ時であるGW興行に向けて各社の勝負作・大作がぞくぞくと公開される予定なのです。
初夏から夏に向けての多くの大作映画のチラシが新規に展開されているのも、関係者の期待を感じさせます。
少しマニアックな視点として、映画館のチラシ・ポスター・予告編の新規展開の量はその週末の興行の動向予測を知ることができる指標です。劇場での宣伝展開の対象は当然、直接劇場に訪れた観客です。そうなると当然「混雑する映画(=ヒットするであろう映画)」の公開に合わせる形での宣伝展開は分厚くなります。
今回『黒鉄の魚影』に合わせて『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の新規チラシと『トランスフォーマー/ビースト覚醒』『キングダム 運命の炎』の1号チラシが展開され、多くの人が手に取っていました。
“コナンの次の映画”として積極的な売込みがされています。
今後は?激戦のGW興行
気になるのが、今後の『黒鉄の魚影』をめぐる興行動向(=映画館の上映規模の確保)です。
他の興行分析記事でも触れていますが、シネコン時代となった今の映画興行においては、その作品単体のポテンシャルだけではいかんともしがたい事情があります。
その作品の公開前後に“ヒットが見込める作品”があった場合は、そちらにも当然上映回数・上映座席数・IMAXなどのラージフォーマットを分配せざるを得ません。幸いにして(?)『黒鉄の魚影』の前には、そこまで勢いのある大きな映画はありません。
ただ公開後となると話は別で、わずか1週間後の4月21日(金)から『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』前後編の前編『-運命-』が公開されます。
前作『東京リベンジャーズ』は2021年の実写邦画ナンバーワンのヒット(興行収入45億円)を記録している実績があります。『血のハロウィン編』はメインキャスト・メインスタッフ続投の続編2部作であるため、予想される相応の盛り上がりに合わせた興行体制が敷かれることになりそうです。
『黒鉄の魚影』については、さらに2週後の4月28日(金)からがまた大変です。
『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』『聖闘士星矢The Beginning』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』というビッグネームが3作同日に公開されます。さらに変則的ですが、5月3日(水)に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』が公開されます。
「GWだから」といえばそれまでですが、大作が過密であることは間違いありません。
特に『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』は、どちらもIMAXなどのラージフォーマット対応作品で『黒鉄の魚影』を含めた三つ巴の壮絶な“パイの奪い合い”が起きることでしょう。
ここでは『黒鉄の魚影』目線で“大変さ”を語っていますが、この“競合の厳しさ”についてはそれぞれの作品にもいえることです。観客側としては嬉しい悲鳴でしょうが、それぞれの映画側からみると激戦を前に別の意味で悲鳴が聞こえてきそうです。
さて、来年はどうする?
来年のコナン映画について、今年の『黒鉄の魚影』が“人気キャラクターのただの顔出し”で終わらなかったことを考えると、どんなエピソードになるか今から期待半分、心配半分といった印象です。
よく“コナンの劇場版”と“ワンピースの劇場版”が比較されることがありますが、ワンピースが“数年に1本”という公開体制であることに対してコナンは基本的に“年に1本・毎年新作”という違いがあります。
コナンファンとしては変わらない楽しさが毎年やってくるという喜びがありますが、作り手は本当に大変だと思います。『緋色の弾丸』は“コロナ禍”というハンデがありましたが、それ以外は基本的に数字的にも内容的にも右肩上がりを求められ続けている状況です。
今回、悲願の興行収入100億円突破が確実視されている中で、2024年の新作のハードルは高まるばかり。さて、来年の今頃はどんなテンションで記事が書けているのでしょうか……?
(文:村松健太郎)
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