「ペンディングトレイン」2話:信じる者と疑う者、生き残るのはどっち?


▶︎「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」画像を全て見る

山田裕貴主演の“金10”ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」が2023年4月21日放送スタート。本作は、山田裕貴演じる美容師・萱島直哉をはじめ、上白石萌歌演じる体育教師・畑野紗枝や、赤楚衛二演じる消防士・白浜優斗らが、乗車した電車内に閉じ込められ、近未来に飛ばされてしまうSFサバイバルストーリー。

本記事では、2話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

「ペンディングトレイン ー8時23分、明日 君と」2話レビュー

水も食料もない、周りにはよく知らない人間ばかりで、ほかに行くところもない……。まさに極限状態のなか、萱島(山田裕貴)をはじめとする“30年後の未来に飛ばされた乗客たち”は、ギリギリで立っている。


こんな状況下においても、消防士である白浜(赤楚衛二)には正義感があり、どんな相手にも誠実に接する。田中(杉本哲太)が大量の水を盗んだことがわかっても、これまでと変わらずここにいるべきだと主張した。おまけに、畑野(上白石萌歌)と空を見上げながら、“満月が綺麗だ”と会話する余裕さえある。

ドラマだから違和感なく成立する人物設定だろうが、現実にはありえない、と思ってしまう。約2日間まともに飲食できていない人間が、空を見上げる心持ちになれるだろうか。田中のように、狂ったように歌いながら自分の歯を抜いたり、寺崎(松雪泰子)のように、家族のことを思って一目はばからず泣いたりしているほうが、まともな人間のように見えてくる。



そして、萱島のように、田中を追放するためわざと多数決の流れをつくったり、水を見つけた場所を隠そうとしたり、むやみに嘘をつき続けたりするのも自然に思えてくるから不思議だ。


萱島は、父親が違って12歳も離れた弟・達哉(池田優斗)を育てるため、生きるのに必死の生活を送ってきた。まだ本編で詳しく描かれてはいないが、人に騙された経験も多くしてきたはず。騙される前に騙す、それが萱島にとっての処世術だとしたら、言ってしまえば彼は“疑う者”。そして、白浜が“信じる者”だ。

信じる者と疑う者。この極限状態で、生き残るのはどっちだろう。

彼らが30年後の未来に飛ばされてしまったのは事実。水源を求めて崖を登った白浜が、その頂上から見た景色は、見渡す限り人も建物もない受け入れがたいものだった。救助が来るような気配もなく、水や食料も限られ、スマートフォンの充電は尽きていく。


彼らの心中には、言葉にならない思いがふつふつとわきあがる。その衝動が、届くとは限らないメッセージを残させる。親へ、子へ、友人へ、仕事仲間へ。


普通だったら、あの日あの時間に電車にさえ乗らなければ、いつも通りに会えていた大切な人たちに対し、万が一のための言葉を残す。その様子は、現実に生きる私たちをも立ち返らせるほど、切なく危機迫って見えた。いま言わなければ、二度と言えないかもしれない言葉。ありがとう、ごめん、元気でね。そんな他愛のない一言ずつが、静かな電車内に響く。

「なんで? もう起こってたことだよ」

「みーんな、見ないフリしてただけ」

文脈は違えど、萱島が言ったセリフが妙な後味を残す。もうすでに起こっていることなのに、見ないフリをしてなかったことにする。そういったことが、人生には多すぎる。

大切な人へ大切なことを伝える営み。確実に変化している地球環境。“現状維持”が決して良い意味を持つわけではない、この国の政治。

私たちはこのドラマを、サバイバルSFドラマとして見ている。けれど、極限状態のなか、生きるか死ぬかのやりとりをしている登場人物たちの人生は、詳らかにされるたびに突きつけてくる。このままでいいのか、見ないフリをしているんじゃないのか

最後には、信じる者ではなく疑う者が生き残る。甘い汁を吸う。そんな世の中でいいのか、と。

そう簡単に答えが出そうにはない問いを、このドラマは投げかけ続けている。



(文:北村有)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

Copyright© 1995-2023, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.

RANKING

SPONSORD

PICK UP!