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映画コラム

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2023年07月14日

【最速レビュー】『君たちはどう生きるか』史上もっとも難解な、宮﨑駿監督の集大成

【最速レビュー】『君たちはどう生きるか』史上もっとも難解な、宮﨑駿監督の集大成


連想した映画は、まさかの……


あらすじはこうだ。少年・牧眞人(まきまひと)は太平洋戦争の最中、火事で入院中の母を亡くし、父と共に東京を離れる。疎開先で出迎えたのは、父の再婚相手だった。彼女を新しい母だと受け入れられない眞人は、転校した後にとある問題行動を起こし、そして不可思議な世界へと旅立つ。

強く連想した映画がひとつある。それは2011年公開の新海誠監督作『星を追う子ども』。そちらでは父を亡くした少女が主人公で、『君たちはどう生きるか』では母を亡くした少年が主人公。共に親を亡くした子どもが、日常の世界から、“生と死”を意識させる異世界への冒険に旅立つという流れは、かなりの部分で一致している。もしくは『不思議の国のアリス』など古典的なファンタジー作品を思い出す方もいるだろう。



吉野源三郎による同名小説(漫画)を読んでみてほしい理由

『君たちはどう生きるか』は、1937年刊行の吉野源三郎による同名小説からタイトルが取られている一方、映画の中身はまったく小説とは無関係であると明言されていた。とはいえ、映画の劇中では母の遺品であったその小説を、主人公の眞人が読む場面がある。

確かに、映画と小説の「君たちはどう生きるか」に、まったく関係はないとは思う。しかし、その「君たちはどう生きるか」を読んだことが、その後に冒険に旅立つ眞人の心を確実に強くしたのだと思える場面があった。筆者は事前に漫画版を読んでいたおかげで、眞人がその場面で「どうしてそう思ったのか」がよりわかりやすくなったのだ。

また、小説の「君たちはどう生きるか」の主人公である“コペル君”は父を亡くしている。そのことが映画では母を亡くした眞人の喪失感と“対”になっているという見方もできるだろう。ぜひ、合わせて読むことをおすすめする。

漫画「君たちはどう生きるか」


幼少期の宮﨑駿が投影された主人公

映画の主人公である眞人は、ほぼ間違いなく幼少期の頃の宮﨑駿が投影された姿だ。劇中の眞人と同様に、宮﨑駿は子どもの頃に小説「君たちはどう生きるか」を読み感銘を受けていた。眞人は空襲を受けた東京から疎開をしていて、宮﨑駿は宇都宮での空襲を経験していた。眞人の母は物語の冒頭で空襲で亡くなり、宮﨑駿の母は6歳の頃から寝たきりで『風の谷のナウシカ』製作中に亡くなった。父が航空機会社に勤めていることは、両者で同じだ。そんなふうに、完全に両者は一致しているわけではないが、やはり共通点が多い。

ここでは伏せておくが、物語の終盤で眞人が何に気づき、そしてどのようなことを目指すのか、その意味を噛み締めてみてほしい。宮﨑駿は『紅の豚』を「“現在形の手紙”を自分に送った作品」とも答えていたこともあったが、今回の『君たちはどう生きるか』は宮﨑駿によるかつての自分への手紙でもあるのだろう。

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宮﨑駿監督の集大成にして、やはり“矛盾”を描いた賛否を呼ぶ作品に


この『君たちはどう生きるか』は、齢82歳となった宮﨑駿が「ここに来て集大成的な作品をぶつけてきた」という感慨深さがある。さまざまなモチーフやキャラクターに、今までの宮﨑駿作品のらしさ、もっと言えばフェティシズムを存分に感じることができたからだ。

そして、宮﨑駿監督作の中でも、この『君たちはどう生きるか』は特に賛否を呼ぶ作品であると思う。シンプルな冒険活劇のようで観念的で理解し難く“死”をも想起させる恐ろしさは『崖の上のポニョ』よりもさらに加速している。自身の中にいる“矛盾”を問い直そうとする様は、『風立ちぬ』の「戦闘機は大好きだが戦争は大嫌い」という局所的なものよりも、さらに大きな事象へと及んでいる。

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だが、その“矛盾”を描くことこそが、まさに宮﨑駿イズムでもある。序盤で主人公の眞人は「なぜそんなことをするのか?」と思ってしまう行動をするのだが、その矛盾した気持ちも父の言動などから「わかる」ようになっていく、そこにこそ迫力を感じさせる内容だったのだから。

その矛盾を描くことそのものが、やはり「ピンとこない」方がいる理由、賛否も激しくなる原因でもあるのだが、そこにこそ面白さがある作家だと改めて思えたのだ。

“押し付けがましさ”にも向き合った映画


この『君たちはどう生きるか』のタイトルを聞いて、「説教臭いな」「押し付けがましいな」と感じた方は少なくないのではないか。それはまさに鈴木敏夫プロデューサーが危惧していたことでもあるのだが、映画を作っているうちに「世の中が『君たちはどう生きるか』という時代になってきた」と気づいていったのだという。

いわば、誰しもが自分の人生や未来についての“自己決定”を求められる時代になった、ということなのだろう。そして、映画の終盤で主人公の眞人が、とある重積を“押し付けられそう”になるシーンがある。それに対しての答えも、なるほど宮﨑駿が今だからこそ訴えたいことなのだと納得できた。それをもって、本作は前述したように宮﨑駿によるかつての自分への手紙でもあると共に、劇中の戦争の時代からは遥かに未来である、さらなる混乱と困難が待ち受ける現代の人にぶつけてきた作品なのだろう。

そういう意味では“押し付けがましさ”に自覚的な内容ともいえるので、タイトルに感じていた説教臭さはほとんどなかった。はっきり言って構成はやや歪(いびつ)で、ほとんど破綻しているとさえ思った部分もあった。だが、劇中の事象がいろいろと難解であっても(だからこそ)、観客が自主的に考えることができる、豊かな映画作品になってたとも思う。

それも含めて、宮﨑駿監督が繰り返してきた引退をまたも撤回してでも「届けたかったこと」なのだと納得できた。ぜひ、劇場でこそ見届けてほしい。

(文:ヒナタカ)

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