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2023年10月06日

人の心を突き動かす、二宮和也の俳優としての愛情表現

人の心を突き動かす、二宮和也の俳優としての愛情表現


やはり、目を離すことができない、と言わずにはいられない。二宮和也の話である。

2022年は日曜劇場「マイファミリー」で主演を務めたほか、映画『TANG』にてタング役の声優を、『ラーゲリより愛を込めて』では主演を務めている。『ラーゲリより愛を込めて』では日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞している。

10月からはドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(フジテレビ・月曜21時~)に出演。また、映画『アナログ』も公開となる。

改めて、二宮の俳優としての魅力について考えてみたい。

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圧倒される「息子」としての愛の表現の仕方

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ドラマのみならず、映画にも多く出演している二宮だが、ひとつの転機となるのが2015年の公開の映画『母と暮せば』だろう。

山田洋次監督作品で吉永小百合とともにW主演を務めた。そして、本作で日本アカデミー最優秀主演男優賞を受賞。また作品自体も、第89回アカデミー賞・外国語映画部門日本代表作品となっている。

舞台は戦後、1948年8月9日の長崎。助産婦として働く伸子(吉永小百合)の前にひょっこりと息子の浩二(二宮)が現れる。浩二は3年前に原爆で亡くなっていた。遺体どころか遺品もない。だから亡くなったと信じたくなかった伸子。しかし3年が経ち、ようやく浩二が帰ってくると期待することを「あきらめる」と口にしたばかりだった。

浩二が帰ってきたことに驚く伸子。浩二は穏やかに笑って言う。

「母さんはあきらめが悪いから、なかなか出てこられなかったんだよ」

こうして2人は浩二が生きていたころの楽しかった話、悲しかった話、辛かった話を語り合う。

わりとあっさりと伸子が幽霊となった浩二を受け入れているが、幽霊でもなんでもいいのだろう、と思う。息子が帰ってきてくれた。それだけで十分だったのだろう、ということが伸子の言葉の端々から伝わってくる。

浩二が帰ってきた理由は母だけではなく、婚約者の町子(黒木華)によるところも多いように感じたが、どちらにしても、浩二の他人に対する愛があふれている。

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そしてもしかすると、ただ思い出を振り返っているだけでつまらないと感じる可能性もあるかもしれない。しかし、そこはさすが吉永小百合と二宮和也。各シーンで描かれる感情の起伏、浩二の生きることへの想い。ある日突然、命を奪われてしまったことへの納得のいかなさ。二宮から発せられる、説明しきれない感情の発露は観ている側の心を突きさす。

個人的に、二宮和也は憑依型の役者ではないと思う。等身大の自分に感情を落とし込んだ上で、役として発しているような……。もしかして、二宮は自身が演じる役柄の心情を全て明確に言語化できる人なのではないだろうか、と思ってしまう。

本記事を書くにあたって改めて『母と暮せば』を見返したのだが、いつ見ても冒頭の原爆投下のシーンは胸を抉られる。

その一方で、浩二の姿は観るタイミングによって少し異なる印象を受けるように思う。そう考えると、観る側に寄り添った演技をしていると言えるのかもしれない。

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▶︎『母と暮せば』を観る

不器用だけど真っすぐな愛を描く「VIVANT」

そして二宮といえば、記憶に新しいのが日曜劇場「VIVANT」だ。

キャストは事前に発表されていたが、それぞれがどのようなキャラクターで、どのようなストーリーかもわからないままスタートした。おまけに二宮の出演は明かされていなかったため、ドラマ第1話のラストで出演シーンを見た視聴者は驚いたのではないだろうか。

中盤まではその正体がはっきりしていなかったが、二宮演じるノコルは国際的テロ組織「テント」の創設者でリーダー、そして主人公・乃木(堺雅人)の父親であるノーゴン・ベキ(役所広司)の息子。また、テントのナンバー2であり、資源開発会社の代表を務め、ロシア語・モンゴル語・日本語を操る優秀な人物だ。ベキの信頼も得ている。

だが、乃木が現れてからノコルの様子が変わってくる。慕っているベキの血のつながった息子の出現に、ノコルは動揺を隠せない。子どものように拗ねて見せ、乃木に対しては冷たい態度をとる。
新参者に対する嫌がらせとも見えそうなものだが、父親を取られたくない、という幼い心も感じさせる部分が要所に感じられた。またそれがノコルに人間味を感じさせ、憎めなくなってしまうのだ。

大きな組織のナンバーワンとナンバー2というポジション、そして父と息子という絶妙な関係性をビジネスライクな付き合いの中にわずかな嫉妬を滲ませることで見事に演出してみせた。

そしてやはり、愛というものを表現するのがうまい人なのだという印象を抱かざるを得ない。

ノコルとベキの関係性、ノコルと野木の関係性。いずれも、ノコルが発する感情は不器用で、でも愛したくて……という想いが伝わってきて、辛い。

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愛で心を揺さぶる

『母と暮せば』と「VIVANT」から感じられるのは、二宮の息子役としての巧さ。しかし、今や父親役もこなすようになり、あらゆる表情で「愛」の形を私たちに伝えてくれる。


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映画『アナログ』では携帯電話を持たない女性・みゆき(波瑠)と恋をする悟役を演じる二宮。連絡先を交換せずに「毎週木曜日、同じ場所で会う」ことで想いを積み重ねるという、現代で稀有な形で愛を描く。

言葉以外の部分で雄弁に愛を伝える二宮和也。その愛にこの秋から冬は改めて心を震わせることを期待したい。

(文:ふくだりょうこ)

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