<大ヒット公開中>『ゴールデンカムイ』は大ヒットシリーズ化なるか?
各映画会社にとって、その年の“勝負作”というものがあります。明言されずとも、年間のラインナップを見たときに明らかに力が入っているであろうということが伝わってくるものです。
年明けして早々ですが、邦画最大手・東宝の今年の勝負作が登場しました。それが『ゴールデンカムイ』です。
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映画『ゴールデンカムイ』は大ヒットシリーズになる?
映画『ゴールデンカムイ』の本編を見た方、あるいは未鑑賞でも原作をご存知の方は想像がつくかもしれませんが、全31巻に及ぶ原作を一本の映画に納めることはできず、本作は序章というか「ここからいよいよ物語が始まっていく!」感たっぷりの映画となっています。
この路線、しかも山﨑賢人主演ということからどうしても大ヒットシリーズの『キングダム』が頭をよぎります。こちらも2019年に1作目が作られ大ヒットすると、2作目以降は基本的に大枠をまとめて撮影してそれを分割するような形で公開中です。
2022年の『キングダム2 遥かなる大地へ』、2023年の『キングダム 運命の炎』と年に一本ペースで新作映画が公開され、2024年は7月に『キングダム 大将軍の帰還』が公開されます。『キングダム』は3作目まですべて興行収入50億円を突破するモンスターシリーズとなっていて、これは『踊る大捜査線』シリーズや、『海猿』シリーズに続くシリーズ化の成功例といって良いでしょう。
こういった実績や映画本編の作りから、『ゴールデンカムイ』もまたシリーズ化を狙っているタイトルと言って良いでしょう。
『ゴールデンカムイ』が大ヒットシリーズとなるために、内容における不安要素を乗り越えられているかどうかが重要です。
まず、原作のスケール感を確保できるのか。これについては『キングダム』のノウハウをしっかりと活用できていると思います。本物ロケ志向の『キングダム』を作ったことにより、全くのゼロから始めるよりも作品製作に対するアドバンテージは大きな違いがあるでしょう。しかも『ゴールデンカムイ』の脚本は『キングダム』シリーズを手掛けている黒岩勉という、最高の座組です。
『キングダム』は歴史大作で『ゴールデンカムイ』は冒険活劇であり、作品のスタイルに違いはありますが、実写映像化に際しての見どころは何といってもアクションシーンです。
個性豊かなキャラクターが様々な場面でバリエーション豊かなアクションシーンを展開します。1対1・1対多・室内・屋外(雪原や走るそりの上)、さらに日露戦争直後という時代設定もあり刀と銃の対決もあり、狩猟技術に長けたアイヌの人々も深く物語に絡んでいくため弓矢も重要な武器になります。
アクションシーンは映画の中でも一番“噓”が露呈しやすい部類にあり、ここが手薄だといきなり映画がトーンダウンしてしまいます。
『キングダム』では人海戦術に打って出たり、『るろうに剣心』では香港のワイヤーアクションを取り入れたりして“生身感”を焼きつけていたことも記憶に新しいでしょう。
『ゴールデンカムイ』の監督を務めたのは『HIGH&LOW』シリーズの久保茂昭監督。『HIGH&LOW』シリーズのアクションシーンは、出色の出来でジャパンアクションアワードを受賞したこともあります。
スケール感に長けた黒岩勉脚本とアクションに長けた久保茂昭演出というのは、『ゴールデンカムイ』の映画化にはピッタリな組み合わせといえると思います。
山﨑賢人は大型企画の主演を託せる俳優
『ゴールデンカムイ』の実写化企画が発表されたときに「また山﨑賢人?」という声が一部で出ました。前述の『キングダム』を含めて、山﨑賢人の出演映画に原作ものの実写化企画が非常に多いのは確かです。
他にも数々の大型タイトルに参加し、2024年は『ゴールデンカムイ』以外にも夢枕獏のベストセラー小説の再映画化『陰陽師0』で主人公の安倍晴明を演じます。
正直、「原作もので山﨑賢人主演企画」はやや飽きが来ている感もあります。ただ逆にいえば、山﨑賢人という俳優は、大型企画の主演を託せるカリスマ性と存在感を持った人といえるのだと思います。
「ゴールデンカムイ」の原作ファンとしては、玉木宏演じる鶴見中尉と舘ひろし演じる土方歳三に期待の声が集まりましたが、このような飛び道具的な設定のキャラクターが映画の中で伸び伸びと躍動できるのも、主役がドンとど真ん中に構えて映画を支えてくれているからこそだと思います。
山﨑賢人は、ある意味とても貴重な“主演型俳優”の一人といえるでしょう。これから年齢を重ねれば、さらに深みも増していきます。テクニックは経験値に比例して増えていきますが、主演を任せられるのはある意味“天性のもの”といえます。
やや食傷気味な人もいるかもしれませんが、作品を見る前に山﨑賢人主演作品だからということだけで鑑賞を避けるのは得策とは言えません。
『ゴールデンカムイ』公開3日で5億円突破
『ゴールデンカムイ』は公開3日間で興行収入5.3億円、観客動員35万人を記録して堂々のランキング1位スタートを切りました。
これは『キングダム』1作目対比で興行収入77.2%、観客動員70.2%、『キングダム 運命の炎』対比で興行収入50.7%、観客動員50.6%という数字です。
『ゴールデンカムイ』が目標としている数字は高いものと思われますが、まずは手堅いスタートを切れたと言えるのではないでしょうか?
配給元である東宝の鑑賞後アンケートによると、観客満足度が高いという結果が出ているそうです。また全国の上映劇場で集客トップ10に、北海道の映画館4館がランクインしているという“ご当地映画”的なウケ方もしています。
ちなみに、2月16日より4DX版(60館)の上映が決定されています。
『ゴールデンカムイ』の興行展望
大ヒットスタートを切った『ゴールデンカムイ』の今後の興行についてはどうなるのでしょうか?
シネコン時代の映画興行は作品にどれだけ力や勢いがあったとしても、前後に力のある作品があればどうしても上映枠が制限されてしまいます。
まず先行している作品については、『ゴールデンカムイ』の前に大きな作品が邦画・洋画ともに見当たりません。強いていえば昨年末公開の『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』くらいかと思いますが、こちらも公開から4週が経っているため勢いはやや落ちてきているといえるでしょう。
問題は公開後の作品の並びです。局所的なウケ方をする作品はありそうですが、2月から3月まで実写大作作品が邦画でも洋画でもありません。3月15日公開の『デューン 砂の惑星PART2』あたりはビッグタイトルではありますが、日本での爆発的な訴求力はないのではないかと思います。
あえて挙げるとすれば、2月2日公開予定の『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』が大きな脅威になりうるでしょう。2年目になる“鬼滅の刃ワールドツアー”と題した特別編集版上映。昨年の『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は特集上映でありながら、なんと興行収入41.6億(海外の数字を加えると120億円前後)を稼ぎ出しました。
この実績もあり、今年も相応の上映枠(昨年が418スクリーン、今年が427スクリーンを予定)を確保してくるかと思います。
公開日は『ゴールデンカムイ』の3週目にあたるので、本作にとっては大きな試練となりそうです。ただ、たとえ『映画「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』と競り負けてしまったとしても、相乗効果を生んでハイレベルな数字を出せれば、『ゴールデンカムイ』にとっては「勝負に勝って試合に負けた」状態になるだけのため少ないダメージで納めることができるかと思います。
逆に言うと、この2月2日週を乗り越えてしまうと対抗馬が少ない状態になるため、ロングラン興行の可能性が高くなります。
『ゴジラ-1.0』がライバルとの競り合いをうまく乗り越えロングランヒットを成し遂げて、興行収入50億円(日本国内)を突破しているので、『ゴールデンカムイ』もこの流れに乗れれば最高です。
冒頭にも触れたとおり『ゴールデンカムイ』はシリーズ化を前提にした企画だと思われるので、今後の数字の面の動向にも注目し続けたいところです。
(文:村松健太郎)
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