続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年05月14日

「虎に翼」何も言わずに去っていく花岡(岩田剛典)は一握りの男<第32回>

「虎に翼」何も言わずに去っていく花岡(岩田剛典)は一握りの男<第32回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第32回を紐解いていく。

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はしゃいでいるのは花江だけ

裁判官になる試験に受かった花岡(岩田剛典)と、ふたりきりでお祝いのお食事に行くことになった寅子(伊藤沙莉)

花江(森田望智)はプロポーズがくるのではないかと大はしゃぎ。
口紅を塗っていくといいなどと助言します。

口紅などの些細なことに気づくのは「一握りの男」だと花江が言ったあと、居間で子どもたちと遊んでいる直道(上川周作)のアップと素っ頓狂な叫びのカットが挿入されて、そこからタイトルバック。直道はたぶん、一握りの男ではない。
これは、朝ドラで時々見受ける、朝ドラらしくない表現をがんばってみたんだろうなあと思われるものでしょう。

タイトルバック明け、寅子はその日のために、黄色いワンピースをはる(石田ゆり子)と花江と3人で仕立てて、当日に臨みます。当時あった型紙や作り方の載った本には「清楚なワンピース」と書いてあり、清楚系を狙ったところは、花江のアイデアでしょう。

当日、雲野(塚地武雅)と岩居(趙珉和)にワンピースをひらひらさせて見せますが、彼らも一握りの男ではないようで、まったく反応しません。いや、気付いたとしても、寅子のアピールが手慣れていないので、気持ち悪いと思うのではないかと……。

常盤(ぼくもとさきこ)は何か特別なことがあるのかと気づきます。彼女は「産めよ増やせよ国のため」と書いてある雑誌を読んでいます。これが厚生省制定の「結婚十訓」の第10条にあったのです。

しかし、こんなにも鮮やかな黄色のワンピースを着てくれば、雲野も岩居も、言う言わない、あるいは、それは女ごころだと気づくかは別として、なんだその派手な格好は、とは思うでしょうけれど、そうではない。

男たちはつねにものすごくおばかさんに描かれていて気の毒になります。でも、そこには狙いがあるのだと推察します。このような描写で男性が傷ついたとしたら、女性たちはその何倍も傷ついてきたということなんでしょう。

花岡は、寅子のおしゃれに気づく「一握りの男」でした。さらに彼のそのアンテナは、女のおしゃれにだけ感度があるわけじゃないところが、「一握りの男」たる所以です。

お祝いのお食事は法曹会館のラウンジ。穂高(小林薫)桂場(松山ケンイチ)がよくお酒を飲みながら密談している大人っぽい場所です。

ほかにお店を知らないふたり。でも一度ここで食事をしてみたかったという花岡。寅子もそうで、「ちょっと大人になった気分」と喜びます。

そのとき花岡は、世帯をもつ人もいるほど自分たちはもう大人だと、さりげなく言います。ところが寅子はスルーして自分はまだ半人前、まだはじまっていない、これから経験を積んで立派な弁護士になりたいわ、と返します。

きっぱりした寅子の顔と、憂いある花岡の表情。

寅子「とにかく ここではじめての食事が花岡さんで私とっても嬉しいの」
花岡「ずるいよな猪爪は そういうことをさらっと言ってのけるから」

寅子は意外と罪な女。「世帯」という言葉は無視しながらも、さりげなく花岡への好意は伝えて、彼の心を動かします。
花岡はふっと笑って、裁判官として故郷・佐賀地裁に赴任することになったと報告します。

寅子「なかなか会えなくなるわね」
花岡「そうだね」

こういうしかなくなるふたり。そのあとふたりは言葉がありません。
寅子も言いようがなく、花岡も、自分はまだまだこれからだという寅子にはもう何も言えないのでしょう。切ない。

法曹会館の外、噴水の前で、やや別れがたそうですが、寅子が「お互いがんばりましょう」と切り出し手を差し出します。

握手した手をさっと離し、花岡は「じゃあまた」と吹っ切るようにして去っていきます。映画のようにかっこいいコートと帽子とマフラー姿の花岡は、振り返らず、片手をさっとあげてそのまままっすぐ歩いていきます。

この場面、寅子こそ「一握り」の察しのいい人ではなく、鈍い、で片付けたくなりますが、そうではない可能性も考えられます。

寅子は仕事柄察しがいいはずで、最初は気づかぬふりして結婚話に進めたくなかったのではという気もするのです。過去、見合いのときも作戦を立てて、だめなキャラを演じて、縁談を壊してきましたし。

このまま関係は曖昧に、東京で法の話のできる一番の仲良しでいられたら最高だったのが、花岡が佐賀に行ってしまうことは誤算だったのではないでしょうか。
動揺したけれど、何も言いようがありません。

一方の花岡も、ほんとはついて来てほしいと切り出したいけれど、寅子が前を向いて弁護士の道を歩もうとしているのだから、何も言えなくなった。ここで明らかに無理なことを言って困らせるのもしのびない。そんな寅子の心のうちを察する、やっぱり一握りの男なのでしょう。

寅子と花岡はさすが法曹の道を歩むだけあります。

相手の心理を読みながら、自分の有利なように話を進めていく能力が備わっていると思わせる会話による、単なる儚い恋の終わりではない意外と濃密な花岡との別れ。これが15分中の前半(8分)で終わってしまい、昭和15年(1940年)、よね(土居志央梨)が復活。試験にはまた落ちたものの、雲野事務所に手伝いに入ることになりました。

「虎に翼」では1話の前半で大きなエピソードが終わるパターンが多く、悲しみを引きずらないようになっています。

(文:木俣冬)

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