(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

観ると心がしっとりする、“切ない”恋愛映画「3選」


『言えない秘密』や『余命一年の僕が、 余命半年の君と出会った話。』など、“切ない”恋愛映画が数多く公開・配信されている。

人と人が出会い、相手を知ろうと向き合う様子を描く恋愛映画は、誰かに恋したい時だけではなく、誰かと深く関わりたい時や一歩踏み出したい時に観るのにもぴったりである。

今回は筆者の独断と偏見で選ぶ、観ると心がしっとりするような切ない恋愛映画を紹介していきたい。

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1:劇場アニメ版『ジョゼと虎と魚たち』

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

田辺聖子の短編集「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫)を脚色した劇場アニメ版『ジョゼと虎と魚たち』(2020)。

2003年に犬童一心監督により実写映画化され、2020年にはキム・ジョングァン監督により韓国版のリメイク作品も製作されるなど、これまで幾度か映像化されてきた本作。生まれつき足が不自由なジョゼと健常者の恒夫の2人が織りなす恋愛作品であることは共通するが、アニメ版は、話の展開が原作や実写版両作と異なる。

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

劇場アニメ版の恒夫(中川大志)は、海洋生物学を専攻する大学生で、メキシコに留学して幻の魚・クラリオンエンゼルを見るという夢を叶えるためにバイトを掛け持ちして生活中だ。ある日、坂道を転げ落ちそうになっていた車椅子の女性・ジョゼ(清原果耶)を救う。その様子を見たジョゼの祖母・チヅ(松寺千恵美)から「ジョゼの相手をするバイト」を依頼され、2人の関係はスタートする。


本作の見どころは、ジョゼと恒夫が助け合いながら、共に成長していく姿である。

恒夫と出会ったばかりのジョゼは、家に閉じこもり、外の人間が恐ろしい「虎」に見えていた。そのため最初は恒夫に対してもキツく当たる。だが恒夫と一緒に外へ出て、様々な経験をしたり人と出会ったりするうちに、段々と世界が広がっていく。「虎」たちが蔓延る世界に、車椅子である自分自身を守りながら恐る恐る立ち向かっていた彼女は、やがて「外は怖いだけやないで」と笑顔でチヅに伝えられるほど外での生き方を身につけるようになった。

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

恒夫は、そんなジョゼの子供のようにキラキラと目を輝かせて楽しむ姿に感化されていく。順調にアルバイトをこなし、メキシコ留学に向けて勉強に勤しんでいたが、ある日、夢が打ち砕かれるような出来事が起きてしまう。自暴自棄になって何もかも諦めようとした彼を支えたのもまた、ジョゼだった。ジョゼは、外の世界で出会った数々の友人の力を借りながら、恒夫の心を救ったのである。こうしてお互いがかけがえのない存在になっていく描写は微笑ましかった。

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

だが本作での2人は、そこですぐには結ばれないのも印象的だ。恒夫がジョゼに近づけば近づくほど、ジョゼは自ら遠のいていった。それは、ジョゼの「ずっと届かんかった 屋根に引っ掛かった赤い風船にも 木にくっついとるセミの抜け殻にも 雨の日に水玉の傘さして歩くのも 神社の階段駆け上がるのも 全部…全部!」「あたいはもうなんにも手を伸ばしたくない」という言葉に表れている。手を伸ばす前に諦めてしまうのも仕方がないほど、彼女はこれまで何度も絶望してきたのだ。

恒夫と同じく自分の足で不自由なく歩ける筆者にとっては想像することしかできないジョゼの苦しみに思いを馳せ、観ていて切なくなった。しかしそれでもジョゼは自らの夢を叶えるために進み続ける。これから先も2人で一緒にいる未来を願わずにはいられないラストであった。

▶︎『ジョゼと虎と魚たち』を観る

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2:『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

(C)2016「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」製作委員会

※結末の内容に触れています。未鑑賞の方はご注意ください


七月隆文の同名小説を実写化した『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)。冒頭で触れた『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』と同じく、監督は三木孝浩が、脚本は吉田智子が務めた“ファンタジックラブストーリー”である。

舞台は京都。美大に通う20歳の高寿(福士蒼汰)は、ある日電車で見かけた女性・愛美(小松菜奈)に一目惚れして話しかける。同い年で意気投合した2人は毎日会うようになり、やがて付き合うことに。だが愛美は突然泣き出したり予知能力を持っているかのような発言をしたり、不思議な一面を持っていることに気づき……。

(C)2016「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」製作委員会

「あなたにとっての未来は、私にとっての過去」。タイトル『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の意味が明らかになり愛美が泣いていた訳を知った時、切なさで涙が止まらなかった。

愛美は高寿と違う世界に住み、そこでは高寿の世界と時間の流れが逆方向に進んでいる。2人は「5年に一度、月が満ちて欠ける30日の間」だけしか会うことができない関係だったのだ。

5歳だった高寿は35歳の愛美に命を救われ、5歳だった愛美は35歳の高寿に命を救われている。時間の流れが逆だからこそお互いを救うことができた2人。まるで運命のように、年齢が重なる20歳のたった30日間だけは、恋人として過ごすことができた。

(C)2016「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」製作委員会

物語の冒頭で高寿が一目惚れした愛美は、別れ際に泣いていた。それは、愛美にとっては最後の“20歳の高寿”だったから。高寿が初めて手を繋いだ時も、初めて名前を呼んだ時も、愛美は泣いていた。全て愛美にとっては最後だったからである。

2人が同じ温度感で同じテンションで仲良く過ごせた期間は30日の中でもたった数日だけだった。2人のピークを知っているからこそ、時が経つにつれて“他人”のように振る舞わなければならない愛美と、よそよそしい態度を向けられる高寿の様子は観ていて辛かった。

(C)2016「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」製作委員会

ここまで作品にのめり込めたのは、福士蒼汰と小松菜奈の演技があってこそだろう。特に小松菜奈の涙は、観たものの心を掴んで離さない。画面に映る儚げな彼女を観ていると、「違う世界から来た」と言われても違和感を抱かず受け入れることができる。

京都で過ごした2人だけの30日間。時間が逆行する中で愛し合っていた2人はこの先同じ時間を過ごせないのだと思うと切なくて、観賞後もずっと頭から離れなかった。

▶︎『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を観る

関連記事:『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が魅せる切なすぎる恋の魅力

3:『泣きたい私は猫をかぶる』



『ペンギン・ハイウェイ』(2018)や『好きでも嫌いなあまのじゃく』(2024)を手掛けたアニメーションスタジオ「スタジオコロリド」の『泣きたい私は猫をかぶる』。

「美少女戦士セーラームーン」や「ケロロ軍曹」シリーズなどを担当してきた佐藤順一と『好きでも嫌いなあまのじゃく』の監督・柴山智隆が共同監督を、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011)や『アリスとテレスのまぼろし工場』(2023)の脚本家・岡田麿里が脚本を務めたオリジナル長編アニメーション映画だ。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

明るくてちょっと不思議な中学2年生の女の子・笹木美代(志田未来)は、クラスメイトの日之出賢人(花江夏樹)が大好き。人目を憚らず日之出にアタックを続けるものの、全く相手にされない日々が続いていた。

だが実は美代は「かぶると猫へと姿を変えることができる」不思議なお面を持っていて、猫・太郎として日之出に会いに行っている。ある日、美代にお面を渡したお面屋の猫の店主から、猫の“お面”と美代の“顔”を交換し、「人間」を捨て「猫」として生きるよう迫られてしまう……。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

本作で切なかったのは、日之出が美代に対して「大嫌い」と言い放った描写である。日之出は、美代が日之出に書いた手紙をクラスの男子に読み上げられバカにされたことに怒り、その矛先を美代に向けたのだ。いつもはどんなにスルーされてもめげなかった美代だが、この日之出のド直球の言葉には精神的に参ってしまう。

目を潤ませながらも必死に笑顔を保とうと笑うアニメーションの描写が、「思ったことがうまく言えない」美代の心の中をうまく表現していた。その美代の姿を見て、日之出もようやく自分の本心に気づくのだった。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

もともと家族との関係に悩んでいた美代は、日之出に嫌いと言われたのが追い討ちとなり、人間であることを煩わしく感じてしまう。そしてお面屋に、“人間の美代”の部分を奪われるのだった。

美代と日之出、2人とも人に本音で話せない性格なことにより、美代は人間の姿を失ってしまうし、日之出は好きな人が猫になってしまった。人間の美代を取り戻すためにやってきた猫島では、2人はもう離れ離れにならないように、自分の本音で話し感情のままに動いていた。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

元の世界に戻っても現実は何も変わっておらず、2人は家族や自分の将来と向き合わなければならない。だが人に本音で話す術を身につけた2人なら、同調圧力が強い社会でもうまく乗り越えていけるだろう。大事なものを奪われないためには、自分で守らなければならない。分かっていてもつい蔑ろにしてしまいがちなこのことを、本作はまっすぐ教えてくれた。

▶︎『泣きたい私は猫をかぶる』を観る

以上が、観ると切ない気持ちになる恋愛作品。

恋愛映画は、登場人物たちと自分の置かれている状況がまるで違くても、作品の中で交わされた何気ない会話が自分に突き刺さって抜けないことがよくある。お互いが想い合うからこそすれ違って喧嘩をしたり別れたりするが、それでも最後まで対話を諦めずに相手を知ろうとする姿勢がかっこよく映る。

冒頭でも述べたが、恋愛映画は誰かと向き合いたい時や勇気がほしい時に観るのにぴったりである。映画を通して出会った登場人物たちが、現実の自分の背中を押してくれるはずだ。

(文:きどみ)

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