「虎に翼」杉田弁護士(高橋克実)の涙<第85回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第85回を紐解いていく。

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拠り所はなんですか

今日のテーマは「拠り所」。

玉(羽瀬川なぎ)と涼子(桜井ユキ
)はbosom friend(「赤毛のアン」で有名な心の友)になりました。あとで、呼び方も「お嬢様」から「涼子ちゃん」に変わります。

話を聞いた稲(田中真弓)は「正直、そのお友達が潰れてしまわないか心配です」と正直に言い、寅子(伊藤沙莉)は稲に、ライトハウスを手伝ってもらえないかと持ちかけます。
理由は、拠り所をたくさん作るため。
拠り所がひとつになると、関係が対等から特別になって歪になって、失ったときなかなか立ち直れないから。

つまり、寅子は、玉と涼子のたったふたりっきりの関係も歪だと感じだということなのかなと思います。単なる感動に終わらせないところにひやりとなりました。

この歪な関わりという発想は、おそらく、美佐江(片岡凜)のミサンガのような腕飾りの件から感じたのでしょう。なんだかピンボールのようにいろいろな要素がぶつかりあい弾けあい思いがけないほうへと転がっていきます。

稲のことも、お手伝いにくるのは単なる隣人の好意ではなく、さみしい老人の心の穴を埋めることになりかねないことを寅子は憂慮したのでしょう。涼子から聞いた寿子(筒井真理子)の話が響いたのかもしれません。ひじょうに現代の高齢社会を思わせます。

ここで「依存」という言葉を使用しないのはなぜなのか。「依存」と言ってしまうと、語感がきついと配慮したのでしょうか。

ここ最近では晴れやかな顔でハヤシライスを頬張る寅子に、航一(岡田将生)は杉田兄弟主催の麻雀大会に誘います。このとき、「麻雀」と「なるほど」と「にっこり」が航一の拠り所だと寅子は感じます。「なるほど」が拠り所という考え方がユニークであります。

航一は「なるほど」と言ったりにっこりしたりして、その場を凌いでいるということでしょう。優未(竹澤咲子)は友達がいないけれど、歌も料理もお絵かきも好きで、ひとりのときは、どうやら歌やお絵かきして、時間を潰しているようです。例の「モンパパ」を披露しました。

拠り所をたくさん作らないといけないと思ったからか、寅子は、麻雀大会に、優未を連れていきます。初めて会った航一とはすぐに打ち解けたように見える優未に寅子は少し嫉妬して、ふたりの間に割り込んでいきます。ただ、優未はいい子ぶるのはうまい人なので、ほんとうに打ち解けているかは不明かと。

ライトハウスには連れていかないけれど、麻雀大会の場である料亭的なところには連れていく謎の展開で、そこで優未は大人たちの複雑な事情を目の当たりにします。本当だったら当時はタバコをみんな吸っていて、その紫煙と大人たちの複雑な心情がまざりあって、濃密な空間が形成されていたことでしょう。いまは喫煙シーンは好まれないのでカットされて、子供がいても安心な空間に見えます。

ですが事態は急変。別の意味で不穏に。
優未を見た途端、号泣する太郎(高橋克実)。長岡の空襲で、娘と孫を亡くした過去がありました。優未に孫の面影を見たようです。そして航一は「ごめんなさい」と太郎を抱きしめます。

次郎(田口浩正)は航一の言った「死を受け入れられていない」という言葉を覚えていて、太郎の涙はそれだろうと言います。そのときの次郎の、やるせない笑いも、航一に「なるほど」や「にっこり」のようなものでしょう。この田口浩正さんの演技は見せ場です。

太郎は妻も亡くして、仕事に没頭していたと言います。彼にとっては仕事だけが拠り所になってしまっていたのでしょう。

太郎が泣いて麻雀大会は中止、寅子と航一と優未はお刺身を食べます。「ときが流れるのを待つしかないのでしょうか」と寅子。寅子が航一の心に踏み込もうとすると、間髪入れず「秘密です」とはぐらかされてしまいました。そのあと、お会計に立ったときの航一の堪える横顔には何が……。

「拠り所」をテーマにした15分の短い間に、戦争が終わって、一見落ち着いたかに見えても何年も経ってもなお消えない傷があるという難しい問題もぎゅぎゅっと詰め込みます。パッキング上手。寅子も優三(仲野太賀)を亡くしていますし、太郎の思いもわかるでしょう。

ちなみに、すばらしいと評判の高い長岡の花火は、空襲で亡くなった人を想って開催されているそうですよ。

(文:木俣冬)

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