「頭をからっぽにして楽しめる映画」5選|コカインキメたクマや表情筋豊かな緑顔の怪人など
映画にはさまざまなタイプの作品がある。考察を楽しみながら鑑賞する作品やストーリーに込められたメッセージに胸を打たれる作品、鑑賞後に大きな余韻を残す作品etc……
しかし、頭がガチガチになるような作品を続けて鑑賞していると、たまには肩の力を抜きたくなるもの。7月26日(金)には歴史上の偉人たちが集合して組閣する『もしも徳川家康が総理大臣になったら』が公開を迎えており、トンデモ設定を軸にエンターテインメントを突き詰めた作品を楽しむのも、映画鑑賞のひとつの醍醐味だろう。
そこで今回は、難しいことは考えず「頭をからっぽにして楽しめる映画」5作品をピックアップ。もちろん中身がないというわけではなく、いずれもよくぞここまで練り込んだと感心したくなる作品ばかりだ。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
1:『ウェディング・ハイ』
■バカリズム節がハジケまくるノンストップ・コメディ結婚式場ではさまざまなドラマが生まれる。新郎新婦・その家族・友人・同僚が一堂に会し、門出を祝福したり、思い出話に花を咲かせたり……。そんな結婚式場を裏で取りまとめるウェディング・プランナーの奮闘ぶりを描いた『ウェディング・ハイ』は、ただのお仕事ムービーでは終わらない。
それもそのはず、脚本を執筆したのは『地獄の花園』や『架空OL日記』など独特すぎる世界観でキャラクターを際立たせるバカリズム。監督は『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』など作品ごとに高い評価を受ける大九明子が務めており、さまざまなキャラが交錯するストーリーをバランスが崩れることなく巧みに演出してみせている。
(C)2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
本作は舞台となる式場で挙式するカップルを中村倫也・関水渚が演じ、主人公のウェディング・プランナー役を篠原涼子が好演。他にも岩田剛典・六角精児・向井理・片桐はいり・高橋克実ら名優がずらりと脇を固めており、それぞれにスポットを当てたシーンが用意されるなど隙がない。
(C)2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
しかも群像劇はキャラが多くなれば多くなるほど駒として終わってしまうキャラもいるが、本作は決して投げっぱなしにしないところがミソ。各キャラが有機的に動き、時にハプニングを巻き起こし、笑いを生む(岩田剛典に至っては捨て身ともいえる)。
ならば観客は、ストーリーに身を任せるのみ。純粋に、作品そのものを楽しんでほしい。
関連記事:『ウェディング・ハイ』関水渚インタビュー「無事に撮影を終えられたのは先輩の支えのおかげ」
▶︎『ウェディング・ハイ』を観る
2:『コカイン・ベア』
■ベア・アタック映画に新風を巻き起こした痛快作!『くまのプーさん』や『パディントン』のような愛嬌を全面に押し出したクマ映画があれば、『グリズリー』や『レヴェナント:蘇えりし者』のようにひとたび暴れ出せば大きな被害をもたらすクマ映画もある。『コカイン・ベア』はある意味、その両者の「いいとこ取り」に成功した稀有な作品ではないだろうか。
もはや『コカイン・ベア』というタイトルからぶっ飛んでいる。暗喩などではなく、本当にコカインをキメたクマが登場するため、これ以上はタイトルを捻りようがないだろう。
Ⓒ2022 UNIVERSAL STUDIOS
しかも本作は通称ラリックマが人々を襲うパニック映画だが、麻薬組織が空中から落下させたコカインを地上にいたクマが食べてしまったところまでは「実話」ということに驚かされる。
そんなわけで本作はタイトルどころか中身もぶっ飛んでおり、バンバン犠牲者を出す一方でラリックマの魅力が勝ってしまい、一切悲壮感を感じさせない。むしろ劇場で笑いが起きたくらいだ。
Ⓒ2022 UNIVERSAL STUDIOS
当然押しつけがましい説教や高尚なテーマ性もなし。人体損壊のゴア描写にさえ耐性があれば、誰もが気楽に鑑賞できる。そのあたりの匙加減がなんとも絶妙で、今回監督に専念した女優エリザベス・バンクスの卓越したクリエイティブセンスに心から拍手を贈りたい。
関連記事:『コカイン・ベア』エリザベス・バンクス監督の強い想い!“クマがヒーローになることが重要だった”その理由とは!?
▶︎『コカイン・ベア』を観る
3:『トリガール!』
■良い意味で期待を裏切り続ける青春スポ根コメディ毎年琵琶湖で開催されている「鳥人間コンテスト」。人力飛行に熱い情熱を注ぎ込み、大切な青春のすべてを懸けた若者たちに胸を熱くした人たちも多いだろう。そんな鳥人間コンテストに挑戦する大学生を描いた作品とあれば、友情やスポーツ精神、ライバルたちとの熾烈な競争といったテーマを期待するかもしれない。
(C)2017「トリガール!」製作委員会
──が、『トリガール!』はそんな期待を尽く裏切っていく。たとえば土屋太鳳演じる主人公・ゆきなが人力飛行サークルに入部するのも、イケメンの圭先輩(高杉真宙)が目当て。確かにコンテストに向けた特訓シーンはあるものの、常に毒舌家の坂場先輩(間宮祥太朗)とバッチバチの関係。なんならコンテストでライバルチームが出てくるわけでもない。
それなのに。本作はとにかく笑えて笑えて笑いっぱなしのままフィナーレを迎える。ああなんて気持ちのいい映画だろう。役者が全員生き生きと演技してくることが伝わってくるし、
ゆきなを背負った坂場先輩「お前ちょっと重いぞ、痩せろ!」
ゆきな、というか本作出演にあたって体重を絞っていた土屋太鳳「そこそこスリムだろうが!」
(C)2017「トリガール!」製作委員会
といったアドリブ合戦も楽しい。あのコロコロチキチキペッパーズ・ナダルの出演シーンまで笑えるのだから、本作がいかに笑いっぱなしの作品であるか伝わってくるはずだ。
そしてクライマックスに控えた鳥人間コンテストは、「そんなのありかよ!」とツッコみたくなるシーンの連発。こんな青春映画、観たことない。
▶︎『トリガール!』を観る
4:『少林サッカー』
■チャウ・シンチーの名を轟かせたムーブメント作品「この人は何をしでかすかわかったものではない」。そんな印象を決定づけさせた『少林サッカー』は日本でもヒットを記録し、香港映画界隈で名の通っていたチャウ・シンチーを一般層にまで浸透させた。シンチーが監督と主演を兼任しており、ほとばしるコメディセンスをVFXまで駆使してこれでもかと見せつけた1本だ。
そもそも少林拳とサッカーを組み合わせる時点で常人にはない発想力であり、公開から20年以上経ったいまでも「なぜ少林拳とサッカー……?」と答えを見出せない。しかし、本作はとにかく面白い。意味不明だが少林拳とサッカーはめちゃくちゃ相性が良いとすら思えてしまう。まあ日本にも『キャプテン翼』という規格外のサッカーマンガがあるし……。
ストーリーもスポ根モノの王道を踏襲しており、かつて人気サッカー選手だったファン(ン・マンタ)が人間離れしたキック力を持つシン(シンチー)と出会ったことから物語は動き出す。ファンは少林拳使いであるシンの体たらくな兄弟子たちも巻き込んでサッカーチームを作り、兄弟子たちも“覚醒”したことで名を上げていく──というストーリー。
とにかくハチャメチャな試合シーンが見ものだが、ヴィッキー・チャオ演じるコンプレックスを抱えた饅頭店の娘・ムイもアクセントになっている。ちなみに本作の悪役ハンに扮したパトリック・ツェーは、『レイジング・ファイア』などで日本でも人気の俳優ニコラス・ツェーの実父。
▶︎『少林サッカー』を観る
5:『マスク』
■ジム・キャリーの代表作にしてコメディ映画の傑作!頭をからっぽにして楽しめるコメディ映画のド定番。表情筋を自在に操り、もはやどこからがVFXなのか境界線のわからないジム・キャリーの顔面演技が楽しめる本作は、1990年代のハリウッド映画を象徴する1本と呼んでいいだろう。
主人公のスタンリー・イプキスは、お人好しでの性格で自分から前に出るようなことのないタイプ。そんなイプキスが“人間の潜在的欲望”を引き出す古代のマスクを手に入れ、緑マスクの怪人となって大騒動を巻き起こしていく。
『エース・ベンチュラ』で人気に火がつき、本作でコメディスターとしての地位を確固たるものにしたジム・キャリーの演技がとにかく圧巻の一言。怪人と化したイプキス、というかジム・キャリーがやりたい放題で、ILMのSFXによるカートゥーン感を出した演出がひたすら楽しい。
また怪人が騒動を起こす様子を一辺倒に描くだけでなく、イプキスとティナ・カーライルの初々しい恋模様や怪人とマフィアの激突など見どころが多い。ティナ役で映画初出演を飾ったキャメロン・ディアスの魅力も本作には欠かせない。
SFパニック『ブロブ/宇宙からの不明物体』やシュワちゃん主演『イレイザー』など、娯楽作の名手チャック・ラッセル監督の軽妙洒脱な演出も冴え渡る本作は、頭をからっぽにして楽しめると同時に、鑑賞後に爽やかな余韻も残してくれる奇跡的な作品だ。
▶︎『マスク』を観る
まとめ
「頭をからっぽにして鑑賞できる」「肩の力を抜いて楽しめる」といっても、各作品の根底に流れるテーマを見逃すのはもったいない。「ああ面白かった」と劇場を後にしたり停止ボタンを押した後に、ふとよぎる余韻をキャッチすることができれば、その“面白さ”の意味が少しだけ変わり、深みも増すはず。ゲラゲラ笑って、いつでも語り出せるほど思い入れのある映画に、ぜひ巡り会ってほしい。
(文:葦見川和哉)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。