続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年08月21日

「虎に翼」なぜ、やたらと「ごめんなさい」「すまない」と謝るのか<第103回>

「虎に翼」なぜ、やたらと「ごめんなさい」「すまない」と謝るのか<第103回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第103回を紐解いていく。

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山田がふたり

「しゃべり場」とか「君の声が聴きたい」のような回。

まずは、星家で美味しい天丼をいただいたあと、結婚したらどの姓を名乗るか問題を議論します。

航一(岡田将生)は「佐田」と名乗っていいと言い、百合(余貴美子)は猛反対。
長男の朋一(井上祐貴)は星家は自分が継ぐから構わないと言います。
寅子(伊藤沙莉)は「佐田」と名乗ってと言ってもいないのに、とそもそも論。

こうなったのは、優未(毎田暖乃)が航一に相談したから。彼女は猪爪家での話し合いのとき、苗字が変わっても構わないようなことを言っていたのに、それはいい子しぐさだったのでしょうか。自分はいいけど母の思いを汲んでのこと?
優未の本音を知りたいところです。

揉めて、航一は自身の思慮の浅さを反省します。ほんとは寅子を愛する「妻」と世間に堂々公表したいにもかかわらず、どこか斜に構えてしまっていたので(本音の言えない不器用な人ですから)話がこんがらがってしまいました。

航一は極めて常識的な人で、好きになった人と結婚し、それを世間に認めてもらうものと思っているのでしょう。そしてとても寅子を愛しているようです。その情熱をうまく表現できないだけなのです。

優三(仲野太賀)も航一も、彼女のやりたいことに合わせてもらえる男性に出会えて、寅子は幸せ者であります。とはいえ、航一の場合は最終的に全部受け入れられなくなってこんがらがっているわけですが。

話を聞いた桂場(松山ケンイチ)は、裁判官は信用上、旧姓を名乗ることはできないと寅子に注意します。すると寅子は、桂場にも仕事やあんこの味にこだわりがある。人はそのこだわりを大切にすべきなのだと主張し、桂場もそれに関しては同意しました。が、旧姓は認めません。

ナレーション(尾野真千子)は司法の現場で旧姓使用が認められるのは平成29年だと語ります。長い年月がかかります。

この人が愛する伴侶ですと、世界に公表したいと思っても、それがしづらい人たちがいます。それが、轟(戸塚純貴)と遠藤(和田正人)の同性カップルです。

その轟の友人たちが集まる会に、寅子は優未と航一と参加します。
同じく同性カップルの千葉(ニクまろ)と秋田(水越とものり)と、男性から女性に性転換手術を受けた山田(中村 中)はそれぞれの状況をおにぎりを握りながら語ります。
よね(土居志央梨)は、男になりたいわけではないし、恋愛に興味がないと明かします。

世の中にはいろいろな人がいることを知る寅子と優未。
性の問題だけでなく、姓の問題。山田と山田、同じ空間に姓が同じ人(でも他人)が居合わせることだって現実ではあるわけです。フィクションの世界ではこんがらがるからそれをあらかじめ避けていると思いますが、「虎に翼」はここまで難しい問題の場面で、わざわざ同姓の人たちまで登場させるガッツに驚かされます。中村 中さん演じる山田さんの下のお名前がクレジットにはないのですが、お名前知りたい。

寅子は考えたすえ、星姓を名乗ろうと思いはじめますが、

自分が曲げたくないものを折るって、自分も折らせた相手も傷つけることなんです。
(遠藤)

遠藤が寅子に助言します。
寅子はこれまで、絶対に曲げてこなかった。遠藤のセリフで思い出すのは、穂高(小林薫)です。かつて寅子の曲げたくないものを折ったことで、寅子も穂高も傷つけあいました。

遠藤のセリフが染みる視聴者もいるでしょうけれど、寅子は自分自分で、相手の言い分は全然聞かないことが気にかかる視聴者もいるでしょう。しかも今回、珍しく航一の希望に合わせようとしているのに、止められてしまう。折り合うことが大事とはいえ、容易ではありません。

すると、航一は結婚をやめましょうと言い出します。寅子はあたふた。ただ、それは、ドラマ的な仕掛けであり、航一は婚姻届を出す結婚のことだと言い直します。
「やめましょう」で「つづく」にはさすがにしないで、15分内で答え合わせをしてくれてホッとしました。

「やめましょう」は不器用で、思ったことを言葉になかなかできない航一らしいといえばそうですが、このかた、優秀な法律家なのですよね。こんなに言動が伝わりにくくてお仕事大丈夫なのでしょうか。仕事になると明晰になるのかな。

さて、見出しにした件。今回、15分のなかで、登場人物が謝ったのは、9回です。
かつて、朝ドラでは、謝罪や感謝の言葉がないとよく言われていました。なぜか今回は逆で謝りすぎ。そして、謝ればいいものではないことを視聴者は噛みしめるのです。

ただ、桂場と寅子の「失言だった」と「失礼しました」はお互い言いすぎたことを認める冷静さと相手を尊重する気持ちがあってよかったです。

【今日の謝罪】

ごめんなさい 優未
すみません 航一
ごめんなさい 優未
ごめんなさい 航一
失言だった! 桂場
失礼しました  寅子
ごめんなさい 航一
ごめんなさい 遠藤
すまない 轟

(文:木俣冬)

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