暑さも吹っ飛ぶ、おすすめ新旧「ホラー映画」5選<日本の夏、ホラー映画の夏>
暑い。一体いつまでこの異様な暑さは続くのか。少しでも涼を取ろうと日陰に入ったり、ドリンクやアイスクリームを口にしても効果は一時的なもの。室内にいても熱中症の恐れがあるとされるこの時代、どう過ごせばいいというのだろう。
──そんな時こそ、「ホラー映画」を楽しむ絶好のチャンスではないか。
日本の夏といえば怪談。世界に目を向ければ、魅力的なホラー映画はごまんと溢れている。そこで今回は、暑さを吹き飛ばすどころか勢い余って背筋も凍る、おすすめのホラー映画5作品をご紹介しよう。
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1:『サユリ』
■なぜか生きる力をもらえる衝撃ホラー化け物に化け物をぶつけたり(『貞子vs伽椰子』)、自ら怪異に巻き込まれたり(『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』)……。近年波に乗る白石晃士監督だけに、押切蓮介原作の同名漫画を映画化した最新作『サユリ』も“トンデモホラー”に仕上がっている。
念願だったはずの一戸建て住宅が悪夢の舞台となる凄惨な状況は、Jホラーを代表する『呪怨』に匹敵するレベル。タイトルが示す「サユリ」とは一体なんなのか。幸せな家族に忍び寄る怪異を暗闇からじっとり浮かび上がらせるような恐怖描写は、まさにJホラーの系譜を突きつめた演出といえるだろう。
©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
だが、しかし。本作は怪異に恐れ戦慄くだけのホラー映画とは一線を画しており、途中から唖然呆然の急展開を迎えることになる。
しかもただ奇を衒えばいいだけではない、むしろ誰もが心の中で一度は考えるような「怪異への反撃」を清々しいほどに描く。そのキーマンとなる祖母役・根岸季衣の立ち居振る舞いは、ホラー映画でありながら爽快の一言。怪異を地獄送りにせんとする意気込みに、気づけば前半の恐怖描写はなんだったのかと思わずにはいられない。
いや、死に取りこまれそうな感覚に陥る恐怖描写があるからこそ、「生きる」という意志が強く輝くのか。祖母と怪異に挑む孫役・南出凌嘉の振り切りぶりも、なんとも勇ましい。
恐怖を感じるだけでなく、謎に高揚感まで得られるところが本作の唯一無二の魅力だろう。
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2:『サスペリア』
■「決してひとりでは見ないでください」いまなお「ホラー映画の金字塔」と称賛を浴び続け、ルカ・グァダニーノ監督によるリメイク作品も製作された1977年公開の『サスペリア』。
「決してひとりでは見ないでください」という鮮烈なキャッチコピーも手伝い、イタリア産オカルトホラーながら日本でも大ヒットを記録した名作ホラーの1本だ。
©️1977 SEDA SPETTACOLI S.P.A ©2004 CDE / VIDEA
本作はドイツにある全寮制の名門バレエ学校を舞台にしており、バレリーナになるべく主人公スージーが空港に降り立ったオープニングから不穏な空気を漂わせる。名匠ダリオ・アルジェント監督の手腕がさっそく発揮され、物語が本格的に動き出すよりも早くスラッシャーシーンまで展開するため、すぐに本作が持つ「逃れることのできない狂気」に気づくはず。
©️1977 SEDA SPETTACOLI S.P.A ©2004 CDE / VIDEA
寄宿学校内やその周囲で巻き起こる不可解な出来事と、学校内で漏れ響く何者かの不気味な息遣い。容赦なく降り注ぐ死の連鎖は防ぎようがなく、目に焼きつくような凄惨な描写も多い。この映画には、「誰が、なんのために?」と考察をめぐらせる暇はないのだ。
アルジェント作品は時折整合性の取れない展開がみられ、本作も見直してみると「ん?」小首を傾げたくなるシーンが出てくるだろう。
©️1977 SEDA SPETTACOLI S.P.A ©2004 CDE / VIDEA
しかしそんな違和感など些末なものに思えるショックシーンや原色を多用したライティングなど、『サスペリア』の衝撃度はどれだけ年月が経とうとも薄れることはない。
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▶︎『サスペリア』を観る
3:『回路』
■黒沢清印の不気味すぎるホラー世界的に評価が高く、「もうひとりのクロサワ」とも称される黒沢清監督。近年はサスペンスに重心を置いた作品が多いが、フィルモグラフィ初期から中期にかけては、『スウィートホーム』や『地獄の警備員』などストレートなホラー作品も見逃せない。
中でも『回路』はいまだにネット上で話題に挙がることがあり、ホラー好きに語り継がれる作品のひとつ。ストーリーはあの世のキャパがいっぱいになり、やがて現実世界に怪異があふれ出してしまうという荒唐無稽なもの。しかし、黒沢監督お得意の「影」を使った演出など「得体の知れない恐怖」に満ちあふれている。
目を覆いたくなるような(しかし目が離せない)シーンも多く、女性が工場タンクから飛び降りて地面に激突するまでを遠巻きにワンカットで見せる演出はなんともタチが悪い。また、廊下の奥から不気味な幽霊が奇妙な歩様でこちらに近づいてくる場面も、言いようのない恐怖を感じずにはいられない。
本作は純粋なJホラーでありながら、ポストアポカリプス的な世界観を有している。親しい人が次々と消えていく不条理な展開は、パニック映画としても観ることができるだろう。鑑賞にはそれなりの覚悟を要する作品だ。
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▶︎『回路』を観る
4:『ジェーン・ドウの解剖』
■遺体安置所を舞台に巻き起こる恐怖映画好きなら、日本でいう名無しの権兵衛を英語で「ジョン・ドウ」と呼ぶことを『セブン』で学んだという人も多いはず。男性がジョンなら女性はジェーン。『ジェーン・ドウの解剖』は、身元不明の女性の死体が遺体安置所に運ばれてきたことに端を発する恐怖を描いた作品だ。
86分と尺は短いが、あの手この手の恐怖描写で畳みかけてくるので見応えは十分。
監督のアンドレ・ウーヴレダルは前作『トロール・ハンター』が高い評価を受けており、本作でも古典的でありながら自身の色をはっきり打ち出した演出が端々にうかがえる。ギレルモ・デル・トロに見初められ、『スケアリーストーリーズ 怖い本』のメガホンを託されたのも納得の人選といえるだろう。
(C)2016 Autopsy Distribution, LLC. All Rights Reserved
物語は検視官親子の視点で進み、ジェーン・ドウを解剖しつつ検死をおこなう過程で次々と巻き起こる怪異が描かれている。遺体安置所の独特な湿っぽい空気感が全編を貫き、親子を襲う怪異の薄気味悪さはどことなくJホラーに通じる雰囲気も。ジェーン・ドウの足首に巻かれた鈴も「来るぞ来るぞ」と予期させつつ、ここぞという場面で効果的に鳴り響くのがなんとも心憎い。
本作は前半こそクラシックホラーの様相を見せつつ、真相の片鱗が見え始める後半からはあれよあれよと驚くべき結末に向かって突き進む。「恐怖」と「驚愕」のバランスが見事な作品だ。
▶︎『ジェーン・ドウの解剖』を観る
5:『呪詛』
■台湾発、最恐最強のホラー映画爆誕近年日本でも注目度を増している台湾映画。『呪詛』はホラー映画かつNetflix限定配信の作品でありながら、台湾映画ブームの一翼を担った作品でもある。
あまりの怖さにすぐさまSNSでバズり、怖いもの見たさで視聴者が日に日に増していったところも、ある種の「呪いの伝播」と言えるかもしれない。
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ケビン・コー監督が手掛けた本作は、台湾で実際にあった事件をモチーフに、山奥の村で禁忌を破った者たちが迎える末路を描いた作品。ファウンドフッテージの手法が全編に取り入れられており、一人称視点で捉えられる怪異は従来の三人称視点よりもさらにリアルな肌ざわりをもたらす。冒頭からラストまで不穏な空気しか流れておらず、この映画そのものがひとつの禁忌であるように思えてしまう。
娘にまで降りかかった呪いを解くべく主人公が奔走するも、状況は悪化の一途をたどるばかり。手加減抜きで登場人物たちに襲いかかる恐怖は、近年のホラー映画でも屈指のレベルだ。コー監督は視聴者の視覚に直接訴えかける演出を随所に施しており、忘れたくても目に焼きついて離れないだろう。
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本作は映画としての完成度が非常に高く、視聴者をただ怖がらせるだけの舞台装置ではなく、物語と恐怖がしっかり紐づいた作品といえる。鑑賞には鋼の心臓が必要だが、1本の映画としてぜひチェックしてほしい。
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▶︎『呪詛』を観る
まとめ
幽霊や殺人鬼、呪いなど恐怖のかたちはさまざま。恐怖を受容する“受け皿”もそれぞれ違い、ぞわりと背筋をなぞられるような感覚がやみつきになっている人がいれば、指の隙間からでないと観れないという人も多いはず。いずれにせよ、観客が恐怖を感じれば感じるほど作り手たちはニヤリとほくそ笑んでいるかもしれない。8月も終わろうというのに、まだまだうだるような暑さの日々。真っ昼間でも真夜中でも、ホラー映画で涼んでみてはいかがだろう。
(文:葦見川和哉)
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