続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年12月11日

「おむすび」結、プロポーズされるくだりが「監察医 朝顔」みたいだった【53回】

「おむすび」結、プロポーズされるくだりが「監察医 朝顔」みたいだった【53回】


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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。

平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第53回を紐解いていく。

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ほんとは嬉しい

太極軒で食事している最中に、四ツ木(佐野勇斗)に「結婚すっぺ」とかなり軽く持ちかけられた結(橋本環奈)。「こんな雰囲気ゼロのお店で」と不満気味。このシークエンスを見て、既視感を覚えた視聴者もいたのではないでしょうか。根本ノンジさんが脚本を手掛けた月9「監察医 朝顔」です。このドラマでも主人公(上野樹里)恋人(風間俊介)とのいきつけのもんじゃ屋さんでプロポーズされ不満を漏らしました。このエピソードはその後、いい話しに展開したので、「おむすび」でも単なる自己模倣ではく、いい流れにつながることを期待します。
ただ、結は、不満を言いながらも、内心、プロポーズにはときめいているのです。

筆者的に期待ハズレであったのは、聖人(北村有起哉)愛子(麻生久美子)の馴れ初めです。愛子が十代で歩を妊娠して結婚したというので、もしかして人のいい聖人がシンママになった愛子を助けたくて結婚し聖人の実の子ではない歩のこともとても可愛がっていて……というドラマのひとつのパターンを筆者は妄想していたのですが、「おむすび」では、そこはハードな話しにはなりませんでした。震災という題材があるので、それ以上、重い話しは不要でしょう。

ふつーに、聖人が理容師見習いの時代、家出してきた愛子と知り合って、思いが募ってプロポーズしたようです。朝ドラで、十代のデキ婚を描くのは珍しい気がします。連れ子はいなかったけれど、家出している愛子を聖人が助けたいと思ったのは事実でありましょう。

なぜか、聖人と四ツ木の結婚の流れが、男性主体で描かれています。仕事で自信がついてきたところで結婚しようと考えるのです。自分が彼女を養えるという自信と責任感です。最近は、経済的な不安から結婚できない人が増えていると言われていますが、聖人と四ツ木は、経済的にもなんとかなると踏んでの求婚でしょう。そこには、少し、働く自分を支える人が欲しい。愛を伴いながら妻を雇うというような考え方があったように思います。そんな感じだから、女性が期待するロマンティックなプロポーズなど想像もしない、照れもあるのか、いつもの店でさりげなく持ちかけるのです。

佳純(平祐奈)は旧時代の感覚の人で、結は四ツ木を支えたいと思って栄養士になろうとしたのだから、就職が決まらないのなら、このまま結婚して彼を支えたらいいと言います。一方、沙智(山本舞香)は男性に依存して、裏切られたらどうするのかと、女性の自立を語るのです。

愛子のほうは、結に、聖人をずっと支えてきたと言われ、支えてきた自覚はなく、好きだからやっていたとけろっとしています。愛子の流され感は、朝ドラにはあまり見ないタイプのキャラクターです。朝ドラヒロインにありがちな、絶対的な価値観(しかも社会正義的な)を貫くのではなく、なんとなく流されているのだけれど、やりたくないことはたぶんやっていない。そのとき、そのときで、やってもいいかなと思った本能にまかせて、生きている(だからいまはブログをやっている)。ある種の自然体というのかもしれません。

結は最初、四ツ木ファーストで、流されているところがありましたが、栄養学校に入り、世間にさらされた結果、少しだけ、自立心が芽生えはじめているようで、栄養士としても、人としても、学ぶべきことがあるのではないかと考えるのです。このようにだんだんと気づいていく人は現実にいます。
社会でこういうものだと決めつけられていたことになんとなく従っていたけれど、少し勉強すると、違う角度が見えてくる。いまの時代に必要なのは、結のように最初はゼロベースだけれど、ちょっとずつ学んで変化していくことなのかもしれません。


(文:木俣冬)

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