「おむすび」翔也(佐野勇斗)の肩が決定的にやばい【59回】
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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第56回を紐解いていく。
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結、日替わりを任される
肩に爆弾を抱え不安な翔也(佐野勇斗)が、大河内(中山翔貴)の挑発に乗ってヨンシームを投げ、ついに肩が爆発してしまいます。こんなになるまでひとりで抱えて、まわりもさほど重大事にしていなかったのは、ドラマだからとしか言えませんが。「おむすび」は、この「ドラマだから」でスルーされる展開が多すぎてもやもやします。愛子(麻生久美子)がブチ切れて家出したため、ヘアサロンヨネダは聖人(北村有起哉)ひとりでは手が足りません。
今日の【…ん?】最近、客が少ないと言っていたのに、大繁盛です。愛子が貧乏神なのでは……。
いやいや、ふたりだとちゃっちゃっとできることが、ひとりでは難しいのでしょう。コーヒーいれたり、パーマの準備したり、さりげなく愛子がやってくれていたのでしょう。
聖人が「お母さん」と呼んでいるのが気になります。昭和世代だと「お父さん」「お母さん」と呼ぶのは当たり前な気もしますが、そういう属性を規定してしまうことを問題視されているいま、「お父さん」「お母さん」呼びを見ると、この夫婦のあり方はどこかやっぱり考え直す必要に来ていることを実感します。
少なくとも聖人は愛子を、家のことをやる人と思っています。愛子も「お父さん」と呼んでいるので、彼女も先進的に見えて保守的なのでしょうけれど。
でも実際、それを意識して脚本が書かれているのか、無意識なのかも気になるところです。百歩譲って意識しているとしても、それが「お父さん」「お母さん」呼びにすると社会問題と重ねる視聴者がいるかも的なフックに過ぎず、作家当人の問題意識ではなさそうです。でも作家に問題意識がないとだめということはなく、締め切りに合わせて最大限の成果を出せればそれでいいのです。根本さんは職人だと思います。
ただ、陽太(菅生新樹)の英語多用には、彼のコンプレックスや焦りがこもっていたのであろうことがわかりました。結(橋本環奈)が職場での失敗と、「働くことは稼ぐこと」であると立川(三宅弘城)に聞かされた話しを家ですると、陽太は自分が実は会社で落ちこぼれていることを明かします。少しでも社風に慣れようと、英語を懸命に使っていたのでしょう。やっぱり中身のない空虚なものだったのです。
さて、結は、立川から日替わりメニューを任され、はりきって、スコッチエッグを作ります。メニューの文字も書道部出身を生かして、達筆で、社員の目を引きます。ここで書道部回収されました。やってきたことは一見結びつかなくても、何かしら結びつくことがあるものだと思わされます。
スコッチエッグは女子社員にも好評で、注文が殺到します。そのせいで、ほかのメニューの準備が滞って、スコッチエッグも間に合わなくなり……。結局、スコッチエッグは採用されません。立川は厳しく、11人の人が食べられなかった。売上にならなかったと言います。
今日の【…ん?】2 社食って会社の福利厚生施設なのではないのでしょうか。そうではなく、数売って社食の売上を上げることが第一なのか。謎であります。
さて、今日は、ちょっとこわいけれど、ほんとは職人気質で、悪い人ではなさそうな立川を演じる三宅弘城さんのコメントをご紹介します。回答が生真面目で誠実で、芝居をコツコツやってきた人らしさが滲みます。尾崎豊の「十五の夜」はフルコーラス歌ったそうです。本編ではかなり短かったのでもったいない。
三宅さんはパンクコントバンド・グループ魂の一員(ドラム担当)ですから、音楽のプロでもあるのです。
Q1 出演が決まったときの気持ちは?
朝ドラは、2 回目の出演です。どちらも NHK 大阪放送局さんで、1 回目に出演した『あさが来た』の時の印象がすごくよかったんです。大阪が、大好きになりました。前回の朝ドラで、初めて NHK 大阪に行ったんですけれど、楽しい思い出しかなかったんですよね。あのときは、月曜日にリハで、金曜日まで撮影して、金曜日の夜に東京へ戻って、また月曜日に大阪に行くという生活をずっとしていました。月曜日に、地下鉄の駅から(BK の近くにある)谷町4丁目の交差点のあたりに出てくると、「あぁ、戻ってきた!」みたいな気持ちになって、すごくホーム感がありました。でも、よく考えたら、もう 8 年くらい前になるんですよね。今回、スタジオが何階にあるかも忘れていて、大阪放送局のエレベーターで行ったり来たりしていましたね。
あと、脚本家の根本ノンジさんとは、いろいろな作品でご一緒させていただいているんです。今回、根本さんが『おむすび』を書くということになって、「僕も出演できたらなぁ」と思っていたんですけれど、念願が叶いました。しかも、大好きな BK だったので、余計にうれしさ倍増でしたね。
Q2 演じる役・立川周作について
プライベートでもタイガースファンなので、すごく共感を持ちました。料理は食べるのも作るのも好きなので、きっと撮影現場でも炒めたりするんだろうなぁと楽しみになりました。料理自体は(料理指導の広里)先生が作っていらっしゃるので自分が調理するお芝居は軽くでしたが、社食なので作る量が多いんです。よくあるようなフライパンを軽く振るという感じではなく、普段扱わないようなすごく大きいものを混ぜたりしました。その中で難しかったのは、包丁を研ぐところですね。切ったり、煮たり、いためたりは、普段もしますけれど、ちゃんと包丁を砥石で研ぐというのは、あまりやったことがなかったので。難しかったし、勉強になりました。立川にとって包丁は、30 年来の相棒ですからね。立川は、職人だし、自分のやってきたことにすごく自信を持っているし、プライドもあると思うんです。あと、責任感もありますよね。「俺はここの責任者やぞ。朝一番に来て、最後に帰るんは、当然やろ」というセリフもありますが、すごく職場や自分の仕事にプライドを持っている人なのだと思っています。
Q3 立川の結への態度や、印象深いシーンについて
立川には、自分なりのやり方があったのだと思います。栄養士がどうかではなく、自分はそれでやってきたし、昭和の人間みたいな考え方を持っているんじゃないですかね。「いっぱい食べて、体をでかくしろ」とか、「筋肉を付けるなら、とにかくたんぱく質だ」とか、「飯は、大盛りで3杯食え」だとか、昭和って、そういう今ではナンセンスとされることをやっていたような気もするんですね。そのやり方でやってきたのに、「栄養士って…、何や!」ではないですけど、こっちにまで入ってくるな、みたいな思いが、立川にはあったんでしょうね。平成の時代には、まだそういう昭和の考え方をする人がいたと思うんです。立川は新たなことに拒否反応が出てしまっていたんじゃないですかね。
『十五の夜』を歌うシーンは、みんなのシーンが終わってから撮影しました。僕一人だけ残って、スナックのカラオケみたいなセットを簡易的に組んで、少し薄暗い中でミラーボールが回っていて・・・。ワンコーラスではなくて、1番をフルコーラスで歌ったんです。周りやスタッフから、「今日の最後のシーンは、『十五の夜』ですね、楽しみにしてますよ!」とか言われたりして、ものすごくプレッシャーでした。スタッフに囲まれながら一人で歌ったので、本当に恥ずかしくて(笑)。でも、ちゃんとやりましたからね!(笑)
Q4 視聴者へのメッセージと見どころ
星河電器は栄養士になった結ちゃんのスタート地点です。結ちゃんが、人に影響を及ぼしたりすることもあるし、結ちゃんだけではなく、四ツ木(翔也)君にもいろいろなことが起こります。結ちゃんの考え方や将来の進み方が変わっていくので、見逃せないと思います。今週、立川が結構大事なことを言うんです。「ふざけているようで意外とちゃんとしているんだな」と見えなければいけないと思ったので、真面目にやりました。「好きなことをすること」と「プロになること」の違いを説明しているというか、立川自身も経験してきたことなのかもしれません。
(文:木俣冬)
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