「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第114回を紐解いていく。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
ドア越しの結と翔也
病院の休憩室。医者たちはすっかり疲弊しています。でもここ、けっこう密になってますよ。
桑原(妃海風)が、はじめてレッドゾーンに入った結(橋本環奈)に、なかはもっと壮絶なのだと伝えます。そのとき、井川(吉田真由)が子どもの世話をしないといけないから休職すると言い出しました。この人手不足のときに?と、誰も責めることができません。井川はすでに上に相談して決めていたのか、休憩中に去っていきます。
桑原の場合、義母に子どもの面倒を見てもらっているそうで。でも、義母には基礎疾患があるから心配なため、自分は目下、ホテル暮らしをしていると結に吐露します。医療従事者はどんなに気を使っても感染の可能性が高いからでしょう。
そこで結は、自分の家にも癌になって免疫力が落ちている聖人(北村有起哉)がいることに気づき、無性に心配になります。このときの、橋本環奈さんの表情は、マスクしていても心情がじわじわ伝わってきます。橋本さんは顔の表情を作るのが実にうまい。
ただ、どんなに感情が伝わってきても、この流れ自体に少々疑問があります。この頃、一般人でも、基礎疾患がある人や免疫の低い人、高齢者が危険とかなり早い段階で知っていました。だから、みんなこわくて身がすくんでいたのです。感染させるのもこわい。感染するのもこわい、とびくびくしていました。だからこその前回の若林(新納慎也)のような動き(さりげなく他者から距離をとる)になるのです。結が家族で、神戸に一時的に移ったとき、なぜ?と思った視聴者も少なくなかったでしょう。わざわざ神戸から大阪に通うことになってしまうのもおかしくないかなあと思ったでしょう。そこに目を瞑れる人はとてもとてもやさしい人です。
結はその日、神戸に帰りません。大阪でひとりで暮らすことにしたのです。神戸では、聖人が暇にまかせて料理の腕をあげ、瀬戸内の魚介パスタを作って待っていたところ、結が電話をしてきます。たぶん、いつも結が帰ってくる時間を見計らって作ったのでしょう。結が事前に連絡をしないのは、連絡しなきゃと思いながら、うっかりしていることがあるという日常のスケッチでありましょう。このへんはいちいち目くじら立てていると免疫力が下がっちゃうので、楽しく見ましょう。いや、決して楽しいエピソードではないのですが……。
結がひとり暮らしをはじめて数日後だと思います。翔也が大阪にたずねてきました。聖人の特製チャーハンを携えて(太極軒はとっくに閉店したのかな)。
感染しないように離れて暮らす結の気持ちを無にしないように、翔也はドア越しで語りかけます。なんとももどかしい。朝ドラに限ったことではないですが、ドラマではときどき、ドア越しに会話をするシーンがあります。これは芝居の見せ所であります。
愛する人と触れ合えない局面。朝ドラで思い出されるのは「純情きらり」の終盤です。主人公(宮崎あおい)が出産したものの、自身の結核が子どもに移らないように、その手に抱くことをせず、離れて過ごしているのです。そんな彼女になんとか子どもの姿を見せようと、周囲の人達が考えたことはーー(ネタバレになるので自粛。未見のかたはぜひオンデマンドなどでご覧ください)。これがクライマックスになります。切ない話でありました。
翔也の語る話も切ないのです。花(宮崎莉里沙)が学校で、病院勤務の結は「コロナまみれ」だから花も学校に来るなと言われたそうなのです。こんな話をわざわざ結にすることもないとは思いますが、そこは翔也。黙っていられない性分なのはこれまで描かれてきました。
チャーハンをドアノブに引っ掛けて帰る翔也。Uber Eatsか。チャーハンに、手書きで励ましのメッセージが。自分が書くほうだった結が、手紙をもらうほうに。「米田結」と翔也の昔のクセ・フルネーム呼びで、結と翔也ファンは嬉しかったことでしょう。
と、ここまで見て、脚本を書くってほんとうに大変だなと感じました。いろいろな制約を縫って、制限時間内に、脚本を組み立てる。スケジュールづくりだけでも大変なのに、そこに情報や心情を入れていくという大変な作業です。医療従事者のかたにも感謝。脚本づくりに携わるかたにも感謝。スケジューラー(撮影スケジュールを立てる人)のかたにも感謝です。
(文:木俣冬)
木俣冬著「ネットと朝ドラ」、現在好評発売中
–{「おむすび」第22週あらすじ}–
「おむすび」第23週あらすじ
第23週「離れとってもつながっとうけん」3/10-3/14
結がコンビニ会社からスカウトされた頃、横浜でコロナの感染が確認されるが、結の病院ではまだNST が精力的に巡回をしていた。
歩もファッションイベントの準備を着々と進め、気力を取り戻した聖人(北村有起哉)は理容の競技大会に参加する意思を固める。
ところが、日に日に全国で感染者が増え、大規模イベントの中止が要請されて歩や聖人はがっかり。
さらに愛子(麻生久美子)は佳代(宮崎美子)を心配して糸島に滞在することに。一方、結の病院でも感染者を受け入れることになり、結は患者との接触の減少で仕事のやりづらさを感じていく。
–{「おむすび」作品情報}–
「おむすび」作品情報
放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始
出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。
【結の家族・米田家の人々】
米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。
米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。
米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。
【福岡・糸島の人々】
四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。
古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。
風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。
宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。
真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。
佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。
田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。
柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。
ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。
草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。
大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。
佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。
大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。
飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。
作
根本ノンジ
音楽
堤博明
主題歌
B’z「イルミネーション」
ロゴデザイン
大島慶一郎
語り
リリー・フランキー
制作統括
宇佐川隆史、真鍋 斎
プロデューサー
管原 浩