クリスマス・イヴに独りで見たい映画!名作SF『ブルークリスマス』

■「キネマニア共和国」

もうすぐクリスマスですね。家族で、恋人同志で、友人たちで集まり、みんなでケーキやターキーを食べ、プレゼントを交換し合い、歌い、踊り、そして愛を育み……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.85》

………………………………………………ケッ!

家族や恋人同士だけでなく
独りで見るクリスマス映画があってもいいじゃないか!

世の中、そうそう幸せな人間ばかりではありません!

クリスマスまでずっと休みなしで働いている人もいれば、ケーキどころではない受験生や就活者たち、さらには、そもそもそういった楽しい行事と無縁の人生を送らざるを得ない(私のような)残念な人たちのほうが、実は多いのではありませんか?

大体、日本は仏教国なのに、キリストの誕生日なんか祝ってンじゃねーよ!

などと、野暮なことを申すつもりはございません。
(でも、クリスマスを祝うのなら、お釈迦さまの誕生日もみんなで祝ってあげればいいのにね)

でも、この時期、語り合う映画にしても「家族で(もしくは恋人同士で)観たいクリスマス映画」みたいな記事ばかりなのは……遺憾だ!

というわけで、クリスマス・シーズンに孤独で見たい映画(まあ、映画なんて、カップルで来ようが何しようが、見ているときは独りなのさ)を考えてみると……。

ありました。

岡本喜八監督の1978年度作品『ブルークリスマス』です!

UFOを目撃した人間の血が青くなる。
そしてクリスマスの夜……⁉

『ブルークリスマス』は、UFOを目撃した人間の血が、なぜか青く変わってしまうというSFサスペンス映画で、脚本は『北の国から』などの名匠・倉本聰のオリジナルです。

ドラマとしては、大きく2部構成になっています。

前半は、UFOの実在を説いてバッシングを受け続けていた科学者が謎の失踪を遂げ、その追跡調査を行う国営放送局の報道部員・南(仲代達矢)が、やがてUFOを目撃した者の血が青く変わっていくという衝撃の事実に迫っていくサスペンスが描かれていきます。

その中には大型ドラマの主演が決まった若手女優が、麻薬スキャンダルで番組を降板させられたり、ビートルズをモデルにしたかのような世界的人気バンド“ヒューマノイド”の来日(彼らが歌う『ブルークリスマス』が本作の主題歌にもなっています。実際に歌っているのはChar)などなどが複雑怪奇に絡み合い、やがて南は真相を世に訴えようとしますが、そこに国家権力の妨害が入り、彼は海外に左遷させられていまいます。

後半は、自衛隊員の沖(勝野洋)と、床屋の娘・冴子(竹下景子)の恋が、いかにも倉本脚本といった味わいで描かれていきますが、やがて冴子は自分の血が青いことを沖に伝え、一方で沖は謎の特殊任務に従事させられていきます。

そして、12月24日から25日に日付が変わるとき、世界中を震撼させる恐るべき事態が!

今の世にも通じる国家権力の恐怖が
SFという衣を借りて描出

本作は、『スター・ウォーズ』(77)同様に『未知との遭遇』(77)が日本公開された78年、SFブームの影響を受けて企画が通った作品ではありますが、いわゆる特撮はなく、UFOも直接的に画面に映ることはありません。

ここで真に描かれているのは、国家権力によって蹂躙されていく青い血の人間たちの悲劇であり、いわばナチスドイツによるユダヤ人虐殺に倣った惨劇の恐怖でもあり、実のところ今のきな臭い世にも十分思い当たる節があるのではないでしょうか。

もともとアクション映画などの痛快な活劇を得意としてきた岡本喜八監督ですが、ここでは反骨精神豊かに権力の横暴や情報操作の恐怖などに真正面から取り組みつつ、持ち前の快活なテンポやカッティングをおろそかにすることなく、第1級のサスペンス映画に仕立て上げています。

実際のところ、予算が少なく、脚本通りの海外ロケが上手く組めなかったりもしたのですが、岡本監督は木村大作キャメラマンとともにアメリカ・ハーレムで隠し撮りするなど、今の日本映画界ではおよそ考えられないバイタリティをもって海外ロケを敢行しています。

特筆すべきは音楽で、ここでは岡本監督とは名コンビの名匠・佐藤勝が当時としては斬新だったシンセサイザーを用いながら、全編にわたって幽玄かつメロディアスな調べを披露しています。
(彼のこのときのタッチは、2年後に彼が初めて手掛けたSFアニメーション映画『地球(テラ)へ…』に受け継がれることにもなりました)

キャストも岡本映画の常連俳優が勢揃いで、中でも岸田森、天本英世といった個性派たちが出番は少なくとも、出てくるだけでその存在感を発揮する名シーンが目白押し。倉本脚本ということでは、後の『北の国から』の田中邦衛と竹下景子の姿も、その前哨戦的イメージでも楽しめるでしょう。

クライマックスからエンドタイトルにかけての壮絶かつ美しくも悲しい画と音の連鎖は、これぞクリスマスに独りでじっくり見るにふさわしいものがあります。

実はこの作品『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督がこよなく愛している作品でもあり、『新劇場版ヱヴァンゲリヲン Q』の中には、本作の英語タイトルでもある“BLOOD TYPE:BLUE”の文字を出し、オマージュを捧げているショットがあります。

迷わず、近所のDVDショップに行って、手に取ってみてください。

いわゆる普通のSF映画とは大いに異なる、人間と社会の愚かしさや、しかしその中で人は生きていかざるをえないことへのエールまで盛り込まれた極上のエンタテインメント、ぜひとも堪能してください。
(なんでしたら、家族や恋人同士で見てくれてもいいですよ)

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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