『ロッキー』シリーズの快作スピンオフ映画『クリード チャンプを継ぐ男』

■「キネマニア共和国」

今年度の正月映画は『007 スペクター』や『スター・ウォーズ フォースの覚醒』と人気シリーズの最新作がお披露目されていますが、ここにもう1本……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.86》

『ロッキー』シリーズ最新作ともいうべきスピンオフ映画『クリード チャンプを継ぐ男』が登場しました!

クリード チャンプを継ぐ男

シリーズへのオマージュもふんだんな
新たなチャンプの物語

『ロッキー』シリーズ(76~)といえば、シルヴェスター・スタローン扮するボクサーの愛と闘いを描いたヒューマン・ボクシング映画ですが、『ロッキー・ザ・ファイナル』(05)でこれが最後とばかりにリングに上り、さすがにこれでシリーズ終結かと思いきや……まだまだ打つ手はあったのです!

かつて『ロッキー4 炎の友情』(85)で、ロッキーのよきライバルでもあったアポロ・クリードがリングに沈められ、そのまま帰らぬ人となりました。

そのアポロには愛人による隠し子がいました。

後に事実を知ったアポロ夫人は、既に母親を亡くして久しいその子アドニスを探し出し、我が子として立派に育て上げます。

しかし、父親譲りの血が騒いだのか、エリート・サラリーマンとしての出世コースの道を棒に振って、彼はボクサーの道を洗濯します。

そして、彼は父の親友ロッキー・バルボアの住むフィラデルフィアへ向かうのでした……。

今回は、すっかり老いて孤独に暮らしていたロッキーが、アドニスからコーチ&トレーナーを乞われ、かつて『ロッキー5 最後のドラマ』(90)で一度若手ボクサーの育成に失敗してはいるものの(というよりも裏切られた)、彼にアポロの面影を見出して、己の持ち得るすべてを彼に託しながら、ともに栄光の道をめざすというものです。

もっとも、ここでの主人公はもちろんアドニス・クリードであり、かつてロッキーがジョギングしていたフィラデルフィアの街を、今度はクリードが走ります。

演じるは『フルートベール駅で』(13)で喝采を浴びたマイケル・B・ジョーダンで、ここでは育ちの良さと野性味を両立させた個性が際立っています。

監督も『フルートベール駅で』(13)の新鋭ライアン・クーグラーですが、映画を見ていると、まるでスタローンが監督しているかのように『ロッキー』シリーズとして違和感なく成立していて、実によくシリーズを研究し尽くし、オマージュを捧げつつ、新たなチャンプの物語を構築しているのが理解できることでしょう。

音楽も『フルートベール駅で』でのルートヴィヒ・ヨーランソンですが、劇中は『ロッキー』音楽の生みの親ビル・コンティの楽曲も多数流れ、かつてのシリーズに想いを馳せつつも、新鮮な気持ちで熱く魅入ることができます。

アカデミー賞助演男優賞ものの
シルヴェスター・スタローンの名演!

そして何よりも、久々にロッキー・バルボアを演じたシルヴェスター・スタローンの名演を讃えないわけにはいきません。

最近は『エクスペンダブルズ』シリーズで老いのカケラも感じさせないマッチョ・アクションを披露し続けている彼ですが、ここでは一転して老いの寂しさを全身で体現しており、しかも今回彼の体は……と、後半はまさかのやつれ果てていくロッキーの姿を目の当たりにすることになり、しかしそれでもボクサーとしての“虎の目”だけは捨てていないあたりが妙味です。

これまで『ロッキー』第1作(76)でアカデミー賞主演男優賞候補に上って以来、その年の最低映画に贈られるラズベリー賞以外縁のなかったスタローンですが(⁉)、今回の名演はアカデミー賞助演男優賞に値するほどのものと思われます。
(既に本年度ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされました!)

その他シリーズの長年にわたるファンとしては、シーンのあちこちにこれまでの彼の人生の歩みを示す事象が見られ、それだけで涙してしまうものがあります。

一つだけばらしますと、今回はロッキーの義理の兄ポーリー(名優バート・ヤングが演じていました)が既に亡き人となっています。
ロッキーとは真逆の、まったくついてない人生で、ロッキーに迷惑をかけることも一度や二度ではない(『ロッキー5』では彼を破産させてしまったほどです)にも拘わらず、ロッキーは彼に己の裏面を見ていたのか、絶対に彼を見下すことなく真摯に関わり続けていました。

今回、アドニスはポーリーの部屋に住み着くことになりますが、これ自体ロッキーが彼を新たな家族として迎えたことをあらわしているように思われます。

そのポーリーの部屋ですが、生前のままの汚さで残されていて、またそこにはちょっと古めのエロ本が置いてあったりします。

ポーリーを知る者ならば、それだけでニンマリしながらも涙してしまいたくなるような、シリーズのファンにとってさりげない感動が多々見受けられるのが、このスピンオフ作品『クリード』の素晴らしさであり、いっそ『ロッキー7』と呼びたくなるほどのものがありました。

それにしても、思えば『スター・ウォーズ』が77年に始まり、今回で第7作、そして『ロッキー』が76年に始まり、ある意味第7作、『007』シリーズに至っては既に半世紀以上の歴史を誇るわけで、今、本当に21世紀なのか? と言いたくなるほどに時代を超越した人気シリーズの強みを痛感させられる、そんな正月映画シーンとなりそうですね。

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(文:増當竜也)

(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

 


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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