ロック・ミュージカル『踊る!ホラーレストラン』が示唆する人生のレシピ

始めにお断りしておきますと、この映画『踊る!ホラーレストラン』は、いわゆるショック効果を観客にもたらすホラー映画では全くありません。

わかりやすく申せば『ロッキー・ホラー・ショー』(75)のようなロック・ミュージカル映画であり、映画を見終わると『グレイテスト・ショーマン』(17)などとも比較論考したくなるところもあります。

とかく日本映画はミュージカル映画が苦手などと言われ続け、事実、映画100年以上の歴史の中でも国産ミュージカル映画の数は少なく(それでも戦前戦後はオペレッタ的な作品がそれなりに作られてはいますけどね)、その意味ではようやく日本でもこういう作品が、しかもメジャーではなくインディペンデントから生まれるようになったのだなあという感慨もあります。

でもこの作品、単にそれだけではなく今後の映画のありようみたいなものまで真摯に訴えている作品でもあるのです……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街387》

それは何か? をおいおい語っていきましょう!

高級レストランが一転して
ホラーレストランへ!?

映画『踊る!ホラーレストラン』の舞台は、オープンしてすぐにミシュラン星を獲得した超人気店「レストランKAGAMI」。

ここのオーナー加賀美(原田大二郎)は料理評論家の出身で、己の料理に対する信条から店内ではBGMを一切流さず、客には私語を禁止するなど、かなり厳しいルールを設けています。

そんなレストランKAGAMIがオープン2周年を迎え、加賀美は妻の静子(大塚みどり)を連れて店に行くと、本来並んでいるはずの客の行列はなく、店内には従業員も誰もいません……。

と、突然加賀美夫妻の前に不気味ないでたちの「レストラン・アピーシェ」の面々が現れ、サイケな照明と爆音に乗せての歌と踊りを繰り広げていくのでした!

一体なぜこの「レストラン・アピーシェ」の面々は何者なのか? そしてなぜ加賀美の前でこのようなパフォーマンスを繰り広げていくのか? などは見てのお楽しみとして、見ていくうちにだんだんこの映画のタイトルに含まれている「ホラー」とは人生そのものを表しているのではないかと思えるようになっていきます。

そこでちょっと思い出すのが、フランシス・F・コッポラ監督の問題作『地獄の黙示録』(79)が日本で初公開されたとき、クライマックスのマーロン・ブランドの台詞“horror”は日本語字幕で「恐怖だ」と訳されていたのですが、かの黒澤明監督は「あそこは『怖い』と訳してほしかった」と批評していたことです。

つまり本作は、己が歩んできた人生に対する恐怖、というよりも振り返るのが怖いといった想いを代弁しているのではないかと……(これ以上はネタばれになるのでやめときますが)。

とまれこうまれ、かくして加賀美の人生そのものはフルコース・メニューのダンス! ダンス! ダンス! として華麗とも狂乱ともいえる派手派手しさで披露されていくのでした……!(では、デザートはどうなる?)

障害の有無を超えた
バリアフリーな映画

本作のエグゼクティププロデューサーのひとりで振り付けと出演も務めている香瑠鼓は、大ヒットした石井明美の《CHA-CHA-CHA》やWink《寂しい熱帯魚》B.B.クイーンズ《おどるポンポコリン》などの歌や、香取慎吾「慎吾ママ」シリーズ、長野パラリンピック開会式、映画『白痴』(99)『嫌われ松子の一生』(06)『猫は抱くもの』(18)などの振り付けで知られ、特にCM界では新垣結衣の「ポッキー(あのポッキーダンス!)」、木村拓哉「JRA」、財津一郎&ダンサーズ「タケモトピアノ」、山下智久「ウィダーインゼリー」などなど誰もが親しんできたCMの振り付けを多数担当し、業界随一のヒットメーカーとして活躍し続けているエネルギッシュなパフォーマーです。

一方で彼女は障害の有無を超えた人間同士のコミュニケーションを模索していく中で独自の即興メソッド「ネイチャーバイブレーション」を体系化させるとともに、即興アーティスト集団ApicupiA(アピキュピア)をプロデュースして後進を育成しつつ、バリアフリーカンパニーApi-Lucky(あぴラッキー)を主宰し、数々の舞台パフォーマンスを敢行。

実は映画『踊る!ホラーレストラン』も、客席からのオーダーをいただいたレストラン店員が即興でメニュー=ダンス・パフォーマンスを披露するという、あぴラッキーの舞台を映画的に発展させたもので、そこには障害の有無も国籍の有無も何も問わず、ただただ歌と踊りを通して生きていく上での喜びを体感してほしいといった祈りのようなものまで込められています。

こうした香瑠鼓の意を受けて本作のメガホンをとったのが、『ゆっきーな』(10)『VEIN―静脈―』(11)『死神失格』(13)など数々の短編映画を撮り、ショートフィルムの鬼才とも謳われる渡邊世紀。

2015年に発表した長編映画『愛のレシピ~卵ランド~』はパフォーマーいずみひな(=和泉妃夏/本作にも出演)がすべての登場人物をひとりで演じるというひとり芝居、さらには衣裳や美術をすべて紙という手作りの実験的ファンタジーを成し得ています。

本作も自身の持ち味でもあるシュールで温かみのあるファンタジックな世界と、舞台のサイケでけばけばしい情緒の中から醸し出される前向きな人間愛みたいなものを巧みに融合させながら、クレイジーながらも躍動感あふれる世界観を見事に構築しています。

キャストもベテランの原田大二郎をはじめ、50歳を過ぎて舞台の世界へ飛び込んだ大塚みどり(彼女も障害のある娘と共に、あぴラッキーに参加)、石井明美、ラッキー池田、時任三郎といったユニークな人材が揃えられています。

中でもユニークなのは店のオーナー如月を演じる手塚眞。ビジュアリストとしてさまざまな映像を構築し、先ごろ映画最新作『星くず兄弟の新たな伝説』(18)を発表したばかりの彼(ちなみに香瑠鼓はその前作で1985年の『星くず兄弟の伝説』にも参加しており、そこから縁が繋がっての今回の出演なのでしょう)、実は俳優としても『ねらわれた学園』(81)などで怪演を示す存在であり、今回はそのことを彷彿させるに足るものがありました。

そしてアピキュピアとあぴラッキーの面々によるさまざまなダンス・パフォーマンスは、主人公ならずともいつしか観客すべての心をリフレッシュさせ、ほんわかとした心地よい気持ちにさせてくれることでしょう。

まずは6月15日より東京・吉祥寺ココマルシアターで1週間の上映となりますが、これを機に全国各地でこの作品が広く見られることを祈ってやみません。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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