難病の哀しみを超えて、さわやかな感動をもたらす『はなちゃんのみそ汁』

■「キネマニア共和国」

いわゆる「日本中が涙した!」みたいな実話の映画化こそ、いかに作り手が手腕を発揮するかによって、その出来が左右するものではありますが……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.81》

『はなちゃんのみそ汁』は、その課題を見事にクリアした実に気持ちのいい佳作です。

『はなちゃんのみそ汁』ロゴ

幼い娘にみそ汁の作り方を教えて逝った
若き母親のブログの映画化

はなちゃんのみそ汁
© 2015年「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ

『はなちゃんのみそ汁』は2008年、33歳の若さでガンでこの世を去った安武千恵さんが、5歳の娘と夫、そして自分のことを書き綴ったブログを基にして12年に発行された同名エッセイを原作に映画化したものです。

ガンに侵された妻とその家族の実話の感動物語、しかし意地悪な見方をすれば、今までそういった作品は映画やドラマを問わず多数作り続けられてきています。

その中で本作ならではの長所とは、基本的にユーモラスに、さほど深刻な印象を与えることなく、既に病魔に侵されていた千恵さんと、やがて彼女の夫となる信吾さんの恋愛と結婚を活写していることです。

またその後、娘のはなちゃんが生まれ、物心がつくようになると千恵さんははなちゃんにみそ汁の作り方を教え、そのことで“食”が家族を形成していく基本であることを継承させていくあたりは、さりげなくも感動的に描いていきます。

はなちゃんのみそ汁

映画的に映えるのは、千恵さんが大学院声楽科を卒業していたことで、これによって彼女が舞台に立って歌を披露するクライマックスにも説得力がみなぎり、華やかな情緒ももたらされていきます。

そもそもはおっちょこちょいの似た者夫婦、愛らしい娘、家族を支える双方の両親や千恵さんの友人たち、そして彼女の治療に献身する医師たちと、実にバランスの取れた巧みな脚本構成が功を奏し、最後にはこの世を去ってしまうものの、映画の最後に彼女はとても素敵な一言を遺してくれるのですが、その一言が何かは、見てのお楽しみということで……。

はなちゃんのみそ汁

名作『ペコロスの母に会いに行く』
脚本家の監督デビュー作

はなちゃんのみそ汁

千恵さんに扮するのは、『おくりびと』(08)や『鍵泥棒のメソッド』『柘榴坂の仇討』(14)『想いのこし』(14)など、今ノリに乗っている女優・広末涼子。ここでは彼女本来の持ち味でもある軽やかなさわやかさがキャラクターと見事に一体化し、映画全体をさわやかな叙情に包み込んでくれています。

夫の信吾さんにはTV『半沢直樹』の熱演などで知られる滝藤賢一。ドジでおっちょこちょいながらも、そこにいるだけで回りを微笑ましい雰囲気にしてくれるユーモラスな存在感が、とかく暗くなりがちな作品の世界観を救っています。

そして娘のはなちゃんに扮する子役の赤松えみなちゃんの好演は、もう飾りなど一切ないピュアな涙をもたらしてくれることでしょう。

助演陣もベテラン揃いですが、個人的には千恵さんの主治医を演じる原田喜和子のさりげない上手さ、そして千恵さんの父親役の平泉成のいつもながらの名演に改めて舌を巻きました。

監督は、13年度のキネマ旬報ベスト・テンで第1位となった『ペコロスの母に会いに行く』の脚本を担当した阿久根知昭で、これが監督第1作になりますが、かっちりと構成された自身の脚色を、奇をてらうことのないオーソドックスながらもゆとりを忘れない姿勢で演出し得ており、最初から最後まで心地よさの中に涙をすっと流される珠玉の作品を完成させました。

地元の福岡県と東京都では12月19日から先行公開されますが、全国拡大公開は2016年1月9日から。

病気をモチーフにしていながらも、意外なまでに新春のご家族やカップルなどでご覧になるにふさわしい、笑いと涙の感動作として推したい作品です。

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(文:増當竜也)

『はなちゃんのみそ汁』
『はなちゃんのみそ汁』ポスター
●出演:広末涼子、滝藤賢一、一青窈、紺野まひる、原田貴和子、春風ひとみ、遼河はるひ、赤松えみな(子役)、平泉 成、木村理恵、北見敏之、高畑淳子、鶴見辰吾/赤井英和/古谷一行
●監督・脚本:阿久根知昭(『ペコロスの母に会いにいく』脚本)
●原作:安武信吾・千恵・はな「はなちゃんのみそ汁」(文藝春秋刊)
●主題歌:一青窈「満点星」(ユニバーサルミュージック/EMI Records)
●12月19日(土)テアトル新宿&福岡県内先行公開、2016年1月9日(土)全国拡大公開
●© 2015年「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ
●公式サイト: http://hanamiso.com/
●配給: 東京テアトル


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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