大森立嗣監督『光』の魅力はこれだ!タイトルの意味や原作小説からの改変を徹底解説!

5:原作との違いはこれだ!

光 サブ6

(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会

映画『光』は、基本的には三浦しをんの原作小説に忠実な内容になっていますが、かなり大きな違いもあります。

その違いの筆頭が、小説にあった“巨大な災害に見舞われた後の島の描写”が映画では完全になくなっていること。それを映画で描かなかったのは、予算や技術の関係で映像化が難しかった、という事情もあるのでしょうが、結果的に良い改変になっていると感じました。

なぜなら、『光』における暴力の表出という恐怖は、何も災害に遭った人たちだけに限らないから。しかも、避けようがない災害に遭ったことそのものは、その人間の暴力の表出、または不幸とも関係がないとも、そこはかとなく示されてもいるのです。

つまり、映画において、災害という理不尽な出来事を映像で描かなかったことこそが、人間という暴力が極めて空虚で無価値なものである、という印象を強めている、とも取れるのです。言い換えれば、理不尽な不幸に見舞われたからと言って、それに暴力で返しても、何の意味もないということ……本作には、そんなメッセージも込められているのではないでしょうか。

また、当然と言えば当然のことですが、映画には小説にあった哲学的な思索(説明)の大部分がなくなっています。それにも関わらず、役者の演技で“語っている”ため、原作にあったスピリットはほぼ余すことなく伝えられている、ということも賞賛すべきでしょう。

ぜひ、映画を観終わった後に、小説も読んでみることもおすすめします。映画で省略されていた描写に「そうだったのか!」と驚くことができるでしょうし、決して一元化して語ることができない“人間の業”や“人間そのものの恐ろしさ”について、さらに深く掘り下げて考えられるでしょうから。

6:タイトルの“光”の意味とは?

光 サブ4

(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会

本作を観て、タイトルの“光”がどのような意味を持っているのかピンとこない、またはモヤモヤしてしまった、という方も多いのではないでしょうか。その光が何を指しているのかは、明確に説明されるシーンはないのですから。

1つだけ言えるのは、その光が決して“良いもの”ではないということです。一般的に、光には“希望”や“未来”といったポジティブなイメージもありますが、本作では光こそが恐怖の対象としても語られているとも取れるのです。

筆者個人の見解ではありますが、“光”というタイトルには、人間が持っている“闇”や、“暗い部分”にも目を向けたほうが良いのではないか、それにこそ“人間として正しく生きる”ためのヒントがあるのではないかと、逆説的なメッセージも込められているようにも思えます。

なお、映画のラスト(および直前のワンシーン)は、小説とはまったく違うオリジナルのものになっています。そこでの“光”の表現は……ネタバレになるので一切言えませんが、ここにこそタイトルの意味が集約されていると言っても過言ではないでしょう。

おまけその1:河瀨直美監督の『光』も観て欲しい!

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2017年には、河瀨直美監督による同名の映画『光』も公開されていました。

こちらは、視覚障がい者のための“映画の音声ガイド”に従事している女性と、弱視のカメラマンとのラブストーリーが紡がれています。水崎綾女は仕事に悩む繊細でかわいらしい女性を好演しており、“社会復帰できなくなるほど”に自分を追い込んで役作りしたという永瀬正敏の演技は細かい動作に至るまで“ずっと視覚障がい者であった中年男性”にしか見えません。役者の魅力をこれ以上なく堪能できる逸品と言えるでしょう。

完全な偶然ではありますが、大森立嗣監督と河瀬直美監督のそれぞれの『光』は映像における“逆光”の使い方も似ています。映像表現がほぼ同じなのに、“光”そのものが意味しているものはまったく異なる、という意味でも、両者を見比べてみると面白いでしょう。

河瀨直美監督の『光』では「視覚障がい者はどのように映画を楽しんでいるのか?」ということはもちろん、「映画にどのような感動や面白さを望んでいるのか?」という、普遍的な映画という芸術の根本に迫るような問いかけもなされています。そこには、目から鱗が落ちるかのような、新たな気付きがありました。映画を愛する全ての人に観て欲しいです。

河瀨直美監督『光』は、12月6日にBlu-rayとDVDが発売されます。

おまけその2:大森立嗣監督の入門には『セトウツミ』がおすすめだ!

セトウツミ

初めに掲げた通り、大森立嗣監督の『光』は一筋縄ではいかない、万人向きではあるとはお世辞にも言えない内容です。大森立嗣監督は秋葉原無差別殺傷事件をモチーフとした『ぼっちゃん』という極めてショッキングな内容の映画も手がけていましたし、わかりやすいエンタメよりも、もともと“尖った”作風こそで真価を発揮する作家なのでしょう。

そんな大森監督の“入門”としておすすめしたいのが、同名の人気マンガを原作とした『セトウツミ』です。“ずっと2人の男子高校生がしゃべるだけ”というながら、その掛け合いはゲラゲラと笑うことができ、不思議と映画としても豊かな作品に仕上がっていました。池松壮亮のボケのおかしさと、菅田将暉のツッコミスキルがプロの芸人顔負けであることは、以下の動画でもわかるでしょう。

しかも、『セトウツミ』の上映時間はたったの75分! 大森監督は役者の演技を長回しで撮ることが多く、それこそが魅力である一方、間延びしてしまうことも少なくないと思っていたのですが、こちらではまったく気にならない、それどころか「もっとこいつらの掛け合いを見せてくれ!」と願いたくなりました。この“短い時間で存分に楽しめる”ということも大きな魅力ですね。

現在、『セトウツミ』は高杉真宙と葉山奨之主演のドラマ版も放送されています。映画とドラマそれぞれで、監督や役者の個性をしっかりと感じてみる、というのもまた一興ですよ。

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(文:ヒナタカ)

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