『アイアンマン』をもっと楽しむための「3つ」のエピソード



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本日4月28日、『アイアンマン』が土曜プレミアムにて地上波放送されます。

本作は同一世界でのスーパーヒーローの活躍を描く“マーベル・シネマティック・ユニバース”の記念すべき第1作目。現在公開中の第19作目『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』まで、いずれの作品も大ヒットを記録しており、映画のフランチャイズ作品としては最大級、もっとも成功したシリーズとも言えるでしょう。

ここでは、『アイアンマン』を鑑賞する時に知ってほしい、そして注目してほしい、『アイアンマン』をさらに楽しむための3つのポイントをお伝えします。

※以下、『アイアンマン』本編の一部のセリフや設定に触れています。核心的なネタバレには触れていませんが、まだ映画を見たことがないという方はご注意を。



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1:ロバート・ダウニー・Jr.がアイアンマン役に選ばれた経緯とは?



本作を語るにおいては、まずアイアンマンことトニー・スタークを演じたロバート・ダウニー・Jr.のことに触れなければならないでしょう。今でこそ“他のキャストは考えられない”ほどのハマり役であることに異論を挟む方はほとんどいないでしょうが、実はスムーズに主役に選ばれたわけではありませんでした。

何しろ、ロバート・ダウニー・Jr.は麻薬中毒者でした。なんと8歳の頃からマリファナを服用しており、1990年代中盤に初めて逮捕され、以降も幾度となく拘置所に収監されています。その前はチャーリー・チャップリンの伝記映画『チャーリー』などで演技派として知られていたものの、逮捕された経歴を反映してか、2007年の『ゾディアック』では職場でタバコをプカプカと吸うやさぐれた記者といった“いかにも”な役に選ばれるようにもなっていったのです。(若い頃にも『レス・ザン・ゼロ』という映画で麻薬中毒者を演じています)

そんなロバート・ダウニー・Jr.を、この後も長くシリーズが続いていくヒーロー映画の主役に抜擢することに、スタジオ側が難色を示すのも無理はありません。(40歳を超えていた彼よりも、将来のある若い役者を選びたいという要望もあったようです)

しかしながら、『アイアンマン』の監督であるジョン・ファヴローは、「彼の経歴こそがトニー・スタークのキャラクターに深みを与えるはずだ」とロバート・ダウニー・Jr.の起用を断固として支持しました。そしてロバート・ダウニー・Jr.は実際にオーディションで他を圧倒する演技力を見せ、見事にトニー・スターク/アイアンマン役を獲得したのです。(その前の2003年に麻薬を海に投げ捨ててキッパリとやめてもいます)

まとめると、ロバート・ダウニー・Jr.は若い頃から俳優として評価をされ続けたものの、麻薬中毒者であることが発覚し、世間からも映画関係者からも問題視されていました。しかし役者としての実力と、その“負”の経歴こそが『アイアンマン』での主役に抜擢される理由になったということです。そして、このロバート・ダウニー・Jr.のカムバック劇は、劇中のトニー・スタークの「若い頃からチヤホヤされた天才だが、性格および行動にはかなり難がある。しかし、とある出来事を深く反省し、本当のヒーローになっていく」というキャラにもバッチリとハマっていた、ということです。

思えば、ロバート・ダウニー・Jr.およびトニー・スタークには、およそヒーローらしくない“やさぐれ感”があります。この魅力は、フレッシュな若い役者では到底出すことはできなかったでしょう。それはジョン・ファヴロー監督の見事な采配があってこそ。マーベル・シネマティック・ユニバースが成功した大きな理由は、まず『アイアンマン』の主役にロバート・ダウニー・Jr.をキャスティングしたことにある、と言って良いでしょう。




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2:アイアンマンが大好きになれる物語の工夫とは?



アイアンマンことトニー・スタークの性格およびプロフィールは、一見するとかなり“いけ好かない”感じです。頭脳は明晰、大金持ちかつプレイボーイ、イケメンで超モテモテ、軍事産業に関わっているのに飄々としていて真剣味が足りない……こう書くと「なんだよこいつ!」「こんな奴がヒーローになれるのか?」と思いたくもなりますよね。(実際、映画の序盤のトニーはかなりイヤなやつにも見えます)

しかし、映画を観終わってみればトニー・スタークという人物が大好きになってしまう、というのが『アイアンマン』の面白いところです。なぜ彼のことを不愉快に感じなくなっていくのか、最終的に好ましい人物に見えるのかと問えば、彼がある種の“自分の興味のあることしかやらないオタク”であり、子どもがプラモデルに夢中になっているがごとく“無邪気”でもあるからだと思います。

彼が“自分の興味のあることしかやらないオタク”である例の1つは、言うまでもなく数々の兵器(アイアンスーツ)を自らの手で開発していること。大金持ちのヒーローという点ではバットマンと同じですが、トニーは“自らの力でヒーローになれる”という素質をそもそも持っているのです。

何より、トニーは軍事産業会社の先代社長の息子というボンボンでありながら、会社にこもって発明に明け暮れていて、経営は他人任せ、身の回りの世話は秘書のペッパー・ポッツにやってもらっている、発明の他に好きなものは美女と酒……本気で“好きなことしか興味がなさそう”ですよね。

細かいところでは、トニーは美女の記者から「現代のダ・ヴィンチと呼ばれている」ことを知らされると、「変だな、私は画家じゃない」と返しています。確かにダ・ヴィンチは「モナ・リザ」などで超有名な画家ですが、それ以外にも天文学や地質学の分野でも多大な業績を残した学者でもあり、そのオールマイティぶりから“万能人”とも呼ばれています。そうであるのに、彼のことを画家としか認識していないトニーは、はっきり言って無知な(=自分の好きなことしか興味がない)人物でもあるのです。

その“無知”の最たるものが、自身が作った兵器が人を殺しているという事実を深く考えていなかったことでしょう。何しろ、「死の商人」と呼ばれていることにも「悪くない」と答えているのですから。

そのトニーはゲリラ兵に囚われ、ある過酷な現実を目の当たりにして命からがら帰還すると、役員への相談もなしに「軍事産業をやめる」と記者たちに告げます。ある意味では、トニーは「深く反省すればすぐに行動をする」素直な人物と言ってもいいでしょう。

そしてトニーは、アイアンスーツに身を包むと、まさに子どものように無邪気になります。アイアンスーツで空を飛び、「記録は破るためにある!」などと叫ぶのですから。しかも、「正しい道がわかった」「生き残ったのには理由がある」などと、まさにヒーローらしい正義感にも目覚めていくのです。

まとめると、トニーは元々“自分の興味のあることしかやらないオタク”気質でありながら、“大人なのに子どものように無邪気”でもあり、しかも“悲惨な出来事を経験すると本気で反省”して、さらには“今まで持ち得なかった正義感に目覚めて行く”のです。ここまでの成長を追えば、それはもう大好きになってしまいますよね。

また、そのトニーの無邪気さが最も表れたのが、ラストの“あのセリフ”ですね。それは“ヒーローものの掟”をあっさりと破ってしまったということでもあります。愉快痛快な王道のヒーロー映画でありながら、こうしたところで“心地よい裏切り”もしてくれるのですから、たまりません。




3:『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』でわかる監督の資質とは?



『アイアンマン』の劇中で描かれた“軍事産業が世界中で死人を増やしていた”という事実はかなり重いものです。しかし、実際の映画の印象はカラッと爽やかで、誰もが気軽に楽しめる内容になっていました。この“明るい”という印象も、以降のマーベル・シネマティック・ユニバースの成功に繋がったのでしょう。

明るい作風になった理由は、ジョン・ファヴローという監督が持つ資質にもあります。それは、彼が監督・脚本・製作・主演までをこなした2014年の映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』を観ても、はっきりとわかることでした。




『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』の物語は、主人公のシェフが評論家からボロボロに酷評されたことに腹を立て、Twitterで口汚く反論してしまたため大炎上し、そのせいで店から解雇され、どこからも雇ってもらえなくなる……というもの。主人公からすればシャレにならない、金ナシ職ナシというキツイ事態に追い込まれてしまうのです。

しかし、その(悲惨な)話の語り口が軽妙であるため、ちっとも暗い雰囲気にはなりません。登場人物にグジグジと悩んでいるヤツはほぼ皆無、事態を好転させるためにあの手この手を使い、時には逆境こそをチャンスに変えようともするのですから。ジョン・ファヴロー監督の資質を乱暴にまとめれば、「よく考えれば悲惨な出来事も、カラッと明るく描いてしまう」ことにあるのでしょう。

そして、「本当はしっかり創意工夫をした料理を作りたかったのに、堅物のオーナーから止められてしまい、それこそが評論家からの悪評を買った」という主人公の姿が、様々な要望やエゴが飛び交う映画業界や、ジョン・ファヴローという映画人そのものに思えてくるというのも興味深いところです。

また、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、ジョン・ファヴロー監督が『アイアンマン3』の監督を(制作時期が被るために)降りてまで、主人公を演じる自分が優秀なシェフに見えるようにみっちりと料理の修行をして作り上げた映画です。『アイアンマン』およびマーベル・シネマティック・ユニバースに比べれば圧倒的に低予算の作品ではありますが、決して片手間で作られたわけではなく、“監督が本気で作りたかった映画”でもあるのです。

さらに、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』には、ロバート・ダウニー・Jr.がトニー・スタークとほぼ変わらないような性格のキャラクターで出演しており、“ブラック・ウィドウ”役でおなじみのスカーレット・ヨハンソンも主人公の友人役で登場します。ジョン・ファヴロー自身も『アイアンマン』シリーズで“ハッピー”というサブキャラを演じていますし、ヒーロー映画のスターが一堂に会しているような豪華さも感じられるでしょう。

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、“Twitterを始めとしたSNSの正しい使い方”が学べる他、“どん底のような逆境”にあっても工夫と努力次第でカムバックできるという希望が描かれています。PG12指定納得の下ネタの数々を除けば、極めて万人におすすめできる内容でもあるので、ぜひ『アイアンマン』と合わせて観てほしいです。



おまけ:ロバート・ダウニー・Jr.の意外な姿が見られる3つの映画はこれだ!



最後に、ロバート・ダウニー・Jr.の意外な姿が見られる、その役者としての魅力をさらに知ることができる、オススメの3つの映画を紹介します。


1.『オンリー・ユー』





マリサ・トメイ演じるヒロインが、本当は望んでいない結婚を前に、子どものころに“運命の人”と占いで告げられた名前の人から電話がかかって来たため、大慌てでイタリアに探しに行くというラブコメディです。当然、ロバート・ダウニー・Jr.がその運命の人なわけですが……それからは意外な展開の連続で、ちっともハッピーになっていかない、良い意味でイジワルな内容になっていました。

この映画のロバート・ダウニー・Jr.は、一見するとまともな青年であるけれど、実は嫉妬深いというのがポイント。「彼女のことが好きなんだ!」と表情どころか全身を使って訴えるのがなんとも可愛らしく、応援したくなることでしょう。

ちなみに、本作でヒロインを演じたマリサ・トメイは、後に『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』と『スパイダーマン:ホームカミング』で“メイおばさん”役に選ばれ、再びロバート・ダウニー・Jr.と共演することになります。(この2人は私生活でも恋人同士だったこともあります)



2.『スキャナー・ダークリー』





キアヌ・リーヴスが近未来の潜入捜査官に扮し、麻薬中毒者と共同生活を送るという物語です。『ブレードランナー』でもおなじみフィリップ・K・ディックの小説を原作としており、ジャンルとしてはSFでもありますが、どちらかと言うと登場人物の内面に迫ったドラマの要素が強い内容になっています。

この映画でのロバート・ダウニー・Jr.は、飄々としていると同時にやさぐれていて、行動もムチャクチャなところがある、どうしようもない人物を演じています。彼が麻薬取締局にわざわざ出向いて「俺にも捜査官の資質があるから雇ってくれ」と頼むシーンは、現実の彼が麻薬中毒者であっても俳優としての活動を続けようとしていたことにもリンクしているようでした。

麻薬中毒者の日常を淡々と描いていく内容でもあるため中だるみ感は否めませんが、実写映像をトレースしてアニメーション化する“ロトスコープ”という技法による画は魅力的に仕上がっています。一風変わった映画を期待すれば、存分に楽しめるでしょう。


3.『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』





ベトナム戦争を題材にした映画を作ろうとしてジャングルに降り立ったら、そこは本物の戦場だった!というコメディ映画です。設定は『ザ・マジックアワー』や『サボテン・ブラザース』も連想させますが、エゲツないグロネタや下ネタが満載で、時には差別表現を皮肉ったギャグでも笑いをとるという、思いっきり好き嫌いが別れそうな内容になっていました。特にオープニングのあの演出は本当にヒドい!(褒めています)

この映画でのロバート・ダウニー・Jr.は、“役に入り込みすぎる役者バカ”を演じているということがポイント。劇中では皮膚整形で肌を黒くして黒人になりきるという(現実では)問題がありまくりの設定になっており、それこそが演技派として高く評価されてきた(でも麻薬中毒者として逮捕された)現実のロバート・ダウニー・Jr.の姿に繋がっているのです。果ては、同年公開の『アイアンマン』の主役に抜擢されたことを明らかにイジったセリフも飛び出したりしていました。初めから終わりまで、ロバート・ダウニー・Jr.が口を開く度に笑えてくることでしょう

悪趣味な笑いに満ちた映画でありながら、映画への愛にも溢れており、終盤ではキャラそれぞれの成長もしっかり感じさせてくれるのも嬉しいところ。トム・クルーズが意外というか「え?あのカッコいいトム様がこんな風貌になっちゃっていいの?」とビックリできる役で登場するのも見所ですよ。

(文:ヒナタカ)

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