沖縄の、戦争の悲劇を忘れないための映画の効用とは?

■「キネマニア共和国」

STAR SAND -星砂物語- 場面写真1

(C)2017 The STAR SAND Team

1945年6月23日未明、太平洋戦争における対米沖縄戦で、沖縄守備軍最高指揮官たる第32軍司令官・牛島満中将と長勇参謀長が摩文仁の軍司令部で自決。これにより沖縄守備軍の指揮系統は完全に消滅し、以後アメリカ軍は沖縄南部の残存日本兵の掃討作戦を展開し、7月2日に沖縄作戦終了を宣告しました。

あれから70年以上経った現在、6月23日は「慰霊の日」として沖縄県民の間に深く浸透していますが、一方では戦後70年過ぎた今も、沖縄の傷は癒えるどころか、米軍基地問題など深刻の度を増すばかりではあります。

そんな中、沖縄戦もしくはその周辺を題材にした映画が増えてきているのは、注目すべき事象かもしれません……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.240》

6月21日より沖縄戦を背景に日米の兵士が邂逅する『STAR SAND 星砂物語』が、沖縄・櫻坂劇場で先行公開されています(東京では8月4日より渋谷のユーロライブにて)。

日米の脱走兵の共生から
平和を示唆する『STAR SAND 星砂物語』

STAR SAND -星砂物語- 場面写真2

(C)2017 The STAR SAND Team

映画『STAR SAND 星砂物語』は、太平洋末期の沖縄のある島で、軍を脱走した日米の兵士が出会い、共に洞窟で隠れ住むようになるも、やがて悲劇的結末を迎えていくさまを、現代の目線で見据えていくものです。

監督は、かつてヴェトナム戦争を批判し、自ら「裏切り者」と称して祖国アメリカを捨て、1967年以降日本に移り住むようになって執筆活動を始め、83年の大島渚監督作品『戦場のメリークリスマス』では助監督を務めたロジャー・パルバース。

戦争関連では、このほかにもアニメ映画『アンネの日記』(95)や、実写映画『明日への遺言』(08)の脚本を手掛けています。

本作は彼が記した同名小説を自らのメガホンで映画化したものですが、そこには戦闘という名の殺し合いを拒否して脱走したふたりの「裏切り者」とも「卑怯者」とも「臆病者」とも呼ばれるであろう者同士が、言葉の壁を越えて共生していこうとすることで、真の平和への希望が示唆されていきます。

そこには戦争という名の殺し合いに対して臆病になることこそが、平和への第一歩であることが示唆されています。

日本の脱走兵には、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)でその年の新人賞を多数受賞し、今年も『無限の住人』『忍びの国』など新作が続々公開される満島真之介。沖縄出身でもある彼は本作の趣旨に大いに賛同し、並々ならぬ意欲で本作の撮影に臨みました。

アメリカの脱走兵には、オーストラリア出身で『ニュースの真相』(16)などアメリカ映画進出も果たした実力派俳優ブランドン・マクレランド。

そして偶然にもふたりと出会い、ひそかに交流し続けるうハワイ帰りの日系少女に『秘密 THE TOP SECRET』(16)ヒロインで映画デビューを飾った新進・織田梨沙が扮しています。

また本作は、吉岡里帆扮する現代の大学生が石橋蓮司扮する教授に導かれて、当時の謎を探るパートも同時に描かれていきます。

その他、三浦貴大、寺島しのぶ、渡辺真紀子、そして緑魔子といった芸達者な面々が、巧みに主人公らの数奇な運命をフォローしてゆきます。
(特に緑魔子が登場するくだりには、非常に心揺さぶらせるものがあります)

本作には、いわゆる戦闘シーンは皆無で、このあたりも含めて日英兵士の友情とも愛情ともつかない絆を描出した『戦場のメリークリスマス』の姉妹編的性格も備えています。
(それを裏付けるように、同作で俳優デビューした坂本龍一が本作の主題曲を提供しています)

『ハクソー・リッジ』と『STAR SAND』の
立脚点の違い

(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

一方で6月24日から、沖縄・前田高地(=ハクソー・リッジ)の激戦で敵味方を問わず多くの人命を助けたアメリカ軍衛生兵デズモンド・T・ドスの半生を描いたメル・ギブソン監督の戦争映画超大作『ハクソー・リッジ』が公開となりました。

アメリカ映画で沖縄戦が描かれるのは割と珍しいケースで、沖縄戦において日本側が軍民問わず多大な犠牲を強いられたことは周知の事実ですが、実は沖縄戦に参加した米兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)問題も非常に深刻で(それだけ日本軍の抵抗が激しく熾烈を極めた戦いであったことを物語っています)、戦後のアメリカでは戦勝国としてのプライドから、こうした兵士たちの心の傷をひた隠しにしてきた(それゆえに沖縄戦を描いた作品も少なかったのだと想像できます)。

その中でデズモンドは愛国心をもって軍に入隊はするものの、信仰的理由から決して銃は持たない(つまり敵を殺さない)という「良心的兵役拒否者」としての立場を貫き、戦場に赴くまでは仲間のイジメに遭うなど悲惨な出来事も多々体験しますが、こうした戦場での大活躍によって、一転して名誉勲章を授与されるに至ります。

ただし『ハクソー・リッジ』は戦場の苛酷さをこれでもかと言わんばかりに残酷な戦闘シーンをもって描くことで、戦争がもたらす残虐非道さを見事に描いてはいますが、そこから“沖縄の悲劇”そのものを見出すことは難しいでしょう。

その意味で『ハクソー・リッジ』は戦場映画として画期的なものではありますが、その背景にあるものはやはりこちらで探求していく必要があるかと思われます。

現在、前田高地がある沖縄県浦添市には、本作を見て沖縄戦に興味を覚えた海外の観光客などが激増しているとのこと。日本の映画ファンもこの機会にぜひ興味を覚えていただけたらと思います。

一方『STAR SAND』も、単に“沖縄の悲劇”というよりも、日米双方の兵士を通して、人間同士が争うことの愚かさを、美しい沖縄の大自然を背景にすることで、抽象的ではあれ巧みに訴えているように思えます。

また『ハクソー・リッジ』の主人公は銃を手にすることはなくても自ら軍隊に志願した「愛国者」だったわけですが、『STAR SAND』の主人公ふたりは脱走兵という「卑怯者」の烙印を押された者たちです。実はここに双方の大きな違いが隠されているようにも思えますので、ぜひ見比べてみることをお勧めします。

今こそ見据えていきたい
沖縄の悲劇を描いた映画たち

さて、これまで日本映画は沖縄の悲劇を幾度も描いてきましたが、特に現地女学生ひめゆり部隊の悲劇を描いたものは、『ひめゆりの塔』(53)をはじめ幾度も描かれてきました。また岡本喜八監督による『激動の昭和史 沖縄決戦』(71)は、沖縄戦の全体像を描いたものとして史実のおさらいに役立つものにもなっています。

激動の昭和史 沖縄決戦

一方、沖縄の人々の目線から沖縄戦やアメリカ占領下の戦後、そして現在の基地問題を見据えた作品も、特に最近はドキュメンタリー映画も含めて続出してきています。

沖縄の海辺の町を舞台に、米軍基地建設をめぐる諍いに少年少女らが巻き込まれていくさまを、残酷なまでの神話的タッチで描いた『人魚に会える日。』が、奇しくも6月23日にDVD化されたばかり。沖縄出身の仲村颯悟監督は、何と13歳で『やぎの冒険』(10)を撮り、その5年後にこの作品を手掛け、戦後70年の2015年に完成。16年に東京でも上映された作品ですが、ソフト化をよき機会として、未見の方には強く観賞をお勧めします。

人魚に会える日。 [DVD]

また、沖縄ではありませんが7月29日より公開予定の越川道夫監督作品『海辺の生と死』は、戦争末期の鹿児島県奄美群島加計呂麻島を舞台に、海軍特攻艇部隊隊長と国民学校教師の愛を描いたもので、隊長には永山絢斗、そして教師には満島真之介の実姉でもある満島ひかりが扮しています。

「映画は社会を映す鏡でもある」とはよく言われることですが、今このように戦争を背景とする作品が増えてきていることもまた、現代を象徴しているように思えてなりません。

娯楽を通して社会に訴える。これこそ映画ならではのエンタテインメント性であり、優れた効用ともいえます。

人々の意識を啓蒙してこそ、真のエンタテインメントと呼ぶべきでしょう。

映画とは戦争まで娯楽化できてしまうメディアではありますが、だからこそ戦争を映画の枠以外で決して娯楽と捉えてはいけないことを訴え得ているものこそが、優れた戦争映画であると信じてやみません。

現在、6月23日「慰霊の日」は沖縄県内では休日とされていますが、最近、日本人すべてに沖縄の悲劇を認識してもらうためにも、国はこの日を国民の記念日=休日として制定すべきではないか? といったネットなどの書き込みをよく見かけます。この意見には賛同します。

1年で祝祭日がないのは6月だけだし……というのは冗談にしても、これなら平和への意識を保ち続けるための意義ある日になるのではないでしょうか。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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