70〜80年代、日本映画の画面には「時代の不安」が、生活の匂いのまま焼き付けられていた。
大竹しのぶは、その渦中で“かわいさ”だけでは終わらない感情の層を、静かに、しかし確かに増やしていく。
法廷劇、遺族の闘い、そして90年代の路地裏へ――3本でたどる「揺れる女」の強度。
『事件』(1978)――法廷でほどける“愛と罪”

作品データ
- 公開:1978年
- 監督:野村芳太郎/脚本:新藤兼人/原作:大岡昇平
- 主な出演:永島敏行、松坂慶子、大竹しのぶ、佐分利信 ほか
- 主な評価:日本映画界の主要賞で高く評価(作品賞受賞など)
あらすじ
神奈川県の町外れで、若い女性の刺殺体が見つかる。
逮捕されたのは19歳の工員。
彼は被害者の妹と恋仲で、彼女はすでに身ごもっていた。
裁判の証人喚問が進むにつれ、姉妹と青年をめぐる愛憎、周囲の思惑、そして“本当に何が起きたのか”が、少しずつ別の顔を見せ始める。

大竹しのぶの見どころ:清純から、したたかへ――感情が「育つ」演技
大竹が演じる妹は、最初は「守られる側」に見える。
けれど法廷の言葉が重なるほど、彼女の内側で“選択”が芽を出し、観客の見立てを裏切ってくる。声を荒げず、表情を誇張せず、それでも関係者の人生の重みを一身に背負っていく――その“静かな更新”が怖いほどに効く。
時代背景・評価:裁く側/裁かれる側、どちらにも救いがない
この作品の凄みは、事件の真相を追うスリル以上に、「法が、人の人生をどう切り取ってしまうか」を冷徹に見せるところにある。
裁判は公平であるはずなのに、証言の順番ひとつで“真実らしさ”が組み替わっていく。
大竹の演技は、その制度の中で揺れる個人の心を、最後まで“人間のまま”差し出してくる。
『衝動殺人 息子よ』(1979)――遺族の怒りが社会へ届くまで

作品データ
- 公開:1979年
- 監督:木下惠介/原作:佐藤秀郎(ノンフィクション)
- 主な出演:若山富三郎、高峰秀子、田中健、大竹しのぶ、近藤正臣 ほか
あらすじ
町工場を営む父は、息子に仕事を譲り、家族は慎ましくも穏やかな未来を思い描いていた。
ところがある日、息子は通り魔的な凶行に倒れる。
犯人は未成年。
下された判決を前に、父の怒りはやがて「遺族はどう守られるべきか」という社会の問いへ変わっていく。

大竹しのぶの見どころ:悲劇の外側で、生活を支える“まなざし”
大竹が担うのは、ドラマの中心で叫ぶ役ではない。
だが、だからこそ刺さる。
遺族の闘いのそばで、言葉にならない空気を受け止め、暮らしをつなぎ、家族の時間を守ろうとする。
その佇まいが、物語を「社会の問題」で終わらせず、「この家の話」に引き戻す。
大きな波の横で、小さな手つきがどれほど切実かを教えてくれる。
制作背景・評価:木下惠介が“家族の痛み”を社会派に落とし込む
本作は社会派でありながら、視線はあくまで家族の室内にある。
怒りの矛先が制度へ向かうほど、家の中の沈黙が重くなる。
主演の若山富三郎の圧倒的な存在感、そして高峰秀子の凛とした気配が、時代の痛点を「人の顔」で刻み込んでいく。
『GONIN2』(1996)――路地裏の絶望を、血の温度で演じる

作品データ
- 公開:1996年
- 監督・脚本:石井隆
- 主な出演:緒形拳、大竹しのぶ、余貴美子、喜多嶋舞 ほか
- 位置づけ:前作『GONIN』の続編だが、物語として独立した一作
あらすじ
宝石店で起きた強盗事件に、偶然居合わせた5人の女たち。
追い詰める側は強盗犯と暴力団、追い詰められる側にもそれぞれの事情がある。
逃げ場のない夜の街で、女たちは生き延びるために“反撃”を選びはじめる。

大竹しのぶの見どころ:セーラー服の奥にある、崩れそうな自尊心
大竹が演じるのは、セーラー服姿の売春婦。
表層は派手でも、内側は脆い。
ふとした瞬間に顔を出す「笑いの軽さ」と「絶望の深さ」の落差が、彼女の人生を一気に立ち上げる。
ここでの大竹は、昭和の法廷劇で見せた“沈黙の強さ”とは別のベクトルで、痛みを爆ぜさせる。
90年代の乾いた闇が、彼女の身体に吸い付くようだ。
70〜80年代特集の中で、あえて1996年を置く意味
『事件』と『衝動殺人 息子よ』が描いたのは、制度や社会の圧の中で、個人がどう歪むかだった。『GONIN2』では、その圧がもっと私的で、もっと即物的になる。
時代が変わっても、傷ついた人間が“選ぶしかない瞬間”は消えない――大竹しのぶという俳優の芯は、その断絶と連続を一枚の地続きとして見せてくれる。
まとめ
大竹しのぶの演技は、派手に「泣かせる」だけではない。
法廷で言葉を選ぶ沈黙、遺族の隣で暮らしを守る眼差し、路地裏で自尊心が崩れる一瞬――そのどれもが、“時代の空気”を吸いながら個人の体温へ戻ってくる。
70〜80年代の日本映画が持っていた生々しさを、いま観てもなお新しく感じさせる3本だ。
配信サービス一覧
『事件』
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・ひかりTV
・スカパー!ondemand
『衝動殺人 息子よ』
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・Lemino
・ひかりTV
・スカパー!ondemand
・AppleTV
『GONIN2』
・U-NEXT
・Hulu
・Amazon Prime Video
・YouTube
・Lemino
・J:COM
・ひかりTV
・スカパー!ondemand
・AppleTV

