映像作家クロストーク

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2023年09月21日

【対談】鈴木健太 ✕ 岡本太玖斗┃20代映像作家が語り合う、僕らが好きな映像とクリエイティブ

【対談】鈴木健太 ✕ 岡本太玖斗┃20代映像作家が語り合う、僕らが好きな映像とクリエイティブ


グラフィックデザイナーの思考と映像


──鈴木さんが特に好きな岡本さんの作品はなんですか?


鈴木:WOLVEs GROOVY『BUG』のMVとか好きですよ。映像の文字にインパクトがあって、MVの表現ってもっと自由でいいんだよなっていうことを体現しているなと感じて。MVはコストが潤沢でないことが多いんですけど、そういう中でどうやって工夫するかが大切なんです。


2023年3月に結成した3人組バンド・WOLVEs GROOVY。岡本さんがMVを制作

岡本:まず音楽を聴いたときに曲のリズム感とグルーヴが格好いいなと思って、身体性を感じる映像を撮りたいなと思いました。尚且つ、バンドメンバーの3人のキャラが際立っているので可愛く映したいなと。それで、街中でアドリブ的に歌ったり動いたりする3人を撮影しました。身体性という意味で引きよりも寄りにしたくて、マイクにカメラを装着することで異常に近い視点にしてみようと思ったんです。手作りでガムテープでカメラを固定したんですけど、こういう工夫の工程が楽しかったです。レンズを魚眼にしたり、そのコミカルな感じもハマって格好良さと可愛さのギャップが生まれたかなと。

鈴木:かせいきさだぁのMVとかを手掛けられていたタケイグッドマンさんの映像の感じが僕はすごく好きなんですけど、遊びながら画面を構成していく感じが近いなと思いました。それがグラフィックデザイナーの思考とも共通するのかな。

岡本:それはあるかもしれない。タケイさんも好きですし、山岸聖太さんや児玉裕一さん(*4)にも多大な影響を受けていますね。

*4……山岸聖太は数多くのミュージシャンのMVを手掛ける映像作家。旧知の仲で星野源とデザイナーの大原大次郎と共に、映像制作ユニット「山田一郎」としても活躍。児玉裕一はPerfume、椎名林檎、東京事変、宇多田ヒカル、宮本浩次などのMVを制作する映像作家。


タケイグッドマンが手掛けたMV

──逆に岡本さんが好きな鈴木さんの映像作品を教えてください。

岡本:最近のポカリスエットやHondaのCMとかスズケンさんがプランナーやクリエイティブディレクターとして参加している映像も観ていますが、個人的には映像作家としての仕事が好きですね。どことなく映像全体に大きな一枚の絵を見せてくる感じがします。だから、映像を一本観た後、すごく均一というか、アイコンが入ってくるような印象。これは一緒に仕事していても感じるんですけど、スズケンさんは1つの大きな塊を提示してくるんです。

鈴木:どういうことですか(笑)。

岡本:ラフォーレのコンセプトの話もそうですけど、なにかシンプルで削ぎ落とした大きな塊を考えてくる。それが決まると、全体が不思議とまとまっていく瞬間が結構あるんです。それが映像にも表れていて、とにかく1テーマで突き通す感じ。例えば羊文学『人間だった』だと服を脱ぎながら走るダンサーを横からスローで映してるだけなんですけど、それでも成立しているというか。


鈴木さんが手掛けた羊文学『人間だった』

鈴木:なるほどね。MVを作るときに思うんですけど、曲がすべての答えを出しているから極論、MVっていらないんじゃないかって(笑)。新曲があったとしても、曲を聴くとどんどんイメージが膨らんでいくんですけど、映像があることで規定されてしまう。個人的にはあんまり想像力を規定したくないっていう矛盾を抱えながらMVを作っていて。聴いた人にできるだけ何もない状態で渡したいのでシンプルにしている。「ミュージックビデオはスクリーンセーバーでいい」って言ってる人がいて、すごくわかる。その結果アイコン性が高いのかも。

岡本:面白い。僕はMVを観て好きになった音楽もあるから、音楽と映像は等しく消費するものという感覚があって、映像に対してエゴイスティックな部分があるのかもしれない。だから自分の中でイメージするアーティスト像を外に提示したい気持ちがあります。


鈴木さんが手掛けたKroi「Fire Brain」のMV。頭が燃えながら歌うボーカルと、バンドの演奏というシンプルな構成

鈴木:岡本くんの言ってることも、もちろん分かるし。きっといい意味で自信があるんだと思う。それは一緒に仕事をしていても感じることで、お願いしたデザインと真逆のことをやってくることがあるんですよ(笑)。

岡本:天邪鬼なので真逆のことをやりたくなるんです。こまかい部分まで捻りたくなるタイプなんですけど、スズケンさんは削ぎ落としてくる。でも、結果的にシンプルにしたほうが人に届くこともありますよね。

鈴木:でも、それが岡本くんのいいところで、もらったデザインから気づく事が多くて。自分にないものがある人と一緒にやった方が圧倒的に面白い。だから一緒に仕事しているんだと思います。やりとりしている時はバチバチですが(笑)。

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