阿南の葛藤を多くの人に届けたい...「日本のいちばん長い日」原田眞人監督単独インタビュー
多くの人に届けたい「阿南の葛藤」
原田監督「しかも阿南の場合、すべて『家族』として考えるというイメージがあるんですよね。軍隊も彼にとっては家族ですし、昭和天皇に対しても家族のように慕っている。彼にとって家族ほど大切なものはないし、大切な人の事も家族のように考えるというか…。 そんな彼にとって、大切な次男を戦死させたのは非常に辛いことだったと思います。」
―― 今回の『日本のいちばん長い日』では、阿南陸相の家庭でのシーンも多く出てきましたし、次男が前線で命を落としたことも何度か触れられていましたね。
原田監督「阿南は陸相になるほどの人物ですから、もちろん戦う術は心得てますし、元々イケイケドンドンの性格です。ですから、『戦いたい』という軍人としての気持ちは当然あったでしょう。しかし昭和天皇は『戦うな』と言うわけです。その辺りがアンビバレンスですよね。それをどう綱渡りをしていくかに、僕はとても興味を持ちました。」
―― 阿南惟幾=好戦的というイメージだけでなく、軍部や家庭で見せる優しさや気配りなどが丁寧に描かれていて、とても共感できる人物に仕上がっていたと思います。
原田監督「『腹芸』『気の迷い』などと日本的に解釈するより、欧米の観客の方が、阿南の葛藤というものをより理解しやすいような気もします。だからこの『日本のいちばん長い日』という映画は、世界中の多くの方々に観てもらいたい。たくさんの方に、阿南の置かれた立場や心情は伝わるはずですから。」
より深く掘り下げ、多面的に人物を描く
―― 今まで映画で描かれた阿南陸相は、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』で三船敏郎さんが演じた役が最も印象的ですが、原田監督が描かれた阿南惟幾は、今までのイメージと全く違っていて驚きました。何か狙いのようなものはありましたか?
原田監督「岡本監督バージョンでの阿南陸相は、クーデターが進行しているのにもかかわらず、自分の美学を貫く為に勝手に死んじゃった…という感じがしたんです。閣議のシーンでも、右手に持った刀の柄(ツカ)をグッと握ったり、好戦派の側面だけ描写されてる気がして『これじゃ阿南さん、浮かばれないな』と思いました。ですから、通り一遍ではなく、多面的で厚みのある人物像にしようと心掛けましたね。」
―― そうですね。原田監督ご自身が、登場人物に魅了されているようにも感じました。
原田監督「実はこの映画を、阿南家のご子息と鈴木貫太郎首相のお孫さんにも観ていただいたんです。そしたら『これが僕の知ってる本当の父親像です』『おじいちゃまはこういう人だった』などと仰って、凄く喜んで下さいました。彼らは今までの作品を見た時に、ものすごく違和感を覚えたそうです。僕自身、阿南さんの人物像に惹かれ、鈴木貫太郎さんにも惹かれ、昭和天皇にも、ある意味『親近感』を覚えて描いています。」
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。