ジョン・ギラーミン監督追悼 70年代ハリウッド大作監督の真実
忘れられた名作『かもめの城』から紡がれるべき
ギラーミン映画の再評価
調べると、アメリカ建国200年記念映画『ミッドウェイ』(76/ジャック・スマイト監督)や、時の美少女ブルック・シールズ主演の砂漠アクション『サハラ』(83/アンドリュー・V・マクラグレン監督)も当初は彼が演出する予定だったようですが、戦記大作『ミッドウェイ』は彼だったらどう演出していただろうか? といったないものねだりの興味もわいてきます。
そういえば数年前、シネフィルの間でひそかにジョン・ギラーミンの名前が取り沙汰されていたことを思い出しました。
彼が65年に撮った『かもめの城』がDVD化されたからです。
『かもめの城』は、巌窟で敬虔なクリスチャンの元判事(メルヴィン・ダグラス)と、純粋すぎて情緒不安定な娘、そして家政婦が住むフランスの人里離れた海辺の崖の上に立つ館に、脱獄囚(ディーン・ストックウェル)が入りこんできたことから始まるファンタジックな情緒を伴うドラマです。
その脱獄囚は、娘が無害な友人でもある案山子に着せていた父の服を盗んで着ていました。
そのせいで娘は、彼を案山子だと思い込んでしまうのです……。
娘を演じているのは『シベールの日曜日』のパトリシア・ゴッジで、多感すぎて複雑な心理下にある少女をみずみずしく好演していることで、この作品を見事なまでの思春期の寓話たらしめています。
一見、これがあのギラーミン映画? と驚くほどの内容ですが、よくよく見ると、ここでもギラーミンは曇天の大海原や、空飛ぶかもめたち(ギラーミンの空と空飛ぶものへのこだわりは、ここで既にあった!)が崖のトーチカに集まる光景などをモノクロ映像でリリカルに捉えており、彼の大作群を愛してやまない者としては目から鱗が落ちるほどの衝撃をもたらしてくれるでしょう。
音楽がフランソワ・トリュフォー監督作品などで知られる名匠ジョルジュ・ドルリューというのも驚きですが、これまたこの作品になくてはならないほどの美しさで迫ってきます。
もともとギラーミンは映画監督としてキャリアを開始した50年代は、ファミリーものからミュージカルまで、さまざまなジャンルの作品を手掛けており、そこで得た手腕を開花させたのが『かもめの城』を撮った65年前後であった。そうみなすことも可能ではないでしょうか。
こんな哀愁に満ちたギラーミン映画もあったのかと驚きつつ、実はこの中に後のギラーミン映画のすべてが詰まっている原点として、強くお勧めしておきます。
いずれにしましても、ハリウッドに精通しつつもヨーロッパ映画人としての誇りを忘れなかった彼の死は、やはり一つの時代の終わりを告げているかのような、そんな気もしてなりません。
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(文:増當竜也)
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