俳優・映画人コラム

REGULAR

2015年11月04日

映画を学ぶ日本の若者たちとの交流 ~第28回東京国際映画祭ジョン・ウー監督トーク・イベント~

映画を学ぶ日本の若者たちとの交流 ~第28回東京国際映画祭ジョン・ウー監督トーク・イベント~



いつか一緒に
アニメーション映画を作りましょう




円香(第27回東京学生映画祭アニメーション部門グランプリ『GYRO(ジャイロ)』監督)
――「監督してみたいアニメーション映画の題材などおありでしょうか。また、アニメーション表現に関してのお考えなどありましたら?」

ウー「小さい頃、たくさんのアニメーションを見てきましたが、そのほとんどはミッキーマウスでした(笑)。

みなさんお気づきかと思われますが、アクションとアニメーションの表現はかなり共通するものがあります。

私自身、自慢ではありませんが編集は得意なほうで、映画を学ぶ若いみなさんにも、撮影よりも先に編集を学ぶことをお勧めしています。
アクション映画を撮るとき、先ほども申しましたがミュージカルの表現を導入し、時に音楽を聴きながらアクション・デザインやアングルなどを考えたりしています。私の好きなスローモーション撮影のときも、ハイスピードでキャメラを回すときはどういうコマ数で撮り、またどういうコマ数をもって元に戻すのかなどを考えます。

キャメラに関しても、全て自分でコントロールします。アクションもアクション監督に任すのではなく、完成した作品のリズムなどを全部撮影の段階から把握しておかなければならないと思うからです。

アニメーションの話に戻りますと、実はパラマウントで長編アニメーション映画を監督する企画があり、そこで私は『西遊記』を撮ろうと思い、実際に準備に入っていたのですが、ちょうどその頃私がアジアに戻ることになったもので、企画は中断したままでいます。でも、もし機会があれば、ぜひあなたと一緒に『西遊記』を作ってみたいと思います!」

中村祐太郎(第27回東京学生映画祭実写部門グランプリ『雲の屑』監督)
――「『男たちの挽歌』を見たとき、ハンバーガーなどジャンクフードなどの扱いが良い意味で汚いと思いましたが、現場ではそういうものを食しながら撮影されていたのでしょうか。ウー監督ならではの現場メシってありますか?」

ウー「私たちの現場はとても綺麗ですよ(笑)。『男たちの挽歌』のとき、チョウ・ユンファは現場でいろいろ考えながらやってくれていました。たとえば失敗して落ち込みながら電話するシーンでの彼をかっこよくは見せたくないということで、では片手でチキンをかじってみせようとか。それまでの彼はプレイボーイ的な役が多かったので、『男たちの挽歌』は新しい挑戦でもあったのです。
 まあ、銃撃シーンとかは血だらけになりますので、さすがに現場は汚かったかな(笑)。

『男たちの挽歌Ⅱ』(87)では血糊を日本から輸入したのですが、後で聞いたらあまりにも大量に購入したもので、日本で在庫切れになってしまったとか(笑)。

現場メシに関して言いますと、私の現場での食事は非常にシンプルで、白い飯だけです。もちろんケチャップはかけませんよ(笑)」
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やはり最終的には
人間性を描くしかない




この後、会場からの質問にも答えていただきました。

―― 監督のお好きな女性監督は?

ウー「キャサリン・ビグローとアン・ホイです」

―― ハリウッドで映画を撮り続けてきた中で、なにがしかの誤解を解きたいといったことはありますか?

ウー「私は映画制作において常にコミュニケーションを良好に保つことに努めてきていますし、準備万端で現場に臨みたいので、誤解されるようなことはないと思っています。

例を挙げますと、『フェイス/オフ』を撮ったとき、非常に順調だった中でラストで問題がおきました。最後に主人公のジョン・トラヴォルタが悪漢のニコラス・ケイジを殺すわけですが、彼には幼い男の子が残されていて、私たちはトラヴォルタがその子を引き取るラストを考えていました。
すると会社の上層部がそれに反対しまして、アメリカでは敵の子どもを連れて家に帰るなんてありえないと。私は人間性の問題として、主人公は残された子を養育するべきだと訴えましたが、結局その子を見捨てるバージョンをスニークプレビューしてアンケートを取ったところ、観客の反応は良かったけど、点数は33点。つまりは不合格でした。
コメントを読んでみると、その多くが『最後、何で主人公は子どもを連れて帰らないの?』と。そこでようやく上層部も自分たちの過ちに気づいて編集し直すことになり、再びプレビューしたところ、点数は88点にまで上がりました。

私もこの一件でかなり自信を持てるようになりました。アクションはあくまでもアクションでしかなく、世界市場においてさまざまな国の観客を感動させられる映画を作るためには、最終的には人間性を描くしかないのだと」

最後に、映画を目指す若者たちへのジョン・ウー監督からのメッセージです。

「先ほども申しましたが、若いみなさんにはぜひ自国の昔の映画について学んでいただきたいと思います。

特に日本映画は過去、素晴らしい作品がいっぱい存在しますし、そういった作品が内包する伝統や精神を用いながら、みなさんの若い感性を活かした、よりよい日本映画を作っていってください」

ジョン・ウー監督はこの後、中国で3億人が見たといわれる高倉健主演の日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(76)の香港リメイク“MAN HUNT”に取り掛かる模様。さらにその後ハリウッドで『狼/男たちの挽歌・最終章』のアメリカ版リメイクを手掛ける予定です。
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(文・増當竜也)

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