レゴで遊んだ私が『レゴバットマン』を観たら全てが最高だった話
© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
またも傑作を放ってくれました、レゴブロック。
2年前の『LEGO(R) ムービー』が公開された際も「レゴブロックを映画化するってどういうこと?」と疑問に思っていたところを、フタを開けてみれば快哉を叫びたくなるほどの大傑作。特にレゴで遊んだことのある人間からすれば感涙モノの出来栄えと創造性でした。
そして今回のレゴ映画では、そんな作品のキャラクターとしていた登場していたバットマンをフィーチャー。単独映画として描かれたのが『レゴバットマン ザ・ムービー』です。
レゴ、バットマンの80年の歴史に答えを出す
そう。とにかく驚かされたのは本作が思いのほか「バットマン映画」だったこと。それは「バットマンをテーマにしたレゴブロック」ではなく、「レゴブロックでバットマンの映画を作った」ということ。
バットマンには誕生以来約80年の歴史があり、コミックスや映画など多くのタイトルを生んできました。その歴史の中で、バットマンは悪役=ヴィランズと闘い続け、家族を失い、あるいは良き相棒と組むとともに「正義とは何か」「ヴィランの意味とは」「仲間とは」という疑問を常に提示してきました。
特にティム・バートン版バットマンやクリストファー・ノーランのダークナイトシリーズでその疑問は顕著に描かれていますが、本作はしっかりとその同線上に位置し、なおかつ「疑問の提示」だけでなく「答え」まで出してしまったのだから凄い。80年かけて提示し続けたそれらの疑問に、たった105分の作品1本で答えてしまったのです。
ヴィランの意味を追求するために、本作では過去作と同じくバットマンの宿敵であるジョーカーの存在が大きく扱われています。全年齢が対象のレゴ映画なので噛み砕いて言えば、ジョーカーとしては「バットマンと遊びたい=存在を認めてほしい」ことであるのに対して、バットマンはあくまで「街を守るため=ヴィランに対する私情はない」。
こうなるとジョーカーは存在意義を見失ってしまいます。光があるからこその闇。悪役が居るからこそ正義が成り立つ。実はその絶妙なバランスの上でバットマンとジョーカーはアメコミ史上最も「対の関係」を保っているのにも関わらず、バットマンはそれを認めようとしない。
形の歪な共依存でありながら存在を否定されたジョーカーの心情には、悪役ながら同情してしまうはず。このバットマンとジョーカーの意識の相違がゴッサムシティを揺るがす事態に繋がってしまいますが、バットマンがやがてジョーカーの「想い」にどう答えたかはラストバトルに大きく関わるのでここでは言及を避けておきましょう。
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単独行動のバットマンがロビンという相棒を見つけるのも本作の大きなテーマ。バットマンにはもともとアルフレッドという善き理解者がいます。しかしアルフレッドはあくまで執事としての立ち位置とバットマンへのサポート役。そこで相棒となるロビンが登場しますが、本作でもバットマンは単独至上主義。
しかも「いや待て、使えるかも」という魂胆からロビンを「利用する」始末。もうこの時点で「この映画バットマンが悪役じゃねーか!」とツッコミも入れたくなりますが、ここからがバットマン=ブルース・ウェインの成長物語になるのが上手い作りになっているのです。
相棒である以前に、父親でもあるバットマンとロビンの関係。ヒーローとしての成長とともに、父性の目覚めもしっかりと描き、バートンもノーランも触れなかった、バットマンとロビンのキャラクターの枠を超えた信頼関係も(アルフレッドやゴードン警部の娘でもあるバッドガール含め)見事に着地させているのです。
ここまで書いてくると、「歴代のバットマンを知らないとついていけない?」「大人向け?」と思われてしまいそうですが、やはり、レゴは子どものものでもあります。前作同様のギャグシーンのオンパレードで、上映開始と同時にその方向性がしっかりと示されるのでご安心を。
そしてレゴ映画だからこそ無限に広がる創造性の自由度が、バットマンという作品の枠を超えた「悪役」を大集合させているので、何のキャラクターか探ってみるのも楽しみの一つ。例えば『マトリックス』の“エージェント”すら持ってくるほどの大盤振る舞いになっています。
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音楽もノリノリだぜ!
本作の自由度は音楽にも表れています。まずオープニングから『ダークナイト』のジョーカーのテーマ曲に寄せた音色から立ち上がり、『ダークナイト ライジング』のような重々しいドラムのリズムが刻まれていきます。
本作は全体的にダークナイトシリーズの音楽を思わせるフレーズやイメージが散見されますが、これは劇伴を担当したロアン・バルフェがダークナイトシリーズ3部作でハンス・ジマーとともに作曲に携わっていた影響が強く、意図的に似せたのかたまたま近くなったのか定かではありません。
ただ、『LEGO(R) ムービー』の劇伴を担当したマーク・マザースボウが本作は一旦離れレゴ映画の次作となる『The LEGO NINJAGO Movie』への復活登板が決まっているので、バットマン映画の音楽に携わっていたバルフェが本作に起用されたことはそれなりに意味があるかも知れません。
ダークナイトシリーズに寄せているとはいえ、しかしそこはやはりレゴ映画でありコメディ映画。
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遊び心をふんだんにまぶした音楽で耳でもしっかり楽しませます。
ダークナイトシリーズに限らず過去作品の音楽へのオマージュが多く、例えば戦闘シーンなどでは1966年のバットマン映画でニール・ヘフティが作曲したバットマンのテーマが使われ、「バットマーン」のコーラスも高らかに再現されていたり、バットマンモービルのクラクションサウンド一つにしても思わず笑ってしまうネタ(日本でいう暴走族が『ゴッドファーザー』のテーマ曲を使うようなノリ)になっていたり。
フォール・アウト・ボーイのボーカリスト、パトリック・スタンプの歌う[Who’s The(Bat)Man]は過去最高のハードロック・バットマンテーマになっていて、本編ではバットマンの声を演じたウィル・アーネットの低音ボイスとともに堪能することができます。
本作のサントラ盤は[Who’s The (Bat)Man]などの劇中歌やバルフェの劇伴がセットになった2枚組で輸入盤は既に発売済み、4月12日には国内盤も発売されるので、映画と合わせて楽しんでみては。
まとめ
そもそもレゴブロックには“想像する・創造する”という精神があり、本作でも組み立てて解体してまた組み立てての、無限に広がる“創作性”を映像を通して堪能することが出来ます。
バットマンの操るマシンが瞬時に姿を変えるのも、ラストのあの「カチッ」も、レゴブロックに親しんできた人にとっては心を高揚させてくれる大切な要素。ここで注目してほしいのは、ではその「バットマンのいるレゴの世界を作ったのは誰か」というポイント。監督? 脚本家? ということではなく、バットマン(=ブルース・ウェイン)のそばに居たいロビンの心情や、バットマンとジョーカーの設定が前作『LEGO(R) ムービー』のあるキャラクターたちに通じる部分があるのではないでしょうか。
「ピュンピュン」と攻撃音が「口から発せられた音」」になっているのも、新旧やたらと幅広い悪役のチョイスになっているのも、ゴッサムシティの地盤の底に見えた“色”なども、果たして単なる設定にすぎないのでしょうか。
そう考えたときに前作と本作が地続きになるのではないかという、“想像性”も楽しませてくれます。家族が出来て、バラバラになって、また一つになって。前作にあった裏テーマを完結させた上で、本作ではそのテーマを物語そのものに生かす。レゴブロックの映画と侮ることなかれ。実に奥深い、まさしく無限に広がる想像・創造のイマジネーションの大地が、私たちの目の前には広がっているのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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