人間の繋がりが生んだ“本物”のストーリー『泣き虫しょったんの奇跡』に涙…
17回目となりました。どうも橋本淳です。
今回より土曜日の更新となりました、回数は変更なしの月2回でございます。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
水曜日更新から土曜日更新になり、締め切りが3日後ろ倒しになったせいか、いつもより締め切りに押し寄せ“られない”日々、通称ノン締め切りフリーDAYが長く、幸せな日々でした。しかし締め切りはやってくるのです。そして私は画面に向き合い、キーボードを打つのです。
(はい、すいません。早く書きます。ちょっとフリーDAYを伸ばしてみたかっただけです。)
『泣き虫しょったんの奇跡』
(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
プロ棋士を目指す者が集まる、プロ棋士養成機関“奨励会”。ここに入会することすら厳しい道で、その難関を乗り越え入会すると、またさらなる試練が待っている。それは、年齢制限。満21歳までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会という厳しい鉄の掟。
ただし、年齢制限の最後の三段リーグで勝ち越せば、満29歳のリーグ終了時まで次回リーグに参加できる。この東西を合わせた三段リーグを年2回行い、それぞれ上位2名だけが四段に昇格することができ、そこで初めてプロ棋士となることが出来る。
この狭き門をくぐり抜けないとプロ棋士になれなかったが、2005年に特例として、瀬川晶司がプロ編入試験を実施。見事にプロ棋士になることが出来た。翌年から、奨励会を経なくとも実力がある者がプロ編入試験の規定を設けた。
将棋界で起きた奇跡の実話の映画化。
(以下、ストーリー。内容に触れていますのでご注意を。)
(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
小学生のしょったんこと瀬川晶司は、熱が入るものがなかったが、将棋だけは好きでよく兄と指していた。
そんな時、ニュースで中学生でプロ棋士となった谷川浩志棋士のことを知り、将棋を指してお金がもらえる“プロ棋士”という職業を知る。隣に住む、鈴木悠野も将棋が好きなことを知り、2人は切磋琢磨しあう友人でありライバルとなり、より将棋にのめり込む。
そんな2人を目の当たりにした、しょったんの父・敏雄は、「そんなに好きなら」と2人を将棋道場に連れて行く。そこは様々な年齢の将棋好きが集まる場所だった。タバコの煙が充満する道場の中、2人はマスクをしながらさらに将棋に熱中する。強い人対戦し、メキメキと腕をあげる2人。道場では、暖かな大人たちから将棋以外の礼儀なども教えられ、人としても成長する。そしてしょったんは中学三年で奨励会に見事合格し、入会することになる。
そこからがまた険しい道のり、、、年齢制限という大きな壁が立ちはだかる。全国から集まった猛者たちと戦いながらも上を目指す。周りには同じ目標を掲げる友人たち。しかし、ひとり、、またひとりとプロ棋士になれなかった者が奨励会を去っていく。
しょったんも最後まで粘ったが、あっという間に年齢のタイムリミットが来てしまい、奨励会を去ることに。父からは「お前は本当にがんばった。今はゆっくり休め」と優しく労われる。しかし、ずっと優しく支えてくれた父が交通事故で他界してしまう。しょったんは、「もっとがんばれたのに、、」と後悔の涙を流す。傷心のしょったんは幼馴染の悠野と再会し、将棋の楽しさを再発見し、また道場に通い出す。
そして、アマチュアで名人となる。そのしょったんの強さを目にした周りの人々は、彼にプロ編入試験の話を持ちかける。。。
(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
と、長々ストーリーを書きましたが、出来ることなら何も読まずに映画を見て欲しいです。
僕はこの実話を恥ずかしながら知らなかったので、どうなるのかとハラハラドキドキの2時間。(最後の結末は勿論知っていましたが、それでも心揺れる感動作でした)
監督は豊田利晃。豊田作品といえば、『青い春』『ナイン・ソウルズ』『I’M FLASH!』などエッジの効いた作品のイメージですが、今回は感動の人間ドラマ。珍しい印象でした。
監督自身が、17歳まで実際に奨励会にいたということもあり、将棋のシーンは見事です。役者ひとりひとりの指し方にリアリティがあり、嘘がない。静かな室内に、呼吸音と将棋の駒を指す音だけが響き渡る。独特の緊張感だけども、どこか観てる側は心地よくなっていく。
盤面を挟んだ役者のやり取りは、無駄を排除した心理戦で手に汗握る。監督がこだわったという各対局シーン。撮り方に様々な工夫が散りばめられている。奨励会の時と、プロとの対局する時とでは、アングルを変えたりと、そのアイデアが見事にハマっていました。
(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社
キャストは、豊田監督と組んだことのある名優たちが、メインと脇をしっかり固めています。主演・しょったんこと瀬川晶司役に松田龍平。親友・悠野役にプライベートでも松田と親交が深い野田洋次郎。父・敏雄に國村隼。他に沢山のステキな役者陣。染谷将太、渋川清彦、永山絢斗、駒木根隆介、新井浩文、妻夫木聡、早乙女太一、松たか子、藤原竜也、石橋静河、美保純、イッセー尾形、小林薫など。
決して出番は多くないがきっちりと印象を残していく助演陣。しょったん目線で感情移入している観客が、しょったんの人生を追体験している感覚を後押ししてくれる。人生に絡んでくる。見終わってからもしょったんに掛けれらた色んな人物からの言葉が色濃く残っています。それくらい各人物、人間がリアルで素晴らしい。
それは主演として立つ、松田龍平の器が大きく、色んなものを背負っているから成せるのでしょう。あそこまで表情を崩し、感情を露わにする松田龍平も初めてかなと思います。その姿がしょったんと重なり、感動のシーンとなっています。(僕そのシーン、見事に泣きました、、)
ファーストシーンの、駒を並べていく場面がこれまたいいんです。嗚呼好きだなぁと個人的にはどハマりです。
実はこのシーンの手は、瀬川晶司棋士本人の手。瀬川棋士は緊張で手が震えたと語っていますが、とても静謐で美しいです。そしてラストのカットを飾るのは豊田監督の手という話を聞き、また観たくなった橋本でした。
いくつかある将棋映画の中でも、群を抜いて素晴らしい作品。
こうも感動する作品になったのは、豊田監督に賛同し協力したスタッフ・キャスト、そして実際の瀬川晶司棋士とその周りの人々。人間の繋がりが生んだ“本物”のストーリーだからなのかなと思います。
あの音を聞きに是非、映画館へ。
それでは今回も、おこがましくも、紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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