映画コラム

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2019年08月03日

『サマー・オブ・84』の「3つ」の魅力!『ストレンジャー・シングス』ファンも必見の理由とは?

『サマー・オブ・84』の「3つ」の魅力!『ストレンジャー・シングス』ファンも必見の理由とは?



(C) Gunpowder & Sky, LLC


本日8月3日より、新宿シネマカリテにて『サマー・オブ・84』が公開、以降も全国で順次ロードショーとなっています。結論から申し上げれば、これは“80年代ジュブナイル青春ホラー映画”の魅力に溢れきっている秀作でした!以下から見所を解説していきましょう!

1:「隣人が実は連続殺人鬼なのかも…?」
という疑心暗鬼になる恐怖が描かれていた!


物語の舞台は1984年のオレゴン州。そこでは子供ばかりが狙われる連続殺人事件が発生しており、15歳の主人公はその犯人が向かいの家に住む警官ではないかと疑い始め、3人の親友とともに捜査に乗り出すことになる…というあらすじになっています。

この『サマー・オブ・84』の何よりの特徴は、“探偵団”的な子供たちの捜査を主軸として描くと共に、「その推理は正しいのか?」「それとも行きすぎた妄想なのか?」という“揺さぶり”をかけてくるということでしょう。

連続殺人鬼の疑いをかけられた男は確かに怪しいけど、なかなか確たる証拠は見つからず、捜査のためには不法侵入だってしてしまう……やがて少年たちは自分たちのやっていることは正しいのか?子供っぽい知的好奇心が先行しただけの独善的な行動に過ぎないのでは?と悩むようになっていくのです。

さらに象徴的なのは、映画がこのようなモノローグから始まるということでしょう。
「連続殺人鬼も誰かの隣人だ。人は決して本性を見せない。郊外でこそイカれたことが起こる」

これは、真実味のある恐怖です。毎日顔を合わせているような隣人であったとしても、その裏では何をしているか、その真意がわかるはずもないのですから。その隣人が連続殺人鬼かもしれない訴えを「子供の空想にすぎない」と言い捨ててしまうのは簡単ですが、それが真実である可能性がゼロとは誰も言い切れないでしょう。

さらに、1980年代当時のアメリカは“郊外の安全神話”が崩壊しつつあった時代だったのだとか。人々が郊外に集まり新たなコミュニティを築き始めている一方で、現実では子供の誘拐事件が多発しており、隣人への不安も潜在的に抱いていたであろう時代背景が、つぶさに物語に反映されていました。加えて、携帯電話やインターネットもなく、“情報が限られている”ことも、劇中の子供たちの恐怖感や不安要素につながっているのです。『サマー・オブ・84』は、80年代当時の文化そのものが、物語とも不可分になっていると言っていいでしょう。

また、劇中では幽霊やエイリアンなどのフィクショナルなモンスターは登場せず、超常現象なども起こりません。子供たちによる「隣人が実は連続殺人鬼なのかも…?」という疑心暗鬼を丹念に、“実際にあり得るかもしれない”リアリズムを持って描いているのです。劇中で大きな事件がさほど起こらないにも関わらずグイグイと観客の興味を引くのは、この舞台設定が強固に作られており、不安でいっぱいの子供たちに感情移入ができる要素がギュッと詰まっているからなのでしょう。



(C) Gunpowder & Sky, LLC



2:80年代ジュブナイル青春ホラー映画の魅力が復活!
美少年子役の演技と存在感にも注目だ!


現在は“1980年代の映画の雰囲気に溢れた”、“子供たちが主人公のホラーテイストの作品”がある種のトレンドになっています。

例えば、Netflixオリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は世界中で大ブームとなり、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』はホラー映画史上最大のヒットを記録しました。どちらもR15+指定がされるほどの残酷描写もありつつも、思春期ならではの少年少女の悩みも描かれることや、「子供たちが主人公なのに子供向けじゃない(けど大ヒット)」というのも共通しています。

さらに、2019年にリブートされた『チャイルド・プレイ』は舞台が現代に置き換わり、チャッキー人形はスマートスピーカー的な機能も備わったAIロボットになっていたりもしますが、これもまた子供たちの活躍やR15+指定大納得のスプラッター描写などに、やはり80年代ホラー映画の雰囲気を大いに感じられました。

その他、R15+指定はされていないファミリー向け映画である『シャザム!』や『バンブルビー』にも、『E.T.』や『グーニーズ』を彷彿とさせる雰囲気やホラー要素があり、作り手もスティーブン・スピルバーグ監督やアンブリン(製作会社)作品へのオマージュがあると明言していたりもするのです。

この『サマー・オブ・84』も、それらの80年代のジュブナイル(少年期)作品オマージュのブームに良い意味で乗った映画の1つなのは間違いありません。少年たちの冒険(捜査)は純粋にワクワクできる一方で、得体の知れないもの(連続殺人鬼)への恐怖も丹念に描かれ、彼らの悩みに同調できる青春映画、心から応援できるエンターテインメントとしての楽しさもたっぷりとあるのですから。

さらに、これらの作品では子役たちの熱演を堪能できるというのも大きな魅力です。『サマー・オブ・84』で特に注目なのは、冷静な判断力を持つ少年を演じたジュダ・ルイスでしょう。『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』でのジェイク・ギレンホールとの共演も話題を呼んだ彼は、若き日のレオナルド・ディカプリオを思わせる甘いルックスで、かつ大人顔負けの卓越した演技力と存在感を見せつけるのですから。単純に「美少年を堪能したい!」という方にとっても本作は必見と言えます。

ちなみに、『サマー・オブ・84』のタイトルは、おそらく1971年の青春映画『おもいでの夏』(の原題である『Summer of '42』)のもじりでしょう。一軒家の上に不気味なドクロが見えるというポスターデザインも、1991年のホラー映画『壁の中に誰かがいる』のオマージュと思われます。

さらに、劇中のレトロな音楽は1978年の『ハロウィン』を思わせますし、序盤には1982年の『ポルターガイスト』を彷彿とさせるセリフもあったりします。我こそは映画ファンだという方は、こうしたオマージュやパロディをさらに探してみてほしいです。



(C) Gunpowder & Sky, LLC



3:ネタバレ厳禁の衝撃のクライマックス!


本作には「トラウマ級の戦慄の結末!」というキャッチコピーがつけられているのですが……それは伊達ではありませんでした。とにかく、『サマー・オブ・84』には驚愕の展開が用意されている、間違いなく「ネタバレ厳禁!」の要素があると言っていいでしょう。

何とか言えるのは、これが「子供たちがこの世のダークサイドに触れ、今までのように無邪気なままではいられなくなってしまう物語である」ということでしょうか。少年たちの捜査の過程はもちろん、言葉を失うほどのクライマックスでは特にそのことを痛感させられるのですから。

ぜひ、『サマー・オブ・84』はそれ以上の予備知識なく、「あまりの事態に翻弄される」感覚のままに鑑賞してほしいです。前述したように「隣人が連続殺人鬼であるという推理は正しいのか?」「それとも行きすぎた妄想なのか?」という疑心暗鬼こそが肝となる内容であり、何も知らずに観てこそ少年たちの気持ちと同調して観ることができ、驚愕のラストでそれらが見事に昇華されていくのですから。

このラストは、おそらく賛否両論も呼ぶでしょう。R15+指定大納得の、あるシーンでの残酷描写も人によっては大いに拒否反応を覚えるかもしれません。しかし、筆者はこの『サマー・オブ・84』のラストは「こうであるべき」だったと肯定します。作り手の狙い、メッセージが、このラストに集約されていたのですから。



(C) Gunpowder & Sky, LLC



おまけ:チャリ版マッドマックスな『ターボキッド』も合わせて観てみよう!


本作『サマー・オブ・84』の監督は実は3人組で、ROADKILL SUPERSTARS(RKSS)というユニット名で活動しています。彼らの長編映画の第1作となる『ターボキッド』が、類まれな傑作であったということも訴えなければならないでしょう!



この『ターボキッド』は2015年製作にも関わらず、劇中の舞台は“1997年の未来”になっています。主人公のスーツの見た目は安っぽく、その武器はファミコンのコントローラーの“パワーグローブ”っぽく、ザコたちはチャリ(BMX)で襲ってくるなど……全てにおいて荒唐無稽かつ圧倒的なチープさがあるのですが、それがむしろ最大の魅力。荒廃した舞台設定と敵たちのヒャッハーぶり(乗っているのはチャリ)は、「チャリ版マッドマックス」と呼ぶにふさわしいでしょう。

それでいて物語はかなり練られており、主人公の成長物語+カウボーイの復讐劇+ラブストーリーがバランスよく構築されています。ヒロインは天真爛漫でとにかくキュートで、主人公は女の子が苦手なヘタレな少年だったけど、彼女を守るための男として成長していきます。さらに“秘密”が明かされていくクライマックスも確かな感動があるなど、“B級”と言い捨ててしまうには勿体なさすぎる完成度を誇っていました。

ほぼほぼギャグと化している(というか爆笑する)悪趣味なスプラッター描写も満載ですが、それ以外は万人が楽しめる内容なのではないでしょうか。元々はオムニバスホラー映画『ABC・オブ・デス』に落選してしまった短編を、長編映画化したことで高い評価を得たというのも実にイイ話ですね。

『サマー・オブ・84』と『ターボキッド』は、舞台や設定の“レトロ感”があり、カナダのアーティストの“Le Matos”の劇中音楽が魅力的で、残酷描写もあるけどそれは作品とは不可分なものであり、かつ(予算が少ない小規模の作品であっても)作り手が映画というエンターテインメントを心から愛していることが伝わりまくるなど、やはり同じユニット監督が手がけたからこその多くの共通点を見つけることができるでしょう。今後もその活躍を追い続けたくなることは間違いなし、ぜひ合わせてご覧ください!

(文:ヒナタカ)

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