映画コラム

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2020年01月11日

『リチャード・ジュエル』のレビュー:長年の冤罪事件が現代のSNS社会の闇に訴える!

『リチャード・ジュエル』のレビュー:長年の冤罪事件が現代のSNS社会の闇に訴える!



人生の罪と罰を問題的し続ける
クリント・イーストウッド監督




(C)2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC 




マカロニ・ウエスタンやダーティ・ハリー・シリーズなどで大スターとなったクリント・イーストウッドではありますが、いざ自身が監督する作品となると、そのデビュー作『恐怖のメロディ』(71)からしてストーカーを題材にしたサスペンス劇であり、その後も集団リンチで殺された男の亡霊の復讐西部劇『荒野のストレンジャー』(72)、レイプされた女性の復讐劇『ダーティハリー4』(83)、足を洗って久しい老ガンマンがその非道さを蘇らせていく『許されざる者』(92)、死刑囚の冤罪を訴える『トゥルー・クライム』(99)、25年に及ぶ殺人事件の真相究明が救いのない友情劇をもたらす『ミスティック・リバー』(04)、自身が育てた女性ボクサーの再起不能に際して下される老トレーナーの究極の罪と罰の決断『ミリオンダラー・ベイビー』(05)、硫黄島の戦いの英雄米兵らのその後の苦悩『父親たちの星条旗』(06)、人種差別主義者とアジア系移民家族との奇妙な交流とその意外な顛末『グラン・トリノ』(08)など、どこかしら社会がもたらす人間の心の闇に対して“陰”的要素を際立たせていく作品が多くうかがえます。

(一方では快活な現代西部劇『ブロンコ・ビリー』やメロドラマの秀作『マディソン郡の橋』95、オヤジらが宇宙で熱く燃える痛快SF『スペースカウボーイ』00のようなものも多数手がけています)

『リチャード・ジュエル』は初代FBI長官として強権を奮った男の実像を描いた『J・エドガー』(12)主演のレオナルド・ディカプリオが製作に参与しており、一方では同じく実話の映画化で飛行機事故を未然に防いだ機長がその判断の是非を問う事故調査委員会の厳しい追及にさらされる『ハドソン川の奇跡』(16)とも共通する要素が見受けられます。

本作がイーストウッド映画らしいと唸らされるのは、やはりリチャード・ジュエルという主人公のキャラクターを決して聖人君子にしていないところで、どちらかというとクセのある愛国的かつ正義、そして何よりも人間そのものを過剰に信じてやまない姿勢の数々は、時に鬱陶しく忌避したくなるものもないわけではありません(そんな彼のキャラを熟知した上で弁護にあたるワトソン役のサム・ロックウェルの、ちょっと彼にうんざりもしている風情もナイスなのでした)。

しかしイーストウッドはインタビューでリチャードのことをあくまでも「普通の人間」と発言しています。

どんな人間にも善かれ悪しかれ独自の個性があり、そんな“普通”の人間を普通ではなくさせてしまうものとは一体何なのか? それこそをイーストウッドは訴え続けているように思えてなりません。

何よりも人を信じて疑わず、国を愛し、正義を愛してやまなかったリチャード・ジュエルは、そうした“国の正義”のもとに疑われ、アメリカ全土の人々に蹂躙されてしまったのです。

映画としての語り口の達者さは他の追従を許さぬほどで、とても80代後半の人間が監督したとは思えない力強さですが、あえて以前と少し変わったかなと思わせるのは、やはり演出タッチが幾分か優しく温かくなったことでしょう。

特に本作の場合、普通の人間の人生をメチャクチャにしてしまった社会の闇を訴えつつ、その当事者たち(FBIやマスコミなど)すらどこかしら許容している節が感じられます。つまりは個々の犯した罪そのものを罰することよりも、そうした些細な過ちの積み重なりが取り返しのつかない巨悪をもたらしていく恐怖と、それに打ち勝つ奇跡はあり得るのか否かをイーストウッドは今なお模索し続けているように思われるのです。

なお、実話の映画化なので事件の顛末そのものは少し調べればすぐわかることですが、未だに詳細を知らない方はぜひ映画そのものから、無実のリチャード・ジュエルとその周辺の人々がどのような運命をたどっていったかを確認してみてください。

ちなみに、今もネットをぐぐるとリチャード・ジュエルのことをテロリストと誤って誹謗中傷したコメントなどが見受けられるとのことです……。

(文:増當竜也)

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